第3話 転入生、人気者のアイツ

ガラッ

教室の引き戸が開いた。



「ほらー、席につけーー」



ガタガタン……


クラスメイトが先生の一言に一斉席につく。



「今日はホームルームを始める前に新しいクラスメイトを紹介する」

「藍村 昴です。よろしゅう」




ガヤガヤ……



ザワザワ……




教室がざわつく。



「関西系だよ~」

「カッコイイ~」

「ヤバイくない?」



クラスの空気がガラリと変わった。




≪関西系…?…あい…むら……すば…る…?≫

≪同姓同名?≫




気には止めたものの私は外を眺めては興味ない雰囲気で知らない振りをしていた。



「ねえねえ、繭。関西系のイケメンだよ」



親友の


日暮 佳奈(ひぐらし かな)


が、こっそりバレないように H .R 中に話しかけてきた。



「興味ないし」

「本当、相変わらずだなぁ~」



その日の彼の人気は上昇。

社交的で誰にでも対等で、クラスからも他の学年からも人気だった。



その日の放課後、私は用事で残っていた。




「世の中、狭いってこの事やなぁ~?」

「えっ?」



藍村君が話しかけて来ると私の前の椅子に股がって腰をおろす。



「な、何?」

「あんた元彼女(カノ)とそっくりやねん」

「そ、そうなんだ。世の中3人いるって言うしね。元彼女(カノ)別れて、こっちに越して来たの?」



「別れてへん」

「じゃあ、遠恋?」

「ちゃうで!自然消滅してん」

「自然消滅?そ、そう?」




≪それって別れてる事なんじゃ…≫



「ただな今、何処にいてるか分からへんねん。土に埋められとったりしてな」


「それはヤバイでしょう?」

「せやけど、そうやったら、おもろないか?元彼女(カノ)が土から出てくんねんで?白骨化したやつとか」


「ええっ!?最低っ!彼女から絶対恨んで出て来られるよ」


「ええっ!!俺、殺してへんのに何で恨まれなアカンの?意味分からへんわ!いや……アイツならあり得るかもしれへん……」


「有り得るんだ!」



≪どんな彼女だよ!でも私なら……出て来るかも多分……≫



「ちゅーか、アイツはそんな事する奴やないと思うねん」


「……藍村…君…?」

「せやけど多分傷つけたから自殺してるかもしれへん……」

「傷つけたって何したの?あのー、藍村君冗談にも程があるから」

「嘘や!死んでるなら連絡あるやろ?幼馴染みやったから」



ドキン


≪幼馴染み≫



「なあ自然消滅って最悪やと思わへん?」

「えっ?」

「向こうはどう思っているんやろう?もう他に男いてるんかなぁ~?とか色々考えんねん」

「連絡つかないの」


「ついとったら苦労してへん!」

「そうなんだ。それより初対面で良く自分の事ベラベラ話せるね」

「初対面?誰が?」

「私達」


「ええっ!!初対面ちゃうで!」

「えっ!?」

「2回目やってんけど」

「そ、そうなんだ!まあ、初対面だろうと2回目だろうと関係ないし!話し終わったら早く帰りなよ」


「そんな追い出さんといてっ!」

「追い出してませんが?私、男の子嫌いなの!」

「ええっ!もしかして女好きなん?」

「そういう訳じゃないけど、過去に嫌な事あったりして男の子が嫌いになったの!」

「やっぱり女好きやん!」

「だから違うからっ!」



「何かあったん?過去に」

「えっ?あなたには関係ないじゃん!」

「まあ確かに関係あらへんけど……」

「元彼女(カノ)に似てるからって事で近付かれても困るから迷惑です」


「話す位ええやん!」

「いーや!」



「…………」



「ごめん……そういう事だから」

「どういう事なん?ちゅーか命の恩人やで?冷たくあしらわんといて!」

「えっ!?命の恩人!?」

「ナンパされてからあんたが嫌い言うとった男達に啖呵っ切っとった日あったやろ?」

「えっ!?……あっ……」


「それ助けたの俺やねんけど」

「あー、あの時の」

「あれから真っ直ぐ帰ったん?」

「あー、うん」

「そっかぁ~、女の子やし心配はしとったんや」




≪心配性なのか……優しいのか……≫




「それはどうも」

「なあ、あんた "きたざわ まゆ" って名前なんやな」

「うん」

「幼馴染みと同姓同名やねん。凄い偶然やな。ちゅーか、一致する事が続くとすごないか?」


「偶々なんちゃうん?」

「えっ!?」



≪ヤバッ!≫



「とか言ってみたり~」

「ビックリしたぁ~。普通に違和感なく聞こえたやんか!メッチャ驚いたわ!一瞬、地元に瞬間移動でもしたんかな思うたで!」

「アハハ…そう?」



≪当たり前やん≫

≪数年前まで私は住んでたんやから≫




数年前、大阪から越して来て地元の友達とは、今も尚、連絡取り合っている。


長い休みの期間中は地元に戻ってるのもある為、普通に話せるのだから。


だけど……もし……彼があの幼馴染みなら?


私達は再会してしまった?





「なあなあ、あんたの事、どう呼べばええんかな?クラスのみんなに尋ねてんけど」

「えっ!?みんな!?わざわざ、こうやって?」

「せや。コミュニケーションや」

「そうなんだね……」




≪ある意味凄いかも……≫



「んで?クラスの子達から何て呼ばれてんの?」

「人それぞれだから」

「そうなんや」

「じゃあ、繭ちゃん?」

「うん、別に良いよ」

「じゃあ、そう呼ぶわ!」


「うん。じゃあ藍村君の事はどう呼べば良い?」

「下の名前でええよ」

「じゃあ…昴君?」

「ええで!」

「分かった」

「ほな」

「うん」



藍村君は帰って行った。





「きたざわ まゆ…ほんま…運命のイタズラやな…?本人やったら良かったんやけど……」




「……あいむら……すばる……同姓同名か……」






2度目の再会


誰にでも対等で


人気者のアイツ


まるで


アイツを見ているような気がした


そんな私の心が


アイツを虜にしていく





ある日の事。



「繭、昴君、かなり人気あるらしいよ」

「へぇー、そうなんだ」



確かに教室の前の廊下には女子生徒が常に群がっている。


まるで元彼を見ているような感覚に陥る。



元彼も人気あったから、幼馴染みだからって羨ましがられて気付けば惹かれあって両思いになった時は本当に嬉しかった記憶がある。




だけど ――――




誰にもバレないようにしていてデートというデートもしないまま過ごしていた。


友達含めて出かけて、彼女とか恋人よりも幼馴染み以上恋人未満みたいな関係。


ただ両思いなだけで昴にとって私はどんな存在だったんだろう?


元彼、元カノと言える関係だったのだろうか?


その時の事が時々フラッシュバックするかのように元彼の存在が蘇る。



アイツは今何してる?


時々、元彼に見えてしまうのは


似ているから?


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