第4話 クラスの不良に呼び出されたんだが!?
「──ではまず、盛大な遅刻の理由について聞かせてもらおうか」
「……なんとなく?」
4月14日(火)13時05分。これが今日の俺の登校時間だ。
皆は昼休みの真っ只中ということもあり、何がそんなに面白いのか分からないがゲラゲラと騒ぎ立てていた。そして俺はこの盛大な遅刻についての説明をするため職員室に来ている。
「ほう、つまり君はなんとなく私の授業をすっぽかしたと、そう言いたいのかね?」
微笑む城端先生、顔は笑っているのに目が怖い。ダメですよ先生もっとちゃんと笑わないと! そんなんじゃ生徒も心開きませんよ!
「べ、別にそんな訳じゃないんだからね!」
「君のツンデレなんてどこに需要があるんだ……はぁ、で、ノートは?」
呆れながら片手を差し出す城端先生。俺はなんのことか分からず──
「えっ? ノート?」
……あっやべぇ、1ページどころか開いてすらねぇ。昨日ちょっとカッコつけて『明日持ってくるんで』とか言わなきゃよかった。来月とかって言っとくべきだったか?
「すいません……家帰ったらいつのまにか寝てて、その……やってません」
城端先生は額に手を当て呆れ果てる。当然だろう、大遅刻の上に提出書類の未提出、しかも自分で明日持ってくると言ったのにだ。
「はぁ、あのデータ消すべきじゃなかったか?」
「データ? データって……あっ」
理解した。城端先生は俺の弱みを消してくれていたのだ。その事実に罪悪感と申し訳なさが心の中で渦巻く。
「えっと……すいません。ちゃんと話します。実は──」
俺は昨日起きた一連の流れを出来るだけ事細かに説明した。おジャ魔女の件はいらなかったかも知れんが。
「──という訳で遅れました。ノートもやれてません」
「……なるほど、大体分かったよ」
城端先生は少しの間顎に手を当て考え込んでいたが、一応理解してくれたようだ。──ノートについては。
「君が遅れた理由、そしてノートを写していない理由については分かった。まぁ事実証明が出来ないから100%は信じれんがな」
「それでも何%かは信じてくれるんすか? まじで先生っていい人っすね」
俺が安堵の表情を浮かべたとき、城端先生は再びあの怖い笑顔を俺に向ける。
「で、この盛大な遅刻理由は何だ?」
微笑む城端先生。その笑顔からはなぜか、獲物を狙うハンターのごとし殺意が漏れ出ていた。
「えっ? いやだから急に意識が──」
「うんだからそこじゃなくてね。君さっき自分で言ってたじゃないか、起きたのは11時26分だったって」
「えっ、はい言いましたけど──はぁ!」
不味い、俺は致命的なミスをした。この上滝高校から俺の家までは自転車でおよそ30分、仮に起きた瞬間家を出たとすれば12時にはついているのだ。
「黒薙く〜ん、君は一体何時に家を出た? そしてその時間まで一体何をしていた? 正直に答えたまえ、でなくば昨日の内容をテストに載せる」
「じょ、冗談ですよね? そもそも昨日見ただけであんな長い文章覚えてるわけ」
「まぁ勿論事細かには覚えていないさ、だが要点は覚えてる。信じるか信じないかは君次第だがね」
やりすぎだってそれは……仕方ない、正直に言おう。
「その……どうせ遅刻だしもうすぐ昼だったんで……ゆっくり飯食ってから来ました……。家は12時35分くらいに出ましたね。はい、これが事の真相。真実ってのはいつも残酷ですね」
「そうだな。私はテストを作り直さねばならんからもう行っていいぞ」
「ちょっと待ってそれはだら!」
興奮しすぎて使ったことのない富山弁が出てしまった。因みにだらとはバカという意味である。
「誰がだらだ! あのな黒薙、最悪昼飯食べてくるまでは……ギリギリ許そう。だがそれで何故そんな時間に家を出た? どうせ食後にゆっくりしてたんだろ? その間にノートだって取れたはずだ! そりゃ怒るだろ! それこそだらだ!」
「ぐっ……ど正論! 100:0で俺が悪い分何も言い返せねえ!」
「1でも私に過失があったら言い返してたのか君は……はぁ、もういい。とにかく残りの授業に出てきなさい、クラスメイトからの好奇の視線には我慢しろ。あとテストは前向きに検討する、以上!」
パソコンを開いた城端先生は俺を片手であしらう。その顔は非常に面倒くさそうだ。まぁ面倒くさいでしょうね、俺だってやだよ俺みたいな生徒。
「じゃ、じゃあとりあえず帰ります。ノートは明日……いや今月中には出すので」
明日と言いかけた口は塞ぎ、今月とした。もう俺は出来なそうな約束はしない。
「今週だ、今週出しなさい! そうじゃなきゃ本当にテストにするからな」
「い、イエッサ!! 失礼しました!!」
俺は大急ぎで教室へと向かう。あからさまに不機嫌な城端先生から逃げるように。まぁ実際逃げてるんですけどね。
✳︎
職員室では城端真幸は机に突っ伏しながら唸り声を上げていた。
「ああああああああああああめんどくさい……なんだあいつは? 何で2日続けて説教せねばならん? 説教って意外と怒る側もストレスなんだぞぉ。このままじゃ私黒薙の中で叱責キャラ扱いじゃないか……ああもうめんどくさ──」
「すいません、今よろしいですか?」
突如池に水をさしたように放たれた言葉。振り返るとそこには美少女がいた。
「(って、何が美少女だ……)す、すまない、考え事をしていてな……でどうしたんだい──湊?」
現れたのは、黒髪才色兼備、そしてぼっちの湊玲衣だ。
「先生、2つほどお話があるんですが」
「──えっ?」
少女から発せられた言葉に、城端真幸は唖然としていた。
職員室を飛び出し、教室に向かって歩いていく。その間、大勢の生徒にすごい見られた。それは何故か、答えは簡単カバンを持っているからだ。しかもその足は上に向かっている。遅刻確定演出だ。
クスクスと笑い声が聞こえる、「聞こえるよ〜」という女子の声が響く。いやお前が一番聞こえてる。
だがまぁ問題ない、笑われるのなんて一瞬で、どうせ1日もすれば顔なんて忘れているのだ、だったらなんでもない顔をするのが一番いい。もしここで泣きっ面なんて見せてみろ、それこそ一生ものだ。これ俺の経験則な。
4階とかいう無駄に長い階段を上り切り、ようやく俺は教室の扉に手をかける。そして戸惑うことなくノーモーションで扉を開けた。
ザワザワと小うるさい教室、ある者は友と語り合いながら飯を食い、ある者は趣味の話で盛り上がり、またある者は教室の後ろでプロレスごっこ。そんな彼らが、俺が入った瞬間に静まり返った。
シーン、って音はまさにこんな感じなのだろう。それくらい静寂に包まれていた。てかすげぇな俺、あのうるさい集団をたった1人で黙らせたぞ。どうしよう、校長先生に雇ってもらおうかしら。便利だぞ、「皆さんが静かになるまで何分かかりました」なんて言わなくて済む。
などとくだらない言葉を脳内で口にしながら俺は席に着く。因みに扉を開けてすぐ右だ。そして御用達の本を鞄から取り出しページをめくった。
音楽でも聞けたらいいのだが、この学校では終業のチャイムが鳴るまで携帯使用禁止、とかいう謎ルールが存在しているのだ。謎校則ってやつですね。休み時間くらい使わせてくれても良かろうに。俺みたいなぼっちにイヤホンってのはオアシスなんだぞ。誰も話しかけてこないからな。
とその時、イヤホンがないことの弊害が早速起こる。
「──やぁ黒薙君、おはよう! 今日はどうしたんだ?」
ものすごく爽やかに話しかけてきたのは成績優秀、ハーフ、イケメン、コミュ力お化け、性格がいいというもはや俺が妬むことすら許されない完璧超人、
なんだよ剱って、かっこ良すぎんだろ! ってかそのセピア色の目を俺に向けないでくれ。濁りきった混濁色の俺の目と嫌でも比較しちまうだろうが。
「あ、いや……普通に寝坊……」
「そっか、こんな時間まで寝坊とかすごい寝るんだな! 今日はもっと早く寝ておけよ!」
「あ、はい……そうします」
「じゃ、午後から頑張れよ」
そう言って剱はさっきまでいたイケイケグループに戻って行った。俺に話しかけてた時の周囲の皆さんの目と言ったらもう……恐ろしや〜。
それにせっかく話しかけてくれたのに碌に話出来なくてごめんな。申し訳ないのでこの学校にイヤホン導入してください。
しばらくして教室に喧騒が戻った。ザワザワとうるさい。お前ら◯イジかよ。
昼休みが終わり、午後の授業。残り2時間を耐え切りようやくHRだ。因みに前にも言ったが担任は城端先生だ。
HRはつつがなく終わり、後は終業のチャイムを待つだけだ。そうすればようやく帰宅が──
「そうだ黒薙、君はこの後職員室に来たまえ。少し話がある」
「えっ?」
なんだまた説教ですか? 俺まだなにかやらかした?
周りから失笑が漏れる。やっぱりすごいな俺、一体今日だけで何人もの人に笑顔を届けたのだろうか? こりゃノーベル平和賞間違い無いですね。
などと考えていると、隣から一枚の折り畳まれた紙が届いた。そこには『黒薙に渡せ』と書いてある。面倒だと思いながらも、開けなかったら何があるかわからないため、徐にその紙を開いた。
そこには『この後裏庭に1人で来い。先生には言うな』と書いてある。差出人は
はっきり言ってめちゃめちゃ嫌いな人種だ。というか好きなやつってどうなってるんだ? って思う。よく「悪いやつじゃない」とか言われるが、んな訳ない。ヤンキーは悪いのだ。
正直行きたくないが、いかなければどうなるか分からない。俺は渋々城端先生に少し遅れることを伝え裏庭に向かった。
「あぁ、億劫だ……大体呼び出しって何だよ? 呼び出し全てに言えるが自分から来いよ。しかも展開読めてるし……ほら、な」
裏庭までの最後の曲がり角を曲がる。そこには呼び出した張本人である小矢部と、その他数人が俺を待ち構えていた。
「よぉ黒薙、ちゃんと来たんだな」
ああ怖いほんとに怖い。その思いを一言で表す言葉を俺は小さく呟いた。
「ほんと……学校辞めてぇ」
風で草が揺れている。まるで地面全体が揺れているようだ。
だからだろう。足元の石が動いたように見えたのは──
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