第12話『トギュアザー!』


連載戯曲


エピソード 二十四の瞳・12『トギュアザー!』     


時   現代

所   東京の西郊


登場人物


瞳   松山高校常勤講師

由香  山手高校教諭

美保  松山高校一年生



美保: だけど……。

瞳: だけど?

美保: わたしの人生なんだから、その……自分で見つけなきゃ。

由香: ……。

美保: そうさせてください……。

瞳: 美保……。

美保: 先生……!

瞳: よく決心した。

美保: うん。

由香: よかった!(拍手。感動的なBGMが入ってもいい)

瞳: と……ドラマだったら、美しく終わるんだろうけど、そうはさせないわよ。

二人: え……?

瞳: あたしのこと、一発シバキな。

二人: え……?

瞳: いいから、そうしないと幕が下りない……いいから、こうやって(美保の手を取る)

美保: いいよ……先生。わたしの中じゃ、帳尻あってっから。

瞳: あたしの中で帳尻があわないんだよ……あたしは、あたしは……美保のことを……。

美保: 辞めさせるための、アリバイ指導……だったから?

瞳: ……分かってたの?

由香: あなた……。

美保: 優斗も拓也も香弥奈も、辞めてった。みんな知ってるよ。

 あたしたち、そのへんはバカじゃないから……ううんバカだから、ちゃんと、わたしたちのこと見てくれてるかは分かるんだ。

瞳: 美保……。

美保: そんな顔してたんじゃ、生徒は寄ってきてもオトコは寄ってないって……みんな本気で心配してたんだよ。

由香: プフ……。

瞳: 笑うなあ!

美保: だから、だから……あたしは一人でやっていくから。

瞳: あたしのオトコの心配なんて百年早いわよさ。

由香: でもこの子の指摘は確かだよ。

瞳: でも、今の美保の決心なんて、朝になっちゃえば忘れっちまう。

 そんな無責任な幕は下ろさせないからね。美保は、わたしといっしょにペンションに行く。いいな!

美保: でも……。

瞳: でも……?

美保: そこまで先生に頼りたくない。

瞳: 頼りたくなくても、頼りないぞ。ヘタレだぞ、美保は。

美保: ヘタレにもヘタレの意地があるから……。

瞳: 美保……。

由香: じゃ、ジャンケンで決めたら!

二人: ジャンケン……?

由香: 恨みっこ無しのジャンケン。

二人: よし!

由香: 三本勝負……いくよ。

二人: おお!

由香: 最初はグー……。

二人: ジャンケンポン! 

瞳: 勝った!

美保: もう一本!

瞳: おーし!

由香: 最初はグー!

二人: ジャンケンポン! ポン! ポン!

瞳: 勝った!

美保: 先生、強いなあ……!

由香: さすがチョキの……。

瞳: オホン。教え子を思う教師の真情よ、真情……最後のね。

美保: 先生……でも……。

瞳: この期に及んで、まだ「でも」かよ。

美保: でも、その……ペンションが気にいってしまったら……。

瞳: そうしたらずっとそこにいたらいいじゃん……そして……

 そして何か開けたら、その時はその時。素直にさ……美保の紅茶、ペンションの名物になるかもしれないよ!

美保: 先生……。

瞳: なんか文句ある?

美保: あ、ありません!

由香: わあ……見てごらん、むこうの雲が晴れて都心の方まで見わたせる。1300万人分の明かりだ……。

二人: うわあ、きれい……。

由香: 1300万分の2のエピソードの……新しい始まりだね……。

美保: 胸の内さらけだしちゃった。

由香: だね。

瞳: まだまだ、ここは一発叫ぼうよ、胸の内をひっくり返してさ。

美保: はい。

瞳: いくぞ……。

由香: わたしも入れて!

瞳: トギュアザー!

美保: じゃあ……一、二、三!

三人: うわー!!

瞳: 記念写真撮ろう、三人揃って!(デジカメをとり出し、三脚にすえる)

美保: 写真撮るんだったら、もうちょっとましなナリしてくるんだったな。

瞳: それで十分。あるがままの自分でいいよ。

由香: 今度は三脚大丈夫でしょうね?

瞳: バッチリ……だと思う。いくよ!


 タイマーがかかりカシャリとシャッターが切れる。

 この少し前からエンディングテーマFI、三人無邪気に写真を撮りあう。ここで急速にFUしつつ幕。 


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エピソード 二十四の瞳 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018

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