第2話 美少女同級生に睨みつけられたんだが!?
「──ねぇ、そこどいてくれないかしら?私すぐそこの高岡先生に用があるのだけど」
声のする方向に目を向ける。するとそこには1人の少女。彼女の名前は
その高すぎるスペック故、憧れを抱く者はいても友達はいないとか。
というかほんとに俺に言ってんのかこれ? すごい空いてるってほどではないが、俺の後ろ結構隙間あんぞ? というか通りたいんだったらまずは通るための努力をすべきだと思う。たまにいるよな、相手が避けること前提で体を捻ることもなくありのままで突破しようとするやつ。
正直嫌いだ。ア○雪で言ってたありのままってそいういこっちゃねぇと思うぞ。
俺は一応視界を見渡す。……誰もいない。やっぱり俺なんですね。そうですかああそうですか。だったらガツンと言ってやる、どんだけ高スペックだろうと相手は同級生、それに人付き合いが弱点のボッチである。条件は同じ。
そして俺は意を決し口を開いた──
「あっ、えっと、すいません今どくんで」
撤回しよう同じじゃない。本能的にこいつの方が上だと判断してしまっている。それに俺の悲しい性として、女子との会話が超絶下手ということが挙げられる。何せここ6年くらいでしゃべった女子なんて妹、若しくは落とし物拾った時に「あっ、どうぞ」と言ったことくらいだ。こんな真正面から話しかけられたことはない。
その時、
「湊、確かに彼がどけばすぐに通れる。気持ちは分かるよ。だけどね、そういう高圧的な態度はどうなんだ? 「通してくれませんか?」くらいの言い方から入った方が相手も気持ちよくどいてくれるぞ」
大人だ。すげぇ大人だ。ただの正論は相手の気持ちを逆撫でるだけだが、一旦相手に対して理解を示すことで自分の意見を通しやすくする。中学時代何故か心理学にハマったときに見た気がする。さすが教師、人身掌握に長けている。
しかし、そんな小手先の心理学などこの女には通じない。
「何を言っているんですか? それに邪魔なのはあちらじゃないですか? ただでさえ広くない通り道を占領して、だいたいあなた、
──ん?ちょっと待て、今何つった? 座り込む? 俺は城端先生に叱責を受けていた。なので椅子すら座らずにずっと立っていた。つまり、こいつは俺に対して言っているわけではないということだ。まぁ目線や体は相変わらず俺の方を向いているんだが。
「はぁ、もういいです。迂回した方が早そうなので。そうだ、あなたもあなたよ、直ぐ近くにいるんだったら注意くらいしてくれてもいいんじゃないの? そんなことも出来ないなんて……情けない人」
そう言って湊玲衣は去っていった。何故だろう、根拠はない。だが何故か、最後の一言だけは直接俺に放たれたように感じた。
「先生……一応聞きますけど、俺の後ろ誰かいます?」
「私の目が悪くなく、魚群探知機並みである君の対人センサーが反応してないんだったらいないんだろうな」
「……湊玲衣って霊感あるすか?」
「まぁ寺生まれだからな、もしかしたらそういったのもあるのかも知れん。──あっ、君の背後にずぶ濡れの女が」
「ひゃい!!……あっ」
物凄くみっともない声に、その場にいた全ての教師、そして生徒がこちらを見ていた。わぁすごい人気者……。
その視線の中には勿論湊玲衣も入っており、物凄く呆れたような、もっと言えば可哀想なものを見るような目で俺を見た後、まるで何事もなかったかのように視線を教師に戻した。
目だけでわかる、今のは哀れみの目だった。古来より親しいものとは目だけで会話ができると言うが、これは俺もその域に達したといっていいのだろうか? だとしたら凄くね? 今まで女子と会話すら出来なかった奴がいきなり目だけで会話ですよ、もしかして俺ってチート持ち?
……などというくだらない妄言でも考えていなければ、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。俺は城端先生に目線を戻すと、物凄く申し訳なさそうな顔で何かメモをし、それを俺に無言で見せてきた。
『ほんとすまない。あとで何か奢る』
だそうだ。まぁ怒ってるって訳でもないし、そもそも先生にはノートの写しを貰っている。それなりに恩は感じているのだ。借りはそのままにしておかない主義の俺としては、ここで受け取らないという判断をした。
『別にいいっすよ。変な意味で注目浴びるなんて日常茶飯事ですので』
そう社会のノートに書き記し、城端先生に見せつけた。
「んじゃ、ノート明日持ってくるんで」
「なっ、黒薙! 待ちたまえ! ──行ってしまった、悪いことしたな。あそこまで怯えさせるつもりはなかったんだが」
そう言った城端は、パソコンを開きとあるフォルダをクリックする。そして──
「これは詫びだ、まぁこんなものがなくても注意はするしな」
そう言ってとあるデータにカーソルを合わせ、消去した。
そんな時、立ち去っていく黒薙の背中をじっと見つめる1人の少女。凛とした黒い瞳はある一点を見つめていた。
「あの男子、それにあの生徒……いや、そんな訳ないわね。だって着いてるもの」
長い黒髪を振り回し、彼女は廊下を歩いていった。
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