121 殺人
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
8/29 17:20
「あ~あ~あ~あ~!」
ツインテールを揺らしながら大急ぎで鍋を上へと持ち上げ軽く覗き込む
「あ~あ、、やっちった」
「え!? 何、どうした?」
表の窓から金髪金眼の青年がキッチンの少女を
「あ~、火 つけてたの?」
困った顔で眺め見る
「う~、バル~どうしよ コレ ジン 絶対怒るよね~」
鍋の底は真っ黒に、中身の亭主特製煮込みから苦い香りが漂う
「なんで離れてたの、、お客さんも折角いるのに~」
「いや離れてたと言うか、居たと言うか ねぇ?」
ここはジンの経営する喫茶店兼、居酒屋 『ギルド』
入口を入ってすぐ右の座敷には今日も人っ子一人おらず
直進してすぐの二人席には珍しく、キジ柄の餅肌少女が背筋良く座っている
その客人は何かを楽しみそうに目をグリグリと大きくしながら
ニコニコ左右に揺れている
「あぁののご、ごっめんね~ 話に夢中でちょっと?焦がしちゃった あ!でもキビちゃん用に焼いてるお魚は無事、、!? あ˝っち! ぁ~ぅ~ん うんうん、大丈夫! 無事だから!?」
ツインテールの少女アルは一人バタバタと手元周りの食材と格闘している
(本当に?)
窓越しでは詳しく状況が見えず
バルは鍛錬を中断すると手を二、三度はたき店の出入口へと急ぐ
「ぁ、ぇ? あの?美味しいの 食べれないです?」
犬の様にクンクンと鼻を効かせる猫耳忍者は不安そうに厨房のアルを見る
「え? いや、いやいやいや だぁいじょうぶ! 大丈夫なのよぉ?」
とある使いでギルドに顔を出した猫忍キビ
本人は「大事な任務でして」と出し惜しみの様にしていたが正直然程(さほど)の事では無い
キビの言う『姉さん』ももを助けた巫女への礼とライアからの使命
「カセンのいるその呑み屋の正確な位置の把握」
なのだが
そんな事など本人、猫には関係無い 全てはついでだ
美味しい物が食べれそう
残念な事にそんな邪(よこしま)な?期待は目の前のツインテールによって見事に砕かれる事になった
「ほぉ~ら、秋刀魚のカリカリ?照り焼き?だよ~」
足をカチカチと鳴らしながらツインテールがお皿を前に出す
苦笑いでも無い
素敵な満面の笑みを浮かべるのだが
「うにゃにゃにゃあ」
ひっくり返るキジ柄と共に真っ黒な子猫が尾っぽをプンプンに膨らませる
8/29 17:40
「ラ、、ラフィ!?」
ジンは赤毛のメイドの目先
真っ赤に染まったエルフを背中から抱く
「 ぁ 」
力無い様子のままにジンの顔に目を向ける
「ジン 殿?」
「大丈夫か?」
折れ曲がった右手の痛みなど気にもせず
凭(もた)れるラフィの柔らかな身体を弄(まさぐ)る
が
「ぇ、ぁ?」
エルフの反応は薄い
「どこ!どこ怪我した!?」
剥いだ服の下
たわわに実った胸元には傷一つ無く
再度
今一度
頭、顔、胸、腹部と優しく触診するが
どうにも怪我をしている様子は無い
「あ れ?」
・・・
後ろのメイドが冷静に声をかける
「ジン」
「それは」
赤鬼が顎で前を示す
「返り血じゃ」
エルフが座り込む先
下水道の突き当り、最奥の角
喉元に短剣が刺さったままの巨漢が座り込んでいる
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