第4話『正直に言え!』


連載戯曲


エピソード 二十四の瞳・4『正直に言え!』   

       


時  現代

所  東京の西郊


登場人物


瞳   松山高校常勤講師

由香  山手高校教諭

美保  松山高校一年生



 下手(しもて)でなにやらもめる気配。すぐに美保が投げ飛ばされてきて、瞳が続いて馬乗りになって美保の首を絞める。


瞳: オラアアアアア! 今日は、どうして休んだあ!? 今から美保の家へ行くとこだったんだぞおおお!

美保: ……し、死ぬ~(;'∀')。

瞳: 死ねえええええええええ!

由香: ひ、瞳!

美保: ま、まいった、まいった~あ(;゚Д゚)! ロープ、ロープ、ロープ!

由香: はい、えと、ああ、タオル、タオル!(タオルを投げる)

瞳: 由香あ~(タオルが投げられたので、美保を解放)!

美保: 助かったあ……あ、あんた?  

瞳: 友達。山手高校の鈴木先生。

 美保の家へ行く前にこの公園で立ち話してたとこ。先生の同業者だから気にしなくていい。

 ごめんな由香。

由香: ううん。    

美保: 山手……偉い学校の先生なんだ。大石先生より賢いの?

瞳: そうね、あたしと違って本雇いの先生だからな。

美保: ああ、先生って、一年契約の先生だもんね。こっちの先生は一発で通ったの?

瞳: そうよ、あたしが三回もすべった採用試験を一発で……(カメラをたたむ手が一瞬止まる)

 美保、今あたしを見下しただろ?

美保: いや、そんな……。   

瞳: 正直に言え! 正直さだけが美保の取り柄なんだからな。

 口で違うことを言っても表情には正直に出るんだよ……正直に言った方が身のためだぞ……。  

美保: いや、あの……うん。

瞳: よし、正直でよろしい。

美保: じゃあ……大石先生って、ほんとうはバカなの?

瞳: バカだよ……って、なんでそうなるんだよ!?

美保: だ、だって正直に言えって……。

瞳: 試験だけが教師の値打ちを計る物差しじゃねえよ。こっちの先生とあたしは総合的には甲乙つけがたいくらいにエライんだよ。

美保: そう……でも先生は……。

瞳: 何だよ……。

美保: そんな……絡まないで……。

瞳: なんだと……。

美保: 今日の分は、おしまい……。

瞳: タオルの分残ってるんだよ(指の骨を鳴らす)

美保: 先生……(;゚Д゚)。

瞳: オリャー!(コブラツイストをかける)

美保: ……イテエエエエエエ!

由香: 瞳! よしなさいよ、瞳!

瞳: あのう、つっこみはもうちょっと早めにしてもらえる?(美保を解放する)

 それにもうちょっと気の利いたつっこみしてもらわないと、ボケようがないでしょ。

由香: すみません……て、なんでわたしが謝らなきゃなんないのよ!

美保: ごめんなさい。大石先生とはいつもこうなんです。

 由香……っていうんですね。あたしの妹と同じ名前。妹もがんばったら山手高校ぐらいいけるかなあ……。

由香: 美保ちゃん、あなた、学校で人の優劣を考えちゃだめよ。

美保: だけど、松本高校はバカな学校でしょ?

由香: そ、そんなことないわよ、ねえ瞳。

瞳: いや、ある(二人ズッコケる)由香の言うとおり、うちはバカの学校だよ、偏差値測定不可能のバカ学校だよ。

由香: 瞳……。

美保: そうだよねえ……。

瞳: だけど、バカなのは勉強のことで、人間のことじゃない。人間性は偏差値で測れねえからな

 うち卒業したり中退したような子たちでも、立派な大人になってる奴はいっぱいいるからな。

美保: そうなの?

瞳: そうだよ。卒業してもいい。中退してもいい。だけど中途はんぱにブラブラしてる奴は一番ダメだ。

 それは、うちの学校でも山手高校でも同じこと……今日はなんで休んだ?

美保: ……なんとなく。

瞳: なんとなくか……それも正直でいいけどさ。先生懇談でも言ったろ。

 なんとなくで休んじゃだめだって……今日で音楽切れちゃったよ。音楽は……。

美保: 十三時間でパー。今日で十四時間だもんね。

瞳: 日数も厳しいよ……あと十六日でアウト……二度目のダブリはきついぞ、死ぬぞ、血吐いてウンコ垂らして死ぬぞ。

美保: う、うん。

瞳: 十三単位でアウト、わかってるよね? 音楽二単位でアウト決定だから、残り……。

美保: 十一単位でおしまい。  

瞳: そおだよ。そのへんは懇談でちゃんと説明したよな?

美保: これから……がんばる。

瞳: う~~~信じてやりたいけどなあ……。

美保: 今までが、今までだから?

瞳: おう。だけどこの世の終わりみたいにとっちゃだめだぞ。血吐いてウンコ垂らしても、生きてりゃ道はあるからな。

美保: うん……。

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