90 雷音

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい。



8/23 15:30


一行が城内各所の魔物を駆逐して巡り

1時間程が過ぎた



「粗方殲滅しましたね?」

従者が得物を振り、先端に付いた血液を払う


「これだけ暴れまわっても顔を出さないとなると、、大物なんですかね」

バルは後ろで座り込むリッツをチラリと確認した後に巫女を見る


「魔力自体はそんなに高い訳じゃないが、どうだかな  あの部屋だ、、何なら赤鬼 様子見て来い」

カセンに顎でサインを送る


「お~構わんが、もう少しくらい頼み方ってものがあると思うんじゃが、、」

カセンは一度髪を結い直し気合を入れる


「気をつけて!」

アルは近くで身振り手振りするエルフの頬を掌で押す


「む、むきゅ  こ、後方支援は 任せてくれ」

雑に押され 顔を振った後にしっかりと矢筒を整える



「うっし、では拝見とするかの」



ドアを蹴破りそのままの勢いで中へ飛び入る



・・・



「お、お~?」


「 む ぅ?」




カセンが入ってすぐにラフィも矢を構えながら部屋へと入るが、、矢先を地へと向ける




「あ~んと~、巫女や」

赤鬼が小首を傾げながら手招きをし

「なんか可愛いのがおるんじゃが」

珍妙な事を言い出した


「ぁ?」


リッツは置いたままに一同は部屋の中へと移動する

内部は旧王族の部屋だろうか、少し広めの部屋だがあるのは酷く汚れたキングサイズのベットだけだ


そのサイズに似合わない、背丈がシエルより少し高いくらいの子供が横たわっている

髪は伸びたい放題と言う様な野生児カットで白髪に黒いメッシュの様な柄、頭には犬の様な耳が見える


「獣人族、、ですね」


それと、モフモフとした大きな尻尾


「こんな所に!?子供一人で?」

従者の言葉にアルが反射で声を出す


「うっ、うぅ  う!?」

その声に反応したのか苦痛そうに銀色の瞳を開けると飛びあがり、大きく息を吸い込む




ガアァアアアアアアアアア!




ピシ、ミシ  パァアン!


パン!  パァアン!



ライオンの様な咆哮が鳴り響き部屋中の窓が次々と割れる



「わ~、ごめんごめ~ん」


「!!」


一同は咄嗟に耳を塞ぐ


「うるせぇ 押さえつけろ!」


「わぁ~かっとる」

カセンがベットに飛び乗るが一歩遅く、割れた窓から身を投げる


「ちょ! ここ4階」

バルが窓の外の姿を追う



勢いよく飛び出した子供は落下しながらも体勢を立て直すと

見る見るうちに狼の様な形に姿を変える

「な!?」


通常の獣人族は変身や変化等はせず、、ましてや




ゴゴォゴガアァアアアアアアアアア!!!




ソレは落下しながらも大きさが変わらない、いや倍以上の音量

まるで目の前に雷が落ちた感覚  字の如く雷音である



「っつ!」

バルは咄嗟、部屋の方へと戻り耳を塞ぐ






一同は1分程動けずに部屋を出れずにいた



「逃げられ  ました」

従者が窓の方を見るがもはや何もいない、近くの木々が数メートル激しく倒れている為『逃げた』と言う事だけは分かる


「ちっ、あんのガキ」

巫女が目をぱちくりとしながら周囲の様子を見る


「お~、元気な子じゃったの~」

カセンも同じく何度か瞬きをして首を振る


「モー、、ムブ  バ、バルーだ、ダイジョウブカ?」

バルは先程アルがしたように一瞬だけエルフの頬を掌で押す

「危なかったよ、あのまま追っていたら恐らく鼓膜が破れてたと思う」



いつも通り少し変なエルフの事は誰も気にせず、一同は部屋を出ると商人リッツと目が合う



「お目覚めですか?」

従者が先に一声かける


「あ~、おはようございます?  何か凄い音で目が冴えましたよ~、討伐!完了ですか?」

事態を理解出来ていないが早く帰りたそうなのは分かる


「魔物自体はいなくなったんだから討伐~、、完了だよね?」

アルが巫女を見る


「どう見ても根源はあのガキだ、失敗だよ失敗」


「え、待って? それって もしかして  報酬は?」



「無いな」




「いやあああ~」




ツインテールが右に左に揺れる

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