120 悪寒

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/29 17:20


「う、うぅ い、いて~いてえよ  も、もう勘弁して下さいよ~」


小柄な男が潰れた片方の肩を擦りながらメイドに頭を下げ続けている


「ここを開けてしばらく真っ直ぐ行けば着きますから」


「何を言っとるダメに決まっとるじゃろ、あっしらだけじゃ惚けられて終わりじゃ」

赤毛のメイドはトーンを変えずに淡々と受け答えをしている様に見える


「俺、殺されちゃいますよ」


「それだけの事をしとるからじゃろが! ほれ、さっさと先 入らんか」


「え、まっ     ああああああああ」

マンホールを開けたと思ったら雑に蹴られ下へと落ちる



「はぁ  あ~、ジンは此処で待ってると良い その手じゃ下りれんじゃろ」

溜息を吐きながらジンの方を振り返る


「え!? いやいや何言ってんだよ今更、行くよ! 行くさ~  出来れば速攻で治して欲しいし    さぁ、遠慮せずに担いでくれ」

カセン相手にはもう情けもクソも無い三十路は腹を持てとばかりにゆっくりと腕を上げる


ジンなりに気を利かせたつもりでもある


「お~お~? なんでちょっと偉そうなんじゃ」

赤鬼は察した様に


少しだけ


にっ と口角を上げる







小柄の男を先頭に、一行は下水を道なりに進む



「しっかし、酷い臭いだな~」

腰に巻いていた質の良いジャケットを鼻、口元に縛り直してもらいジンは不思議な格好でびっこを引いている


「くちゃくてたまらんの、鼻がひん曲がりそうじゃ」

メイドもたまらず頭部のカチューシャ、通称餃子で口元を押さえる


「お、俺らは こんな事でもしないと雨の日なんかはこういう所で寝泊まりしなきゃいけね~んだ、貴族さん達には分かんないだろ?」


「お~?急に何を言っとる 全然そういう意味でも何でもないじゃろが」


「そもそも俺ら貴族でも無いんだけどな」



それ程気にもしたくない戯言(ざれごと)


スルーしなかったのはきっと、どこかの巫女の様に言うのなら



『嫌な予感がする』



此処、地下に下りてから悪寒(おかん)がする

首元が寒く、顔に熱を帯びている感じだ


「いや!だけど解決したら貴族の様に高いもんでも食おっか」

ジンは通常である左手で自分の目、頬を少し強めにペシペシとはたきながら冷静を装う


「お~、えぇのぉ ロリ巫女も喜ぶじゃろな」

前を歩くメイドの声は明るい



だが


空気で分かる



カセンもまた嫌な空気に飲まれまいとしているのだろうが


いつもよりも少しだけ


足取りが早い気がする











男の言っていた通りしばらくの間真っ直ぐの道が続く



もう誰も口を開こうとはしない、無言で 延々と前の者の足取りを見つめながら歩く




ガギィィ!




大きな金属音


一度だけ音が、狭い下水中を反響した



「わっ」


「なっ?」


音の出所は


「近い」

カセンが前を歩く男の首を持ち走り出す


「ちょ、早えよ ちょちょちょ」

ジンは少し遅れながらも急ぎめにびっこを引く



突き当りはT字路になっているのが見える


急ぐ振動で手首が痛い


カセンは汚水をぴょんと飛び越え左に曲がる


「はっ、はっ  はぁ? ちょ、無理じゃね」


少し幅の広い溝に足を漬ける覚悟は無く遠回りする






ビリビリする手元の痛みを出来るだけ無視しながら

やっとの思いで赤毛のメイドに追い着く


「はぁ  ど、どぉした?」

足を止めているカセンの目線を辿る




「   え?」




赤鬼の目線の先、すぐ目の前には


見慣れた金髪ショート

エルフの長がへたり込んでいる







































露出した服を真っ赤に染めた状態で

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