13 才能
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
4/13 16:50 【本パート】
到着してからの事は飛び飛びにしか覚えていない
転がる血肉
何度も吐いた
足が震える
目が霞む
先に到着していた討伐隊の半分は俺と同じ状態だった
村までの道中、所々に放たれた火の魔法と火矢によってボヤ騒ぎになった
それは王都からもすぐ分かった様で応援が続々と到着した
後半は いや、どうだったか キーロが呼んだのか、、
建物はほぼ壊滅
何匹、いや? 何体? いたのかは分からないがあっという間に異形の魔物はいなくなった
討伐隊、騎士達の被害はほぼ軽症、何人か深手の者はあれど死者はゼロ
ほとんどをカセンがやったらしく 到着した騎士達は称賛していた
当のカセンも無傷ではないのだが治療などせずに半壊している元『アイリの店』で一人酒を呑んでいる
心臓がずっとうるさい
頭が痛い
何も役に立てない俺は震える足で生存者を探した
世話になったハズのあの家族を
ツインテールの店員を
何度も同じ場所を行き来し、力の入らない手で瓦礫を掘る
夢であるように祈りながら
生存者はいない ゼロ らしい
ウルは入り口で
アイリは店で
リィンは見張り台付近で
ルトリさんは確認が取れない
確認の取れない人間は5人程
バラバラにされてしまった者、食われた者と判断された
「おい、お前」
「おい! てめぇだ」
音のする方に顔をあげるとオレンジ色のハネた髪の青年が血塗れの銀髪少女を背負っている
「、、、 ぇ?」
声にならない声でかろうじて返事をする
「お前、村のやつじゃないよな? 悲壮感まみれで気持ち悪いぞ」
「 な、、何、」
強い言葉に反射で反応だけする
「、、はぁ」
少女は溜息をつくと小さな左手で頬を撫でる
「私は王都大聖堂の巫女だ、供養の邪魔だから帰れ」
優しく撫でる左手とは真逆な鋭い眼光と刺す言葉を投げつける
「大聖堂の巫女? 大聖堂?」
何も考えられない
巫女には何が出来るのだろう
「はぁ おい! 別から周るぞ」
巫女は肘で従者を雑に押す
「いでで痛いです 痛いです」
離れて行くのが 光 の様な気がした
「あ!? ま!! 待って」
「あ?」
血塗れの少女はこちらを見ないで不愛想な返事だけをする
「待って! 下さい!! 俺の! 俺の魔法の才を見て下さい」
何も考えずに言葉が出た
「は? 嫌だよ」
「お願いします お願いします お願いします」
無我夢中だった 藁にもすがる思いだった
「お願いします! お願いします!!」
「うるせ~よ 離せ! いってぇ」
「なんとか! お願いします すいません、お願いします!」
知らないうちに少女の腕を力いっぱい掴んでいた
「、、、っ くそが あ~じゃあ金出せ! 110万だ 今すぐ」
「え? シエル様!? ぐあ」
「てめぇは喋んな」
驚いた従者が声をかけるがまたも肘で押される
「あ あ、ります!」
ずっと忘れていた背中の赤いリュックが一気に重さを表す
「、、マジかよ」
「シエル様! せめて別の日に いてて」
「だから喋んなって」
従者の心配を他所に話を続ける
「見た感じでも魔力なんて無いだろお前 意味が分からん どんな結果でも知らんぞ」
「お願いします!」
それしか言えなかった
それしかなかった すぐにリュックから紙幣を取り出した
「、、、はぁ なんなんだよ じゃあ! 手 合わせろ」
血塗れの小さな手がゆっくり前に出る
少女の手の平から体温はほぼ感じられず氷のように冷たい
しばらくすると巫女は眉を細めた後気丈に声を張る
「あ~、やっぱりな」
「どうでしょう!?」
食い入る様に目を見開く
「無いよ」
「あ、、え、」
「いや 無いよ」
「才能もクソも無い 残念だったな、約束通り金はもらってくわ」
「そ、んな、」
「言っておくけど詐欺じゃないからな?」
そう言うと問答無用に紙幣を奪い離れていく
「シエル様~、いつもならお金なんて詰まれても見ないのになんで?」
「うるせ~」
「瀕死状態なのにあんな事にまで魔力使って、死んじゃいますよ!」
「うるせ~」
もう小突く力さえ残っていない両腕は従者の首元に引っ掛けるだけで精一杯な程衰弱しているのが分かる
「、、、引っかかるんだよ」
小さな声でつぶやく
「え!一目惚れですか!?」
「殺すぞ」
(私もこんな悪夢の様な情景で希望を持ちたかったのかもしれない)
シエルが奪った? 110万は討伐隊11人に全て支払われた
当人達は流石に受け取らず部隊は辞退させて欲しいという話になったので解散したが報酬はしっかりと持たされた
4/27 15:30
『あの日』から2週間程が経った
供養を済ませ、合同墓を建て 現在復興中である
自ら志願し慣れない肉体労働をしながら宿舎で過ごしている
復興志願者には簡易的な衣食住が与えられるので今の俺にはありがたかった
何も考えなくて良いのは本当にありがたい
しかし、中々にハードである
(今日も筋肉痛が酷いな)
本日の仕事はどこだかから運ばれてきたなんだかって言う材料を延々と運ぶ作業だ
深く考えずに済むのだが20キロ程のソレが後半になればなるほど何倍にも感じられる
まだ夕方にならない程度だが今日の仕事は終わった
(明日は一斉清掃だけで何もないんだったっけ? あ~ビール飲みて~)
宿舎で軽く着替えを済ませ ふと懐かしい一杯を思い出す
(能力も無い、魔法の才も無い、、か 俺は何の為に)
時間が出来ると考えてしまう
(あ~、くそ キーロの所にでも言って酒でも誘うか)
ルトリ家の大黒柱ダンクは供養を済ませた後に工房へ戻った
工房自体は閉じているらしいが、、、
長男キーロはこっちに志願者として残った
足が悪いのだが頭を使う設計、計算側で活躍している 大したものだ
(俺なんかよりずっとキツイ状況のハズなんだ ずっとずっと、、、)
「よう、キーロ こっちは仕事終わったんだけどそっちはどんな感じ?」
事務所のドアを開けると何人かで話をしている
「あぁぁ、すいませんでした、まだお邪魔でしたね」
そっとドアを閉め戻ろうとする
「ジンさん 平気ですよ、雑談なので どうしました?」
キーロが咄嗟に呼び掛けてくれる
「あ~いや~さ、仕事終わったから たまには酒でも飲みたいなと思って 一緒に どうかな?」
(奢ってやるくらいしか出来ないが)
「、、、こっちも片付いてはいますが」
キーロの目の下のクマが酷い
「じゃあ行こうぜ お兄さんが奢ってやるからさ」
(今は何かをしてあげる方になりたい)
「えぇ あぁ そうですね分かりました、良いですよ」
軽く微笑むが顔にはもちろん疲れが出ている
「本当に大丈夫か? ゆっくり寝た方が良い? か?」
「いえいえ、誰かといる方が気が楽ですし」
「うん そうだよな じゃあ うん!行こうぜ」
(そう 誰かといた方が良いに決まってる)
二人は旧アイリの店に足を運ぶ
志願者や復興部隊の為に食事処として一番最初にリフォームされたのだ
「さて! 今日は配給飯じゃないやつ食おう 奢りだ奢り」
「いやいや、大丈夫ですよ僕も多少持って来てますから」
「良いんだよ! 年上に任せなさい あ、すいません!」
配給で来ている犬耳のおばちゃんを呼び止める
(ケモミミは可愛い子のみだと思っていた時期がぼくにもありました いや、そんな事よりも)
「お肉だな 焼肉定食 肉は増し増しで あとビールを」
「3つ」
聞き覚えのある声がする
「え?」
「3つじゃ!」
「お、おま」
「カカカ、まだ奢り足りてなかったじゃろ?」
真っ赤な髪の大酒飲みだ
「あ、カセンさんお久しぶりです」
キーロが自然と挨拶に入る
「はぁ~、まぁ良いけどさ あ、じゃあ3つお願いします あと!今ある中で一番キッツイお酒用意しておいてもらえます?」
じゃないとキリがないからな!
「お~キーロも久しぶりじゃのう」
狭い二人掛けの机の横に勝手に椅子を持って来る
まぁ椅子と呼べる程のモノなど今は無いのだが
「くあああつっかれたのう」
背もたれの無い状態で思い切り身体を反る
(いや、筋肉痛続きの俺が言いたいんだけどね)
「何、しばらく見なかったけどカセンはどこで何してたんだ?」
『あの日』半壊の中あるだけ酒を飲み干した後の事を俺は知らない 覚えていない
「あ~、なぁに城に呼び出されてのぉ」
「聞きましたよ、武功が評価されてお誘い受けたとか? 勲章が支給されたとか?」
(え、肉体労働の人だけですか? 知らなかったのは)
「お~ ん~まぁ~そぉなんじゃがな」
いつも言う事を言う彼女なのだがイマイチパッと喋らない
「良いんじゃないの? 騎士様? 知らないけど良い所勤めみたいな? あ、来た来たとりあえず 献杯」
(俺の頭の中でのイメージでは公務員? みたいなものである)
「あぁ、うむ、頂くとするぞ」
「えぇ、ではご馳走になりますね」
カツンと小さく音がする
「う~む、あっしだけなのか分からんのじゃがのぉ さっぱり何を言ってるのか分からなくてのぉ」
「あ~そういうのってアレじゃん? 場所が場所だし小難しい事も言うものなんじゃないの?」
営業先の社長の前とかたまに自分でも意味分からない事言ってるもんだしな
「ん~なんじゃったか 騎士道精神がナイトの心を持つとメンタルが?」
「は?」
(何その頭痛が痛いみたいなの)
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