42 餞別

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/15 18:40


「巫女様達、帰ってこないね」


人の少なくなった聖堂の庭園にポツンと座り込むのは弟の方だ


「・・・」

姉はすぐ後ろで虚空(こくう)を見つめている



「変な人だったよね」


「そう   ね」






「姉ちゃん 姉ちゃんがもし   その 死ん じゃったら  俺、、」

好きで間を置く訳でも無く、何度も何度も言葉を飲みこむ

「、、いや   俺も」



「・・・」



「もう   ダメ な˝のかなぁ」


「   ごめんね」

生気の無い冷ややかな瞳が弟を見下ろす



「あぁん!?お前らなんて顔してんだ?   気持ち悪い」

汚い言葉を吐き出し、明らかに引いた顔をした


巫女様の登場である


「お待たせ、ごめんね~結構時間かかっちゃった 野菜をもらって来たから一緒にご飯食べようか?」

袋を片手に従者が手を振る


「あ、あぁ いえ、もう 俺達」


「うるせぇさっさとしろ! こちとら腹ペコだ」

片手に持つキュウリを齧りながらギロリと睨む








「ジジィ、こいつ等をテーブルまで案内しとけ」


「おや?可愛いお客さんだね」

と言う神父ゼブラの台詞を無視すると巫女は一度部屋へと戻った

従者も軽く声を掛け終えると早々に奥へと引っ込み、火を焚き、調理を始める


少しフリー過ぎる扱い

姉弟は慌てるかの様に神父へ挨拶を交わし、聖堂奥の食卓へと向かう






そして






「さてと、大抵話は付いたから後はお前ら次第だ」


「え?」


何かを持ってきたシエルが席に着くと一気に話を始める


「働き口を見つけて来た、世界一可愛いシエル様と違って地味だが若いからなそこそこ良い額で雇うそうだ、歳は18と誤魔化してある ドレス着て喋るだけだ、スケベなオヤジも多く来るだろうが適当にあしらえ」


「え、え??」


「え、いや ちょっと待って下さい! 姉ちゃんだけ、そんな店で」


「あ? てめぇも働くんだよ、16って事にしてある 朝は畑仕事、夕方からは同じ店で仕込みだ  二人共同部屋で住み込み、狭いから持ち込み禁止、食ったらすぐ向かうぞ」


「!?」


戸惑う二人を余所(よそ)に巫女は要件のみを淡々と語り続ける


「書類は書いといてやったし父親に了承は取った   あと両親共に殺した」

「え!?」

衝撃的な事をあっさりと伝えられ反応で声が出た


「いやいやいやいや待って待って待って、端折り過ぎですって!」

おたまを持って慌てた従者が顔を出す


「正しくは亡くなった事にしたの、届けも出して相続拒否したから借金取りから何かされる事はもう無いよ」


「個人的になんかして来たら亭主に言え、元騎士だチンピラには負けないだろう   両親の事は余裕が出来てから自分らで動いてなんとかするんだな」





・・・・・・





やっと整理出来たのか


弟が急ぎ、口を開く


「や、やります! やろう、やろうよ姉ちゃん!」


「やるやらないは聞いてない、決定事項だ  お前ら次第っつったのは逃げ出すかどうかって意味だボケ」



「、、で でも、私  ドレスなんて」


「餞別だ、くれてやる」

巫女は部屋から持って来た物を、それはそれは無造作に投げる


「シエル!ちょ、ソレは!」

神父ゼブラは雑に抛(ほう)られたソレを目の当たりにし、、目を丸くする


「んだコラ? 私への献上物なんだろ?」


「こんな、高価な」


「てめぇもいちいちうるせぇ! さっさと金貯めて代わりに酒でも持って来い」





張り詰めていた何かが  切れた





「う、、うぁ ああ   あ、、あああぁぁぁん」

生気の失われていた瞳から大粒の涙が零れる

「あ  りが、とう    ありがどうございま  す!」


「姉ちゃん!  姉ちゃぁああん  良かった、良かったぁねええ」





大きな声で泣く幼い姉弟

二人から止めどなく流れ出る全ての言葉は歓喜そのものであった





「さぁ、出来ましたよ お粗末ではありますが食べて体力をつけて下さい」

30分程、タイミングを待っていた従者が温め直したスープを持って来る


「おっせぇ!殺すぞ! 残ってるキュウリも全部持って来い!」



、、台無しである






一同は従者の作ったシンプルなスープを飲み干すと馬車へと向かう






鬼気迫る様子は もう無い



「では自分がお店まで送って来ますね」

従者は運転席へと腰かける


「巫女様! 俺、頑張ってお金貯めてお酒いっぱい持って来るから」

腫れた目を擦りながらガッツポーズを見せつける


「本当に、ありがとうございました  もう一度だけ、頑張ってみます」

ドレスを抱くその手にはしっかりと力が込められている


「はっ、忙しくて死んでる暇が無いだろうしな、、おい  両手出せ」


「え? あ、はい」

ドレスを膝の上に乗せ両手を巫女の前へ出す


「ソレ着るのには邪魔だからな」

シエルは両手首を優しく掴み


ゆっくりと発光する


「す、すごい」


一瞬で傷跡が無くなり、綺麗な、元の姿へと戻った


「二度目は無いと思え」


何度も頭を下げる二人を背に巫女は手も挙げず、自室へと歩き出す











「私にもお前程の力があればその右腕も綺麗にしてあげられるのにね」

神父はうつ伏せの巫女に手を当て微弱な治癒を行う


「あ? 気にすんな、そんな事よりジジィにはやってもらう事が山程あるからな」




「えぇ、なんか嫌な予感しかしないねぇ」


神父は肩を二、三度回し


苦笑いを浮かべる

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