164 敬意
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
12/14 21:30
トントントン
カンカンカンカン
「ふむ、そうじゃったんか」
カンカン ゴリゴリゴリ カンカンカン
「しかし、ジンは無事で何よりじゃよ そうじゃ、ならばやはり先に」
巫女らとは別れ、先に戻った赤鬼は事の経緯を聞くと早々に保存庫へと向かう
「う~寒い寒い、ルトいたよ~ って、ね~ちょっと~カセンも手伝ってよ~」
入口の扉が開き、箒(ほうき)と黒猫を抱えながらツインテールが店に入って来る
「お~後でのぉ、アルも今日は特別にえぇじゃろ」
「え?何が?」
トントントントン
不思議そうな顔をする少女の横では表情を変えずにドールが壁の補修を行っている
本当に器用なもので入口と勝手口の両扉はもうすっかり直っており、壁の傷も十二分に雨風の影響は出ない程には補修されている
「ほれ、ジンもアルもグラスを持て」
「え? 良いの!?」
少し嬉しそうにジンの顔を見る
「、、そう、だな ちょっとだけ、特別だぞ」
「エバ~は飲めないんかのぉ、どうなんじゃろ? まぁ形だけでも一緒にどうじゃ?」
少し大きな声でドールに向けて声を出す
トントント
呼ばれた事に気付いた様で音が途中で止まると立ち上り、カセンの方を向きカシャカシャと音を鳴らす
「その容器の中身には、水分、エタノール、穀物、、アルコール飲料かしら? 水分の摂取自体が私には必要の無い物なのだけれど?」
「ま~ま~ま~、儀式みたいなもんじゃから」
どこかのエルフの専用グラスを借りドールの手に持たせる
「、、そう」
赤鬼は右手に持つ瓶を傾け各自のグラスへと注ぐ
「美味しい?のかな」
「どうじゃろな~好みもあるじゃろし、んじゃあ ジン」
「あぁ、その ありがとな?」
素直にこういう気の回し方には痛み入る
「お~、アルもエバもジンに続けばえ~からの」
関りの無い者達ではあるが、それは、目の前の関りがあった仲間の為
そして
今もエルフ達と悲しみに暮れているであろう仲間の為にも
「献杯」
丁度同じくらいの時刻
集落に戻ったエルフ達は族長とその仲間の巫女、従者、モーズを中心に円陣を組んでいる
「う~さっみぃ」
「シエル様お静かに」
「ちっ、全員揃うまでどうせしゃべり出さんだろ」
「すまないな、巫女殿疲れているだろうに態々(わざわざ)付き合わせてしまって」
族長のラフィは焚火に薪をくべている
「あ~そうだな、酒がでねぇ~ならもう寝てる所だっつの」
巫女は若いエルフから注がれるや否やもう先に始め出す
「すみませんね、照れ隠しですから、常識が無い訳じゃ~ててて痛いです」
周りのエルフ達に説明するも、従者の脇腹がつねってから捻られる
「ふふふ、本当に仲が良いのだな」
「ぁ?てめぇの目腐ってんじゃね~のか?」
「姫様~揃いましたよっと」
スティルが族長の分を手に持ち、中央へと駆けて来る
「あぁそうか、ありがとう」
グラスを受け取りながら何故かスティルの脇腹をつまみ、周囲を一度ぐるりと見渡す
「え、なんすか? え?」
「遅くに寒空の下すまないな、皆!聞いてくれ!! 大事な事だ」
ラフィの通る声に姿が見えづらい遠目にいる者達も静かに耳を傾けている
「我らの仲間であった賢者、バルが殺された」
!?
一気に辺りがざわつき始めるが
「静まれ、静まれ! 姫様を困らせたいのか!」
オルカの声でピタリと止まる
「ありがとう、あぁ 皆の不安、悲しみ、分かるぞ 痛い程に」
その力強い眼差しからは涙が溢れている
「王子の人柄に憧れた者もいるだろう、その優秀な頭脳に私達は沢山の事を教わった」
流れる族長の涙に、震える声で気丈に振舞う17歳の少女に
胸打たれる者ばかりだ
「必ず、私は、破滅などには負けない! 王子の救おうとした国を、世界を、、救ってみせる だから、、今は、、さよならだ、、、」
・・・
「献杯」
言葉に詰まる少女の代わりに銀髪の少女?が珍しく大きな声を上げる
「献杯」
「献杯」
「献杯」
それに続きぽろぽろと言葉が上がっていく
すすり泣く者、声を上げる者、様々に
故人を思う時間が流れる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます