119 猟奇

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/29 17:20


「ほらほら座って、ゆっくりして行きなよ~」


仄暗(ほのぐら)い店の入口を開くとすぐに小さな欠けたテーブルと黴臭(かびくさ)い椅子が二つ程並んでいる


「あ、あののいや その 私はだな」


「良いから良いから~ 今飲み物持って来てあげるから待っててね~」


ラフィは後ろから露出した肩を軽く押され椅子へと座りこむ


「いや!その、長居するつもりは」


エルフの話をまるで聞いていないかの様に巨漢は奥の部屋へと消えて行く



「むむぅ、水を頂けるのは嬉しいが  しかし、、酷い臭いだ」



店内に入ってから一層強くなる臭い

黴(かび)や埃とは別だ

路地に入った時よりも、もっと、、不快な、鉄や錆の様な






いや




分かっていた




ラフィは自ら、意識しない様にしていた



頭が


脳が


殴られたかの様にガンガンと痛む




あぁ




これは












血の匂いだ












ドクドクと激しく血液が駆け巡っているのが分かる

自然と息が切れ、動悸が止まらない


ラフィは胸に手を当て、一度二度三度と大きく深呼吸を繰り返す



はぁ、はぁ



はぁ、はぁ



・・・・・・



「おかしいな、、剣は  抜いて ないぞ」

背中に背負った不釣り合いの剣をテーブルの上に降ろしデコられた飾りを優しく撫でる

「ふぅ  アルが可愛くしてくれたのだ、お前自身 少しは大人しく、可愛くしたらどう、、だ?」

ぐるぐる巻きに巻いてあるベルトの金具に何かが反射する


「む?」

エルフは確認する為に振り向く



その先で










肉切り包丁を振りかぶった男と目が合う










眼を見開き


迫る刃を追いながら 背中に体重を掛け


斜めに飛ぶ




ブオンと空気を切る音がした



その後に



ガジャァァン


ラフィがケースに激突する




「あ~あ~あ~あ~、おっしいな~」


「うっうぅ、何 を、、!?」

体勢を立て直そうと起き上がる

よりも前に二撃目の縦ぶりが振り下ろされる

「くっ」

咄嗟に腰元の短剣を抜き巨漢からの攻撃を受け流し、大剣の方へと転がる


「え?ナニナニ?今の何~    ね~えぇ!」

床へと刺さった刃先を勢いよく引き抜き、再び大きく縦に振りかぶるとそのまま体重を乗せラフィ目掛けて飛び込む




ガギャァン!




大剣で身を守り

すぐに追撃が来ない様に後ろへと飛び

近くの椅子、机を薙ぎ払う




「ふぅ、も~なんだよ~!」


「いやいや!貴様こそなんなんだ? いきなり襲い掛かって来て」

ラフィは目線を逸らさずに短剣を腰元に納め、大剣を構え直す


可愛く?デコられた飾りは剥がれ落ち

固定されたベルトも千切れてはいるが、、鞘は抜かない



「ふぅ、ふぅ キミ 何?何者?」

肥満の男は機敏に動いていた割に体力が無いのか横の棚を掴みながら肩で呼吸をしている

「可愛い顔してるけど、もしかして騎士の人?」


「、、もしかして? 誘拐犯か?」


ここでもエルフの会話は成り立たない


「はぁ、嫌だな~折角あの子を綺麗にした所なんだからさ~ 邪魔 しないでよ!」


掴んでいた棚を勢い良く倒すと部屋中に埃が一気に舞い

その隙に男は奥の部屋へと駆け出す


「むあっぷ ま、まてぇ」

ラフィは一度大剣を大きく回し換気するとすぐさま後を追う


のだが


三つ程行った一番奥の部屋に踏み入った所で自然と足が止まる



解体された肉塊、濁った水溜まりと血生臭さ


それだけなら猪を綺麗に食料として解体出来るラフィには大した事が無いのだろう



作業台の上や幾つかのケース

コレクションの様に並べられているのは







「、、ぅ   ぁ」






生きているのかも分からない




呼吸だけをする残骸





幾つもの生首





はたまた




皮の剥がれた、手足の無い塊






顔が無い、恐らく女性だった様な物






焼き爛れた跡のある小さな右腕






まるで地獄絵図


何とも言えない無慈悲な光景に





ゾクゾクと



いや


沸々、グツグツと沸き上がる 吐き気、鳥肌、感情



腹の底が熱くなる





「なん て、、事」





涙の溢れる瞳を強く瞑り


割れそうな程歯を食いしばり


エルフは消えた男を探す



強い臭いのする中、それでも元を辿り


地下に繋がる道を発見する



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