第3話『五十歩百歩』


連載戯曲

エピソード 二十四の瞳・3 『五十歩百歩』  


時   現代

所   東京の西郊


登場人物


瞳   松山高校常勤講師

由香  山手高校教諭

美保  松山高校一年生






瞳: 洒落が通じないんだからあ。あたし、大石瞳が二十四歳……今日までだけどね。

 その瞳と生徒の瞳が二十四個だって洒落。

由香: え……ということは、二クラスで十二人しかいないの!?

瞳: ううん、四十八人。

由香: ……それじゃ四十八の瞳じゃないの?

瞳: 生徒たちの目は、半分学校の外に向いてる。だから二十四個のお目々……わかる?

由香: ああ……なるほど。で、最初は何人いたの?

瞳: 留年生をいれて、二クラス七十一人。

由香: 二十三人も消えたの!?

瞳: うん、そいつらはお目々が二つとも学校の外に向いていた。

 それでも無事に退学にもっていくのはなかなかよ。

 信じられる、二十三人中、二十人まではあたしが始末したんだよ。

由香: たいがいなんだねぇ……。

瞳: 学年だと、卒業までに百人は消える。それが、今年の一年生は百人に迫る勢いだよ……。

由香: ということは……。

瞳: 学校の外向いてる瞳が、まだ三つ四つは消えるんだろうね。

 そのためのアリバイってゆーか、伏線ための家庭訪問……いわば営業だね。営業目標は無事な退学……。

由香: でもー、瞳は講師なんだから、そこまで責任持たなくてもさ。それに、来年の試験に受かったら、別の学校に……。

瞳: 由香はたまたまいい学校にあたったのよ、山手高校っていう……。

由香: それでも……。

瞳: それでも二人退学、生徒との距離はひらく一方……でしょ。ちょっとぉ写真忘れてるよ。

由香: え、ああいくよ。

瞳: 東京の……(ニッコリ、シャッター音)いや、多分日本中の学校が多かれ少なかれ……

 (ニッコリ、シャッター音)中味のないカラだけの卵になりつつあるんじゃないかと(ニッコリ)思う(ニッコリ)……。

由香: いくよ(シャッター音)だから色々やろうとしてるんじゃない。

 特色ある学校づくりとか、総合学習とか……ハイ(ニッコリ、シャッター音)

瞳: そんな新任研修のお題目みたいなの本気で信じてるの?

由香: だって(ニッコリ、シャッター音)何か信じることからしか始まらないじゃない。

 自分の言葉でうまく言えないから、つい都教委の看板持ち出しちゃったけど、ハイ(シャッター音)

瞳: 教育ってさ、そのカメラの三脚と同じだと思うんだ。

由香: (ファインダーから目を離して)三脚?

瞳: 学校と家庭と社会、その三つがしっかりしていないと教育なんて成り立たないと思うんだ。

 一本でも欠けたら、カメラも教育もこけちまう……それ分かってて学校ばかりいじって注文つけてくるんだ。

 立場弱いからさー学校って、文句つけやすいじゃん……学校って卵、人間を人間らしく育むためのね。

 でももう中味はとっくに無くなったカラだけ、それ分かっててポーズとってるだけ……(シャッター音)あ、今のだめ!

由香: ちょっとした憂い顔、よかったよ。

瞳: そう……あたしのアリバイの家庭訪問と五十歩百歩。

由香: だから、だからこそ、カラの中味を埋めていく努力をしなくちゃならないんじゃない。

瞳: 由香だって、ついさっきまではグチってたじゃんよう。

由香: グチはグチだよ。

 現実は前に向かって、カラの卵に白身も黄身も入れるようにしなくちゃならないし、そう信じていこうよ。

瞳: 信じられないよ……そうやって信じて中味をつめこんだ卵って、きっとヒヨコにはかえらない無精卵だと思う。

由香: 瞳……たそがれちゃってるぞ。

瞳: ハハ、由香の前だから油断しちゃったな。オーシ、営業用の空元気!

由香: よーし、じゃ、その空元気が出たところでもう一枚!

瞳: ヘーイ!(とびきりのニッコリ、シャッター音)ありがと、それぐらいでいいや。そろそろ三脚あぶなそうだし。

由香: (カメラのモニターを見ながら)おー、けっこういけてんじゃん。

瞳: ほんとだ、いっそこの写真でどっかのオーディションでも受けに行こうか。歳ごまかして!

由香: 案外いけるかもね。

瞳: ビジュアル系のモデルさんみたいね。

由香: お笑い系のモグラさん!

瞳: なに!?

由香: アハハ……。

瞳: この!……あ!?


 瞳は公園の外を歩く人物に気づき、下手に駆け去る。


由香: 瞳……!?。


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