116 奇法

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/29 16:10


「こぉんばぁんわぁああ」



「こぉおんばああんわぁああ」



はぁ、はぁ



「こぉおおんばああああんわぁああ」



少し高い建物の屋上で三十路の男が一人叫ぶ


別に誰かへの挨拶をしている訳でも大声選手権大会を開催している訳でも無い

仮にもしそうなのであれば一人で開催しているので優勝、もしくは中止になるだろう



(絶対 明日 声ひでぇな)



はぁ、、すぅ



「こぉおおおんばぁあん  わぁああぁあーーー」


「うっせーよ! てめぇ何やってんだコラ!」

体躯の良い柄の悪い男が少し下から見上げている


(やっぱり来たか)



はぁ、はぁ



「こぉん」

「うっせーつってんだろが!!」

転がる礫(つぶて)を拾い、ジンへと投げつける


「っいっづ」

右横脛付近に当たりそのまま肘にも被弾した





「んんっの˝ぉ  おおおぉんばあんわあぁぁ」

痛みのある個所を気にしない様に一度噛み締め、涙目で叫ぶ



・・・



「は?なんなの?  きめぇんだけど、普通のやつじゃない系?」

柄の悪い男は少し間を置いた後にイラついた態度を見せると上へと登れそうな箇所へ手を伸ばし

「くっそめんどくせぇ   金は 持ってん だろうな」

その体躯を活かしテンポ良くジンの元へと上がって来る





「こおんばぁん」


男の手が足元まで来るのを待ち


「わああああ!」

その左手を先程回収したナイフで突き、腰を落とし

「だらぁ」

額目掛け右足で踏み込む


踵(かかと)を利用し鼻を重点的に踏み込む


踏み込む、踏み込む! 踏み込む!!



バル先生直伝 【その二、オカシイフリで意表を突く】



何度も何度も



地団駄を踏む様に体重をかける











の、だが


(、、やっばい か?)



男の手が離れない



それだけで、素人

一般人のジンにも分かる



(くっそ)

咄嗟に手の甲からナイフを引き抜き、遠くへと投げ捨てる

と同時に

「やってくれんな~  おい!」

男の手が右足首を掴み強く引く


ジンの身体は軽々と引かれ 建物の縁に尻を打ちつける


「いっつ ぎぎぎ、っくぅ!」

そのまま両手で縁を掴み踏ん張るも、重みに耐えられず落下する



バチン!



投げ捨てられる形となり一つ下の建物へ叩きつけられた


上手く受け身が取れるはずも無く

その音と別に手元から綺麗に骨が折れる音がした


「うっいっぐうぅああああ」

すぐに立ち上がろうと試みるが



激痛



頭部を守ろうと両手を顔の前に出した

運良く腹は打たず

同時に着いた足がヒビでもイったかのようにビクリと反応する


(急いで逃げないと)

もう片方の足に力を込める




ジンは決して、裏技その二で勝とうとした訳では無い


(さっきみたいなヤツと違う)


ナイフで刺してピクリとも動かなかった、その段階でオカシイとは気づいた

顔を何度も蹴られて平気な奴が何処にいるだろうか


(コイツは)



(普通の種類じゃないヤツだ)



歯を食いしばり急ぎめに跛行(はこう)するが降って来た男に背中を殴られ腹を地に着ける


「あぁっ!ぐあ」


「てめぇ! 普通あんな手使わね~だろが! 目的は何だ?  あ!? どこまで知ってる!!」


ジンは髪を捕まれ、頬を二度程殴られるとブチブチ音を鳴らしながら宙を往復する


「ぶぐ、、ぶぅ!    っのやろぉ!」

切れた口元の血液を顔面に吐き掛け、隙をついて目でも突いてやろうと思った


のだが


男の目の前まで上げた右腕の先端は思っていた方向を向いておらず、力無い手首で相手の顔を撫でる


「あ?    いっ! いい˝あぁぁ」

ソレを見た脳がビリビリと痛覚を反応させる


「きったねぇ、、なんだよ思ったより持ってね~じゃね~か」

財布を奪って開くも期待と違い眉を寄せ

「ちっ!この際身代金だ、すぐ持って来い騎士共に言ってる暇ねぇぞ!?」

次の下の建物へとジンを投げ捨てる





(やべぇ 今度は受け身  取らないと)

放られた先を目で追い、残った左手を構える





「ははっ、さっさとしないと売り場に娘が並ぶ、、ぞ?」





捨てた先に三十路の男は倒れておらず













「娘が」




















「なんじゃて?」






赤毛のメイドが睨み付けている



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