二章 「もうすぐなのに」
あの日から月日は経ち、約束の日の一日前になっていた。私たちはもう高校1年生になっていた。
月日はいつも私たちを追い越していく。
「結花(ゆか)、おはよう」
「あっ、裕一(ゆういち)、おはよう」
私はあの時に約束したゆうくんこと、裕一に返事をした。
いつのまにか私よりも背が高くなっている裕一のを見つめる。
髪も少しパーマをかけている。
裕一のくせに生意気だなと思う。
でも、うっとりと私は見てしまう。
裕一とはあれからも学校がずっと一緒で、朝はこうやって一緒に通学している。
ただそれだけのことに、いつも幸せを感じているのを裕一はきっと知らない。
日差しが温かくさしてくる。
裕一は手を大きくふっていた。
彼の行動を見ながらやっぱりかわいいなと私は思った。
さすがにもう「ゆかちゃん」とは呼んでくれないけれど、彼には所々にかわいらしさが残っている。
「ところで、結花。今日の数学は、小テストある?」
私たちの通っている高校は不定期で小テストが行われる。
「あるよ」
「えぇー。何もやってないよ」
裕一は大げさにリアクションをとってあたふたとしていた。
勉強をやっていないと言いながら、本当はやっている人が大半だ。
世の中は意地悪でできている。
でも、裕一の「やっていない」は残念ながら本当にやっていない。
ほんの些細なことでも嘘をついたりすることができないほど、裕一は純粋なのだ。
そんな部分を見るたびに私だけが知っている裕一のような気分になる。
それを見つける度に、私は心踊る。
「終わった」
「それは点数的な意味で?」
お昼休み、私たちは教室で二人でお昼ご飯を食べていた。
教室ではたくさんの声が溢れている。
高校生の異性二人っきりでご飯を食べているなんてちゃかされるかっこうの内容だ。
高校生なんて、ちゃかせたらなんでもいいのだ。
でも、私たちは中学生に入ってからずっとそんなことを続けているからもはやクラス公認の仲だ。
誰もなんとも言ってこない。
いつのまにかそんな仲になっていた。
その距離感が歯がゆいなと私は感じる。
裕一はどう感じているのだろう。
「そうだよー!」
裕一はすごく落ち込んでいた。
テスト一つでここまで落ちこまなくていいのと思うけど、裕一にとっては大事なことなんだろう。私はそれを決してバカにしたりはしない。
「やってなかったんだから、仕方ないよ。また今度頑張ろうよね」
「うん、ありがとう」
「よし、裕一はできる子」
私は頭をなでた。
裕一は少し照れながら、「それはいいから」と顔を赤くした。
「でも、なんで勉強してなかったの? 今回はこの曜日はテストだって前もって先生が言ってくれたよね?」
「そうだったかな。すっかり忘れてたよ」
「忘れた」という言葉が私の胸に突き刺さる。
私はどうしてもその言葉に反応してしまう。
あの日の約束を思い出してしまう。
「今度は、気を付けるんだよ~」
私の気持ちは表情に出さず、優しく話しかけたのだった。
放課後、私は裕一にさりげなくこう話した。
「明日行きたいところがあるから一緒にきてくれる?」
「うん、いいよ」
当たり前のように裕一はそう言ってくれた。
それがどんなに特別なことなのか、私も少しわからなくなってきているのかもしれない。
そばにいてくれること、私を必要としてくれる人がいること。
それは当たり前なことじゃなくて、特別なことだと私たちはすぐに忘れてしまう。
つい人間は自分の思いばかりを相手に伝えてしまう。
その報いがきたのかもしれない。
「じゃあ、明日の放課後、教室で待ってるから」と言い、私たちは自分の家に帰っていったのだった。
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