117 痛覚

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/29 16:20


「くく、何かと思ったら はっはは、腹いて~」

男は人差し指を向け腹を抱える


しかしメイドはそんな事を気にもせず、ゆっくりと三十路を地に降ろす


「平気かの?」


「あ、あぁ痛っつつつ  何とか 助かったよ」

おっかなびっくり足を着け 頭、頬を擦る


「お~こりゃ酷い、おててが逆向いとるぞ?」


「いっ、ぐぐぐ 早いとこ 直してもらいて~よぉ」

申し訳無いとは思うが自然と涙目になり、情けない声が出る


「間に合って良かった 本当に」


眉を下げながら笑って見せるメイドは向きを変え

ゆっくりと両手をグーパーグーパー開いて閉じてを繰り返し

男を見る



「、、あぁん? その様子じゃ通りすがりのメイドさんって訳じゃ無さそうだな」

先程まで声高に笑っていた様子とは打って変わり、目を細め用心深く観察を始めている


「通りすがりのメイドさんじゃよ、出来るだけ加減するつもりで行くが 気持ち的にの、、やり過ぎても恨むでないぞ」


「カセンそいつ! 普通じゃないから いでぃでぃ  気をつけて」

逆向きの右手首を振動で響かない様、左手で抱く


「ふ~ん、アンタも高く売れそうだが」

男は腰元を探り

「慎重派なんでね」

ベルト部分を擦った後に自分の足元へ向け、思い切り振りかぶる



バァン!



大きな音がした途端に凄い勢いで煙が噴射する

立て続けに四、五回程同じ様な音がすると臭いも一緒に漂って来る





煙玉、煙幕である





「発煙筒!? アイツ!逃げる気だ」

ジンが叫ぶ



(この辺の地形で逃げれね~訳がねぇ)

男は地を這う様な体制でゆっくりと後退する




ドオオオオオオオン!!!




先程の大きな癇癪玉(かんしゃくだま)の様な音とは比にならない轟音が鳴る



(な、なんだ!?)

周りを見渡すが見えるはずも無く

足元が勢い良く崩れ出す、近場の物を即座に掴むがソレもボロボロと下に落ちてゆく

下、、下と言うものが自分が撒いた煙幕のせいで分からなくなっているが重力で落ちているのだけは分かる




崩れ出し?




いや  違う




落ちながら分かった事は




自分の足元に合ったモノ







そうだ





自分の足元にあった床が、建物の一部が消滅した





ゴォオオォ





男はすぐ下の階?に落ちただけなので大した怪我も無く、四つん這いに着地し ポカンとしている



「こうしたら煙も意味ないじゃろ」


「  は?」

間の抜けた声を出しながら後ろから歩いて来るメイドを見る


「逃がす訳がなかろぉ?」

カセンは猫を掴む様に男の首根っこを持つ


(え、何 だ  爆発?)


理解出来るハズも無かった




何て事は無い


男はジンとカセンの一つ上の階で煙幕を放った

なので

赤毛のメイドがその下の階を思い切り殴りつけた


ただそれだけだ



だるま落としの様に綺麗に横にズレる事は無く

それはもう字の如く 衝撃で、風圧で、、木端微塵である




「ざっけんな!」

男は咄嗟に身体を捻りメイドの顔面目掛け右の拳を放つ


バキン


攻撃はメイドの顔まで届く事は無く


右拳の上からカセンの左拳が叩き付けられ腕が違う方向に曲がる

「ジンとお揃いじゃの?」


「くっそがー」

腰を捻り左足が前に出る


がこれも届く事は無い


「往生際が悪いのぉ」

掴んでいた首をそのまま床に強く押し付け男は地に顔を着ける形となる

「どうせもう逃げられんぞ、洗い浚(ざら)い吐いてもらおうかの?」

まだ自由な男の左腕を背中で固め背中に乗る


「ちっ、化物かよ」


「少女は何処じゃ?」


「知らねぇな」


「頑固じゃの~」


ボキンと音がすると男の左腕がだらんと床に落ちる


「次は足行くぞぃ?」


「好きにしろ」



(コヤツ、声一つ上げんとは   感覚が無いのか)


カセンは男の腰元の荷物を剥ぎ取ると逆さに傾け中身をばら撒く


中には先程の煙玉が数個、本人の財布とジンの財布

それと


「薬物、、か 切れたら後でいててじゃぞ?」


よくよく見れば折れた両方の手の甲にも新しい傷がある

シエルが右手を、ジンが左手を刺した跡だ


(薬物が切れるまで待っても正気では無いじゃろ、どうしたもんか、、)



「カセーン」

ジンがびっこを引きながら近づき財布を回収する




「あっち、下にもう一人いる!」





小柄な男が建物の隙間から顔を出している



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