第5話 謎の美少女が不法侵入してたんだが!?
「──よぉ
「来なかったら何されるかわかったもんじゃないでしょ? まぁ、それは今も同じだけど」
……あっ、俺LINE友達いなかったわ。12人中3人家族、残りは公式だったわ! いっけね!
──ってボケたらこの状況見逃してくれませんかね? いや実際友達はいないんですけどね。戦闘力2のゴミに集団で待ち構えて、ほんと何がしたいんですかね? 俺ん家別に金持ちとかじゃねぇんだけど。
「えっと、俺なんで呼び出されたんですかね? この後城端先生に呼び出されてるから早めにお願いできると……」
あぁ、ほんとに嫌になる。何で俺同級生に敬語使ってんだ? でも生意気な口聞いたらいじめられ──はぁ……この考えがすでに気持ち悪い。
別に人生勝ちたい訳じゃない。ただ負けたくないのだ。余計な感情振り回して火の粉がかかりたくないのだ。顔が似てるってくだらない理由だけで自分を嫌いになりたくないのだ。
「安心しろよ、すぐ済む。ってかお前、何で呼び出されたのか分かってねぇのか?」
「すいません、俺察しが悪いもので。あれですかね? 顔が気に入らないとかですか?」
「はぁ? 違げぇよ。お前ほんとに分かってないんだな。よく言うよな、虐められてる奴にも問題がある、しかもその原因は自覚してない」
小矢部は呆れたような表情で語り出す。何だそれ、やれやれ系とか今時流行んねぇよ。もっと誠実系の方が意外といいかもよ? ……なんて事、いう度胸なんてどこにある? どこで売ってる? 100万くらいなら平気で出すぞ俺。
「お前さ、悪目立ちしてんの気づかねぇのか? その上今日は大遅刻。てか、もっと自分が気色悪いって自覚しろよなぁ、ほんと自覚ない隠キャとかうざいわ! そう思うよなお前ら?」
その言葉に反応しゲラゲラと笑いだすその他B共。
結局こいつらは徒党を組んで意見のつぎはぎをしなければまともに理論展開すら出来ない馬鹿だ。隣にいる奴の意見を反芻するだけの作業。
……さぞ楽だろうな。羨ましいよその仕事。時給いくらだ? え? フレンズレス? 友達だからタダ? ──ははっほんと……よくやるよ、友達なんて。
「とどのつまり、俺って存在が気に入らないってことですよね? だったら殴っていいですよ。それでもうチャラってことで」
これでいい。10発20発殴られるだけでこれから先の学校生活すごい楽だぞ。あっちはストレス発散、こっちは免罪。どっちも敗北引き分けだ。
「あっそう、だったらまずは1発!」
俺は目を閉じる。恐らく目を開けたらベッドの上だろう。こういう時こそ落ち着いて深呼吸だ。心頭滅却すれば火もまた涼し、まぁ要するに無心になれば痛みなんてなくなる。
「大……私……助……ら!」
途切れ度切れの声が聞こえる。女子の声だ。つまり俺は関係ない。意識落ちる前に聞こえる最後の声が無関係の女子とか……凹むなんてレベルじゃねぇな。
こうして俺の意識はテレビの電源を切ったようにプツリと消えた。
──そう、まるで昨夜のように。
✳︎
どれくらい時間が経ったのか、電源が入り俺は目を覚ます。目の前には真っ白な天井、辺りを見渡すと白いカーテンに微妙な寝心地の悪さのベッドに毛布。そして白衣を着た保健室の先生が──
そんな俺の目覚め予想は、実際には全くといっていいほど異なっていた。
空は真っ赤、雲が点々と存在しカラスが煩く鳴く。俺を目覚めさせたのは保健室の先生ではなく吹き付ける風。しかも寝てすらおらず直立不動だ。まさか俺立ちながら気絶してたのか? にしても痛てぇ、どんだけ殴ったんだあいつら?
「──黒薙? 君はそこで……何をしている?」
投げかけられた女性の声。今週ほぼ毎日書いている声だ。
「えっと、今何時ですか城端先生?」
よく見ると城端先生の表情が暗い。というより悲しそうに見えた。何でだ? てか視線が俺の足元にいって、いったい何が──は?
「……黒薙……とにかく、職員室に来なさい。分かっていると思うが、これは呼び出した件とは別問題だ」
「いや待ってくださいよ先生! これ……何すか? 俺さっきまで寝てただけなんすけど!」
「それを見て、その言葉を聞き入れるのは些か厳しいものがあるよ」
俺が見たもの、それは擦りむいたような拳に、倒れた小矢部たちだった。
「まじで……んだよこれ?」
俺は気が動転したまま、どうすればいいのかも分からず職員室へと足を運んだ。
「──で、何であんなことになった? 小矢部の性格は知っている。恐らくきっかけはあっちだろう。だが、現状倒れているのは彼らの方だ。何があった? 失礼かも知れんが、君にあいつらをのせるほどの強さはないだろう?」
「あの、その前に……そもそも俺じゃないんすけど。俺だって気づいたらあんなことに」
「朝に行ってたあれか?」
「はい、突然意識が途切れて……いやほんとですからね! 俺こんなしょうもない嘘なんてつかないですよ!」
「……今日は帰りなさい。そしてもし明日も同じように意識が切れるようなら私に電話しなさい――これ、電話番号だから」
そう言って城端先生は番号の書かれた一枚の紙切れを俺に渡した。ってかもう帰してくれるのか?
「あの……覚えはないけど俺暴力したんですよね?何ですぐ帰してかれるんですか?」
「確かに状況証拠だけ取り上げれば君がやったのだろう。だが、私は君が暴力に頼る様な人間ではないと信じたいんだ。少なくとも私がこれまで手を焼かされてきた黒薙奈月はそれをしない」
真っ直ぐに俺を見つめるその瞳は、一切の淀みなく俺見ていた。それほど信用してもらっているのだ、であればそれに答えるしかない。
俺は別に疑われようと何されようと大体はどうでもいいと思っている。だが、この人に疑われ続けるのはすげぇ嫌だ。
「すいません。ありがとうございます」
俺はもらった紙を握りしめ、職員室を出た。
「──はぁ、なんでこうなった? あの子が暴力? そんなはずない! でも状況的には──」
「先生、今朝言っていた人はどこですか?」
城端に声をかけたのは湊だ。
「ん? あ、ああ! すまないな湊。実はだな、紹介しようと思っていたやつが急用ができてしまってな、明日でもいいか?」
「ええ、構いません。では明日、よろしくお願いします」
職員室を出た湊。城端は頭を抱えている。
「頼むから……ちゃんと証明してくれよ……!」
苦悶の表情を浮かべ、頭を掻き毟った。
──家に帰り着きベッドに潜る。そして辺りを見渡す。
昨日はここで意識が切れた。そして不良に絡まれた時にも。犯人は現場に帰るというが、摩訶不思議現象だったらどうなんだ?
俺は立ち上がり、昨日電話していた場所まで歩く。やはり何も起きない。いつもならそれでいいが、今回は起きてくれないと困んだよ。なんて嫌なジレンマだ。
「だぁもう! いっそのことあっちから出てこいよ! お前のせいで、俺城端先生に誤解されてんだろうが!!」
「──ごめんね」
……えっ、何今の? 俺の背後から女子の声が聞こえたんだが……はっ? えっ? んっ? しかもこの声、学校で意識なくなる前に聞こえた声と同じ……
この時、俺の中で一つの無理ある仮説が立てられた。こんなことをいきなり言い出したら鼻で笑われるだろう。俺だって笑う。だが、一人暮らし、鍵はかけてる、女友達いない、……まぁ男もだな。そして誰もいないはずの場所から声がする。背後に人がいるときの独特の気配もない。
見たくない、だが見なければ何も始まらない。昔からホラー映画などで恐怖スポットにわざわざ突っ込んでいく奴の気が知れなかったが、なるほどこういう気持ちだったのかもしれない。人は切迫すると現状を打開するために動かずには居られないのだ。
「早く振り返れ俺ェ……弁解すんだろ? だったら覚悟決めろ……俺は……だぁもう幽霊でもなんでも来いや!!」
意を決し振り返る。恐らく俺の人生の中で一番頑張った瞬間だろう。
俺は振り返りながら色々なことを考える。まじで幽霊だったらどうしよう? 話通じるのか? いやでもごめんって言ってたし……そもそも幽霊だったとして、それって弁解出来んの? ──など、決死の覚悟とは裏腹に頭の中は騒がしく女々しい。
もう止まれない。振り返ろうとする頭を止める術を俺すら持たない。
見てやる! もしこれで見えなかったら病院かお祓いだ。そういや湊の家は寺だったっけ? お祓いとかやってんのかな? こんだけ勇気出せたんだ、ちょっと質問するくらいどってことねぇよ!
そしてついに俺の頭は完全に背後を向いた。瞬間、俺の意識は停止する。消えたのではない、停止したのだ。こんなもん誰だってこうなる。こんな状況で冷静になる奴の方が頭おかしい。だってそうだろ? 俺の目の前には──
「……女子……? しかも……生身……?」
そこにいたのは髪が桃色っぽい黒髪の、見知らぬ女子。足もついてるし透けてもいない。白装束でも頭に頭巾をつけてもいない。浮いてすらない。どころか制服を着ている。
どこからどう見てもただの女子が、しかも毛先がくるんとしている若干ギャルっぽい女子が俺の家に入り込んでいた。
そして彼女は目に涙を浮かべていたかと思えば俺の顔を見て笑みを浮かべた。
「はは、……訳わかんねぇ」
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