25 焼跡

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



8/13 22:30


「え    !?」


運転中の従者は少し前の情景の急激な変化に眼を見開くと急いで周囲を見渡す


その位置はまだ後方、港町の明かりが微かに届くくらいの所

ギルドまでまだ一時間程の場所だ


急いで馬車を止めると耳に意識を寄せる



・・・



(何も、いない? か)


静寂

この時間に都市でもない離れた場所へ移動するのは珍しい事だ

明かりも王都の方が頼りになるだけでギルドがある村の小さな明かりはまだ見えない


のだが


「ん、なにかあったかの?」

赤鬼がゆっくりと荷台から顔を出す


「えぇ、、巨大な『何か』は居たのかもしれません」


「お~!! なんじゃこりゃあ!」



港町とギルドの中間程の場所


まるで山や恐竜、巨人か何かが剣でも振ったかの様な痕跡


大地が割れ裂けている




「どうなんです? 規格外の貴女が本気でやったら出来る感じですか?」


「お~?なんじゃ? 喧嘩売っとるのか?」

赤鬼は口をぷくっと膨らませてみせる


シフは断じて茶化した訳では無い


もしかしたらまだ近くにいる『何か』に対抗出来るのかどうかの確認をしたのだ



従者は馬車から降りると裂け目に近づき様子を伺う

(焼けている?跡からすると何時間も前  か?)



「お~い!   これってあのクモの部品かなんかじゃないかの?」

カセンは焼け跡に下りるといくつかのネジやらなんやらを拾い戻って来る


「貴女は、、本当に怖いもの無いんじゃないですか? そんな躊躇せずに下ります?」

シフは半分呆れ顔だがその行動に少し安堵を覚える


「まだ奥の方はグツグツ言うとったぞ? 鉄の板でも作っとるんかの?」


「グツグツってシチューとかの類じゃないですよね、、なんで結構余裕なんです? 何と言うか、流石としか言えませんが     申し訳無いですが一度シエル様を起こして調べましょうか?」


「ん~ん? あ~起こさなくてもよさそうじゃよ  ほれ」

赤鬼が馬車を指差す



巫女は荷台から運転席側に顔を出して様子を見ていたらしく

気だるそうに馬車から降りると、明らかに不機嫌そうな歩き方でこちらへと向かって来る



・・・



「意味不明に八つ当たりはしないで下さいね?」


「あ?」


「可愛い顔が台無しじゃぞ?」


「くそ、あったまいて~   何時だ?」

巫女は二日酔いのオジサンの様に自分の肩を揉みながら首を回す


「22時 4~50分くらいでしょうか?  火事は早々に片付いたのでギルドへ急いで帰っている所に   この跡です」


「、、、早過ぎないか?」

少し考えてから眉間にしわを寄せる


「えぇ、火事の方はエルフに助けられまして」


「エルフ? ふ~ん   で なんだコレ?またそこの半裸がやったのか?」


「あ~今はたしかに半裸じゃが、、って!しょうがないじゃろ  正確には一枚羽織っておるんじゃが」

ボロボロではあるが上着はしっかりシフの物を羽織っている


「はいはいうっせぇうっせぇ 気持ちも悪いんだキャンキャン喋んな」


「ぬーん」

(じゃあなんで煽ったんじゃ?)


「は~、赤鬼の仕業じゃないとなるとそろそろ本気の化け物じゃね~か  魔力感知だけしとくか?」



・・・・・・



「魔力は一切感じないな とりあえず帰  」

シエルは詠唱を終えるとふらふらとよろけ、そのまましゃがみこんでしまう


「シエル様!?」


「いい、いい 気持ち悪いだけだから近寄るな 吐くぞ?」

下を向いたまま片手で追い払う素振りをする



「おぶりますから 落ち着いたら乗って下さい」

従者は後ろを向いてしゃがみ込み主を待つ



「はっ、背中でぶちまけるぞ」


(お~ラブラブじゃの?)

「あ!あの兄ちゃんから酒と一緒に飲み薬をもらってあるから持って来るぞ」

カセンはそう言うと馬車の方へと駆け出す




「、、なぁ」

巫女が従者の背中にぐでっとおぶさる


「はい?」

首元に腕を回し終えたのを確認しゆっくりと立ち上がる


「中身治しはしたけど、なんでアイツあんなに動けんだ」


「、、もしギルドの方でも何かいたら全部任せましょうか?」



カセンの体力に若干ヒきながらも二人は馬車へと向かう











8/14 24:00










「お前らおっそいわ! シチューも冷めるっつの! こちとらもう寝ようかと思ってたんだぞ?  カセンは何その格好?薄着にも程があるでしょ、流行りなの!?」

ギルドのマスターは一行の苦労も知らずに鍋を温めなおしている




「くそ、ボケが」


「ははは、何もなくて良かったですよ」


「損した気分じゃの」



「え!?なに?  食べないの!?」

マスターに決して悪気がある訳では無い


「食うに決まってんだろが」

おぶられてた巫女が瞬時にカウンター前へと腰かける


「は~、つっかれたわい  ジン こっちに酒も持ってこい! ギンギンに冷えてるやつ」

巫女の隣のいつもの席に赤鬼が雑に座る


「あははは、自分にも下さい 今日は頂きたい気分です」

鬼とは反対側の巫女の隣に従者が腰かける



「え、何? 何??  なんかあったの?   持って来るけどさ、金あんの?  あとカセンは一回お風呂入っちゃいなさい」

なんだか三人の母親になった様な気分だ


「嫌じゃ!先に飲む!」


「こっちもさっさと持ってこい」






こうして


長い夜はもう少しだけ続いた

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