第11話『会いたかった!』    


連載戯曲


エピソード 二十四の瞳・11『会いたかった!』    




時   現代

所   東京の西郊


登場人物


瞳    松山高校常勤講師

由香   山手高校教諭

美保   松山高校一年生




美保: バイトしながら考えたの……バイトは休んだことない。

 バイトだったらがんばれる……ゼロじゃない、十にも二十にもなれる……なれるんです。

 だけど学校ではゼロ。なぜだろうって……給料もらえるから? 友達がいるから? 仕事が楽しいから?

 ……全部答えのような気がして、だけど全部答えじゃないような気もして……

 けっきょく一言で言えるような答えは出てこなかった。だけど学校ではゼロ。

 あたし気が弱いから学校続けるって言ったけど……ゼロの場所にいても仕方がない。

 「がんばります」って言うたびに空しい、自分がカラッポになってくばっかで……

 自分にも先生にも嘘ついてるばっかで……そんなことばっか思ってたら、久々にバイトで失敗して……

 トレーごと片づけてた食器ひっくりかえしちゃって(傷ついた手を隠す)

 店長に「どうしたんだ?」って言われて、心がそこにない自分に気がついて……(涙が頬を伝う)

由香: それがどうして、水汲むことにつながっちゃっうの?

美保: 学校辞めようって、その時思った……そのことを、この気持ち大石先生に伝えたいって思って。

 そうしたら、店長が手当をしてくれながら「それじゃ、この紅茶持ってって、先生と飲みながら話してこいよ」って。

 そうしたら、水は、ここの水が一番合うから汲んでこいって……教えてもらった……もらったんです。

瞳: ……そっか。

美保: お母さんに電話で話したら、それがいいって言ってくれて……先生、家にも電話したんだね?

瞳: ……うん。

美保: ちょっと前か、他の先生だったら、ただチクられたって頭にくるだけだっただろうけど。

 夕方先生と話したら……ああ、上手く言えない。

由香: ストレートでいいわよ。

美保: うん……何もかも、ストンと心の中に落ちた。そんで、先生に会いたかった!

瞳: 美保……。

美保: あたし、こう見えても、紅茶の出し方店で一番うまいんだ……いっしょに飲んでください。

瞳: うん。じゃ、あたしも素直に言うね……あたしもね、あたしも二学期いっぱいで学校辞めようと思って……。

美保: 先生……。

由香: ……。

瞳: 姉ちゃんがダンナといっしょに長野でペンション始めるから、そこで働こうと思って……。

美保: そんな……先生は先生でいて欲しい……大石先生はやっぱ先生だよ。

 先生は……先生だけでも、先生でいてほしいよ。辞めるあたしが言うのも変だけど……。

瞳: 話は最後まで聞いてくれる。

二人: え?

瞳: 今の美保の話聞いて、三学期いっぱいいっぱい居ようと思ってきた。

美保: 先生!

瞳: でも三学期までね、契約だから。

美保: 本雇いになる夢は?

瞳: もう三回も試験に落ちたし、あたしまだ二十四歳だし……。

由香: 今夜限りだけどね。

美保: 先生、明日誕生日だったの?

瞳: そーよ、その記念すべき日の退学生があんた。二十四の瞳も今夜限りよ……。

美保: 二十四の瞳……。

瞳: ハハ、……いろんな意味でね。

美保: あたしと七つしかかわらないんだ。

瞳: それが、どうかした?

美保: あたし……決めた、決めたんです。

 二十四ぐらいまでは、自分探すためにいろいろやってもいいって。

 お母さんも、今の仕事で身をたてるって決心したのは二十四の時。

 だから、お母さんも二十四ぐらいまでにって……だから先生も二十四だったら、

 まだ色々自分の道をさぐっていてもあたりまえじゃない。お互いしっかりがんばろうよ!

瞳: はあ……って、なんであたしがなぐさめられんだよ!

三人: アハハハ……

瞳: そうだ! ねえ美保、三学期まで今のバイト続けて、その後いっしょにペンションで働かない?

二人: え!?

瞳: ささやかなペンションだけど、一応株式会社、あたしもちょびっと出資してるから取締役の一人なんだ。

 だから従業員一人決める権限くらいはある。そうしよう、お父さんお母さんには、あたしから話したげるから! 

 そこで、お互い次の道をさぐればいい。そうしよう!


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