第4話 新学期
春。4月。高校2年生。
春休みに入る前まで遡る。
「あの…すみません」
一人の男の子が私を呼び止めた。
「はい」
「ここの学校に、この男の子が通ってるはずやねんけど……」
携帯の写真を見せる。
「あっ!この人なら同じクラスですよ」
「そうなんや」
「だけど、既に学校出ているから連絡取り合った方が良いと思いますけど」
「そうかぁ~……どないしよ?」
「あの……どちらから?」
「えっ?」
「こっちの…東京の方じゃないですよね?」
「ああ……うん」
男の子は多分、昴君にと思われる相手に連絡をする。
「昴?俺やねんけど」
「俺って誰やねん!俺、俺、詐欺か?」
「そうやねん!ちゃう、ちゃう!何でやねん!俺、俺詐欺ちゃうわ!アホっ!」
「じゃあ、何やねん!イタ電ですかぁ~?ちゅうか、これ盗聴されてんねん!」
「盗聴!?アカンやん!ってちゃう!俺は何もしてへん!そんな話しはどうでもええねん!」
流石に、他愛もない話しから関西のノリ突っこみは日常茶飯事だ。
私も友達と良くする。
二人の会話も、またまた隣で聞いてて、面白くつい笑顔になってしまう。
「今、俺、東京来てんけど」
「東京ぉぉぉぉっ!?ドッキリやないねんから、そんな冗談辞めてな」
「いや、ホンマやから」
「嘘やーん!大阪から東京ってどこでもドアないと行かれへんやん!」
「なくても行かれるわ!アホっ!今な昴と同じクラスの女子と一緒にいてんけど……」
「ナンパしたん?」
「してへん!」
「んで?ちなみに女の子って誰なん?」
「えっとすみません……名前……」
と尋ねて来る男の子。
「北沢」
と言った私に
「あー、繭ちゃんやな」
と昴君は聞こえたのかすぐに答えた。
「取り合えずそっちに向かうから学校の近くの公園におってくれへん?」
「公園?分かったわ!」
携帯を切る二人。
「すみません……昴が今から学校の近くの公園まで来るらしいからそこで待ってます」
「公園?案内しますよ」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「そうですか?慣れない町なのに?」
「それは……」
「私なら大丈夫ですよ。彼氏いるわけじゃないし安心して下さい」
「じゃあお願いします」
私達は学校の近くの公園に移動した。
「とおる」
「昴、元気そうやな?」
「当たり前やん。ちゅーか、何しに来たん?」
「春休みやから」
「こっちから行ったのにから」
「夏休み来たらええやん」
「そうやな?あっ!繭ちゃんありがとう。わざわざコイツに付き合わんでも良かったのにから」
「初めての町だし何かあったらいけないし」
「大丈夫やって!男やし!」
「せやけど助かったわ。ありがとう」
「それじゃ、私は帰るね」
「ああ」
私達は別れた。
「なぁ、昴。彼女、お前の幼馴染みなんちゃうん?」
「えっ?何でそう思うん?ちゃうやろ?確かに同姓同名やし似てるんやけど」
「お前ら一時期、付き合うてたやん?と、いうより両思いっちゅー事で過ごしてたんやろうけど……お前人気あったからなぁ~。友達と一緒に繭ちゃん連れて出かけてたし」
「まあな」
「今、繭ちゃん東京いてるらしいで。全然変わってへんらしいから。たまに大阪に帰って来てるねんて」
「そうなんや」
「確認したらどうなん?」
「そうやな?考えとくわ!取り合えず荷物置かなアカンやろうし移動しよか」
「そうやな」
私達はまだ、真実を知らないでいた。
そして新学期が始まる。
ある日の放課後 ――――
「なぁ、繭ちゃん」
「何?昴君」
「繭ちゃんってずっとこっちにおったん?」
「えっ?ずっとじゃないよ」
「そうなんや。ほんなら繭ちゃんも転入生ちゅー事か?」
「うん」
「いつ、こっちに来たん?」
「中学の時、こっちに来たかな?」
「中学?そうなんや!何処からなん?」
「えっ?それは……関西から」
「いや…関西からって範囲広すぎやから!」
クスクス笑う私。
「ねぇ、私の事聞いてどうするの?」
「いや…ちょっと…確認したい事あんねん」
「確認したい事?何?」
「いや…それは……」
「個人情報なら教えないよ」
「個人情報って…」
「だってそうじゃん!私の事聞こうとするから」
「ちゃうねん!」
「何が違うの?」
「いや…それは……繭ちゃんが元カノに似てるからや!」
「えっ?」
≪確かに最初そう言っていたみたいだけど……≫
「しかも同姓同名やし。偶然にも程があるやろ?思うて」
「そっか……だとしたら凄いよね?でも偶々なんじゃないかな?昴君の元カノが私なら、私の元カレ…昴君になっちゃうよ?」
「えっ?」
「私の元カレ、昴君にそっくりで同姓同名って偶然にはマジ凄い!って思っていたんだけど、昴君は昴君だし、私の知ってる昴じゃないから、いくら何でも有り得ない話だから」
「繭ちゃん…」
「違うと思うよ」
「そっかぁ~……」
「ゴメンね!元カノじゃなくて…」
「いや…俺こそすまん…」
昴君は帰って行き始める。
「藍村…昴…か…」
≪正直ハッキリとしてへんから…何か手掛りになるのがあればええねんけど……夏休み……掛けてみようかな?≫
「昴君!」
「何や?」
「夏休みって大阪に帰省するの?」
「帰省って…毎年恒例の親戚の集まりやないねんから。まあ、意味的に間違うてへんけど…一応帰るで」
「そうか」
「大阪に行ってみたいん?一緒に行ってみるか?案内するで」
「大阪は…行った事あるから」
≪ちゅーか…毎年戻ってんねんから…≫
「そうなんや」
「良い所だよね」
「せやなぁ~。ええ所やな」
「メッチャええ所!うち、メッチャ好きやで!」
「………………」
「……?」
「…」
「昴君?」
「アカンっ!反則やっ!可愛すぎやろ!?」
「えっ!?」
昴君が顔を反らして耳まで赤くしているのが分かった。
≪嘘…!?ちょっとからかっただけなんだけど…メッチャ可愛いんだけど!≫
「昴君?」
私は歩み寄り顔をのぞき込む。
「み、見んなやっ!」
「見るなって言われると見たくなる」
「アホっ!」
「…ねぇ…」
「な、何やねん!」
「元カノの事…心残りなの?」
「えっ?」
私達は至近距離で多少の距離を保ち話しをする。
「いや…どうなのかな?と思って」
「聞いてどないするん?」
「どうもしないよ。どうもしないけど……もし心残りなら元カノも心残りだったら良いねと思って」
「繭ちゃん…」
「自然消滅とか言っていたし……二人の想いが1つだったら幸せが待っているんだろうなぁ~と思って」
「そうやな……アイツに謝ってより戻せたら戻して……今度こそは……アイツとの時間大切に出来たらええなと思うわ」
「そっか」
「ほな帰るわ!」
「うん……」
昴君は帰って行った。
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