12 虚言

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



4/13 16:30


(残り10分ってところか)


巫女シエルは思考する


敵味方の区別が無いのならこいつ等はどこから来た?

運ばれてきた?

少なくても30~50体  行列が出来る、そんなの目立つ筈、被害の大きさ的にありえない

ここで生まれた?

死者が徘徊する町があるとか聞いた事がある、、巫女様的立場では考えたくもないな

召喚、、これも聞いた事はある、がわざわざ高等技術で? こんな小さなところに? こんな事の為に?



いや、まずはいるであろう『黒幕』を捕らえる事が先決か

どっちだ 安全な所?  それとも



ドガン! ゴシャ!

グシャ   ボン!!

ドカン!! ガシャア、バチャア!

バン! ガチャン!



急な爆発音、破壊音、破裂音が鳴り響く

と言うよりも



鳴りやまない



(今度は何だ?)

シエルは瞬時に感知魔法の詠唱を行う


(、、高い魔力持ち、入口の方か?)


巫女は魔力を『視る』事が出来る

魔力の有無、才能を見てもらえると噂が広まったのはこの能力のせいだ



(ちっ、また戻るのか)

中央の食事処を出てから高台を探し今は村の端、奥角にあたる見張り台宿舎まで来ていた


(全体を見渡せる場所だと思ったんだ、、が?)



ビンゴ



見張り台に   何かがいる



「触発されて出て来たってか  射程内だクソヤロウが」

即座に矢の詠唱へと入る



「これほど強いヤツが来るとは聞いていないぞ?」

鳴り止まない轟音に見張り台から顔を出したのは

頭からすっぽりとローブを被った男


「む? まだ生き残りがいたのか」

ローブの男は宿舎から構える巫女を見つけた


「若い娘は少なかったからな、満たされなかった所だよ」

真っ赤に染まった口元を拭うと10メートル程高さのある見張り台からシエル目掛け



飛び掛かる



(は? そこから飛んで来んのかよ)

咄嗟、詠唱が間に合わずに横へ飛ぶ



ドカン!  ゴォォォオン!



建物が崩れたかの様に腹に響く音

それと同時に土煙が高く舞うと


「貴様、今  何をしていた?」

塵、埃を払いながら涼し気な表情の男が近づいて来た



(くそ、、こいつ)



「まぁ良い、少し幼いが美しい顔をしている    美味そうだ」

フード部分からは見開いた深紅の瞳が覗く



「昼から地獄絵図を高みの見物ねぇ けっ、しかもロリコンかよ 『高貴な一族』が聞いて呆れる」

巫女はスカートを叩(はた)き左手に短剣を構える


「、、ふむ、一目で見分けるとは貴様ここの村人ではないのかな」


「はっ、見分けるも何も 昼から根暗スタイルとか変態か吸血鬼くらいだろが」



「ふっ、口の減らない   小娘がぁ!」

男は一気に詰め寄り


シエルの細い首を掴む


「うっぐぁ! カハッ」


「食事はゆっくりとしたい方なのだがな  せめて活きたまま頂くとしようか」

細い首筋に鋭い牙を立てる




、、が ふと動きが止まる




「この首飾り  貴様、巫女か? 早々に切り刻まれたと思っていたのだが」

まじまじとシエルの首飾り、それと苦しむ顔を覗き込む


「まさかこんなに若いとはな、、ふむ、惜しいがこれは良い土産が出来たz」

眼と眼が合った瞬間

「せぇんだよ」

握っていた短刀で目を狙う





男は難無くその刃先を指で摘まむ


「ふふふ、はははははは! 我が吸血鬼相手にそんな小物でどうにかなると思っていたのか?」

刃部分を指先だけで潰し終え


引き続き巫女の首に力を込める


「あ、ぅ、、  カ   ハ   」


「先程の娘も中々美かった 今日はツイているな!!」


しばらく足掻くシエルを眺め


「あぁ、美しい 生きていれば構わんだろう  まぁ少し、、少しだけ、味見するくらいなら」







勢い良く



真っ赤な飛沫が飛び散る








「ああ、がぁ  ぐっ、あああああああ」








呻く声が響き






シエルを握っていた腕が宙を舞う











4/13 16:40


「げほっ  はぁはぁ、ったく!  はぁ  おせぇんだよ 巫女様じゃなかったら殺されてたみたいだぞ」


「大変申し訳御座いま  ぐふ!」

シエルの元へ駆け寄る、、が割と本気で脇腹を殴られているのは中性的な顔立ちの従者だ



「あああ、貴様あ  ぐっ、なんだ?  魔法使いか?」


吸血鬼の身体能力は非常に高く身体自体が頑丈である

その為通常の武器では傷など殆どつかない

筈なのだが、、


「あぁいえ、自分に魔法の才はありませんのでただ、、剣を投げただけですよ」


壁には通常より短いサイズの物が刺さっている


「バカな? 銀か!?」


シルバーソードなどは貴族でも持つ者が少ない程高価な代物である


「高かったけど買っておいて良かったですね?」


「あ? てめぇはいらね~つってただろが」



貴重な銀で刃先がコーティングされた60~70cm程の鉈の様な武器



ファルシオン



シエルが父親ゼブラからぶんどった物を全てつぎ込んだ一品である


「ちっ、人間の分際で私に怪我をさせるなど   土産など!死体で十分だぁあ!!」


ローブの男から悍ましい殺気が溢れ出すのが分かる


「ぺらぺらぺらぺら気になる事を長々喋りやがって」

巫女は目を一気に瞑り首を二度程回し、睨み付ける


「聞ける程の余裕は無さそうですけどね」

隣の従者は剣を引き抜き、静かに構え直す


「本来なら拷問したい所だが   40秒 死んでも近寄らせるな」

詠唱を始めるシエルの足元に


衝撃が走る


「ふん、大魔法か? 貴様らなど10秒も持たんぞ!!」

そう言うと一瞬でシエルの後ろへと回り

「死ねぇい」

シエルを背中から貫く



勢いであったのだが



「ちぃ」

シフが横からそれを払う



「はっ はぁ貴様  目で、、追えているというのか?」

男は軽く後ろへと飛び、距離を置く



「まぁ、巫女様の従者ですので」

そのまま距離を詰め刺突


「調子に乗るな人間!」




ブシュウ




裂かれた方の腕を自ら剣に刺すともう片方の手で剣を握るシフの手首を掴む


「このまま圧し折っても良いのだがな」

シフの身体は軽々と振り回され見張り台まで投げつけられる



叩きつけられたシフの身体からは骨が軋み折れる音が響く

「う く ぐぁ ああああ」


「ふふふ、やはり人間はすぐに壊れるな 鍛えていようが町の娘と大差な、、」

ファルシオンが飛んでくる


ガキン!  ガランガラン

飛んで来た刃は弾かれ地を転がる


「ちっ、人間風情が  手こずらせやがって」

弾いた腕からは多少の血が流れている



「まぁ  20秒ってところか? 早々に巫女様を殺しておくとしよう、とどめはその後だ」

勢いよくシエルへ足を向けるが同時に男の目の前は真っ白になる


「な?」










「嘘だよ  クソ野郎が」


シエルの放つ特大のレーザーが男を跡形もなく『浄化』する







「はぁ、、はぁ  仕事の出来るやつは余裕を持って伝えておくもんなんだよ」

と言い放つ巫女からはどう見ても余裕は見えない



魔法を放ったのは右手

細い肘から先は焼き爛れ

爪は全て割れ剥がれ落ち大量の血が流れている



(ちっ、しかしまぁ、今カマキリに見つかったら殺されるわな)

地に転がるファルシオンを左手で拾い引きづりながらシフの方へと歩く





「生きてる  な」

従者の身体を左手でペタペタ触り診断を始める


「がは ごほっごほ、だ、大丈夫です」

吐血しながらもあえて距離をおこうとする


「めんどくせ~動くな黙ってろ、、中身もいってんな」

すぐに詠唱を始め身体が発光し始める


「シ、シエル様、大丈夫です、ので!やめて下さい」


「骨と中身だけだ 担げないんだから自分で歩け」




発光が終わる頃にはシフの折れた骨、破れた内臓は修復され十分歩ける程に回復した


代わりに


シエルの耳鼻からは血液が流れ、両目は真っ赤に充血している


「うぅ、申し訳ないです」


「あ~うるせ~喋んな、頭痛ぇ カマキリに見つかったら終了だぞ」

(くそ、目が霞む 希望があるとしたら入口の鳴りやんだ音か?)

巫女は一度顔中を拭うとふらふらと立ち上がる


「おぶります、乗って下さい」

透かさず主の前にしゃがむとすぐに軽い身体がもたれ掛かった




「異形が来たらお前が先に食われろよ?」


「え~~   いえ、恐らくですがもう魔物はいないかもですよ?」


「あ? 援軍  来たのか?」(あの魔力反応は味方か?)


「あ~え~と、う~ん」


「早く喋れ殺すぞ」


「喋んなって言ったり矛盾過ぎる!  え~、素性は不明なんですが凄い勢いで異形を狩っている鬼がいまして」


「鬼?」(鬼の種族で魔力持ち?)


「えぇ、角のある真っ赤な髪の女性でしたね」





「じゃあなんだ  とりあえず『私らは』生き延びられた訳か」







(誰も救えずに)






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