第78話 クリスマスがやってくる
オーストラリアのクリスマスは、日本のお正月みたいな位置づけです(自分調べ)。クリスマスの日から元旦までの間は、大抵のオフィスがお休みで、お正月の三が日みたいな感じです。クリスマス当日はスーパーも開いてないです。クリスマスは、実家に帰ったり、親戚で集まったり、家族で過ごす人が多いようです。
クリスマスの日にメルボルンで一人旅なんかしてたら、どこにも行くとこがなく、食料を調達することすら困難なので、寂しくてひもじい一日になる可能性大です(←本当にそんな目にあった日本人留学生に会ったことあります)。
そんなクリスマス当日を狙って、ロンドンからメルボルンのフライトに乗ったことがあります。年末年始はフライトの料金が跳ね上がりますが、クリスマス当日はちょっとだけ安くなるからです。あれは娘がまだ一歳のころなので、八年前の話です。
空港でチェックインしてるときに、娘のパスポートを忘れたことに気づきました。そのころ、娘はどこに行くにも一緒だったので、自分の一部のような感覚だったんですよ。飛行機の中でもひざの上にのせるので、運賃がいらないですし。パスポートという代物が、こんな赤ん坊にもいるんだった! と、空港で初めて気づいたっていう……。パスポートは生まれてすぐに取ってたのですが。
空港と家の間は、普段だったら片道一時間以上かかる距離でした。で、フライトは二時間後。パスポート取りに帰って戻ってくる時間が、どう考えてもありません。私はショックでがっくりと肩を落とし、「次のフライトってもう明日かな。いくらくらいするんだろう」と考え始めました。
ところが、夫はどんなアドレナリンのスイッチが入ったのか、「絶対このフライトに乗るんだ!」と叫びました。ええ〜!? 無理じゃん? と唖然としている私のとなりで、スマホで電話をかけはじめました。
クリスマス休暇中、私たちは、自分のアパートをご近所の方に貸すことにしてました。Airbnbってやつです。ご近所の方のご両親が、休暇中にロンドンまでいらっしゃるということで、ご両親用に借りられることになっていました。
ご近所の方とはいえ、それまで全く接点のなかった赤の他人です。その人が、私たちのアパートのスペア・キーを持つ、唯一の人だったんです。まだ朝の六時ごろ、夫はその方に電話をかけました。まだ寝ていたらしいその方に「申し訳ないのですが、スペア・キーを使って、ウチに入ってくれません? リビングの引き出しにパスポートがあるので、それをタクシーに乗せてほしいんですけど」と夫は電話でお願いしました。
その方がまた、めっちゃいい人だったんです。まだ寝てたのに、シャワーも浴びずに家を飛び出してくださって、人んちのパスポートを、空港行きのタクシーに乗せるという荒技を決行してくださいました。
夫は、パスポートだけを乗せたタクシーと途中で落ち合うために、自分もタクシーに乗って空港を去りました。その日はクリスマスだったので、道がガラガラで、普段の二倍のスピードが出せたそうです。
シンガポール航空のスタッフの方に事情をすべて話したところ、大変親身になって協力してくださいました。とりあえず私と夫の搭乗手続きを先に済ませ、荷物もすべてチェックイン。美人のスタッフの方が、夫を待つ私にずっと付き添ってくださいました。
フライトまでもう三十分になり、さすがにスタッフの方から「旦那さん、まだでしょうか」と不安げに聞かれます。夫に電話してみたら「まだタクシーの中だけど、もうすぐ着くから! 飛行機待たせといて」と漫画みたいなセリフを言われました。
フライトまでもう十五分というタイミングで、そわそわと待っていた私たちの前に、全速力で走ってくる夫が現れました。
その瞬間、美人スタッフさんがビシッと立ち上がり、もう一人の男性スタッフ(イケメン)を呼びました。夫が持ってきたパスポートで、娘の搭乗手続きを素早く済ますと、女性スタッフが私の手をとり、男性スタッフが娘の乗ったベビーカーを押してくださって、大人四人でうぉりゃああ〜とロンドン・ヒースロー空港内を全力疾走です。女性スタッフの方は、ハイヒール履いてよくもそこまで! というスピードで走られました。
長蛇のセキュリティーの列を特別ルートで抜かせてくれて、ゲートまでの道のりを最短突破。人がすっかりいなくなったゲートから、飛行機までのトンネルを駆け抜けます。本当にギリギリで間に合った私たち。誰の顔にも汗がにじんでいました。
飛行機に乗る直前「ありがとございます。ありがとうございます」と何度も繰り返す私たちに対して、美人・イケメンのコンビがピシッと挙手をして敬礼されました。
「メリー・クリスマス!」
とびきりさわやかな笑顔で、二人はそう言って私たちを見送ってくれました。
クリスマス映画かよ! シンガポール航空最高かよ! 美談でまとめようとしてるけど、元凶はパスポート忘れたおバカな私だよ……。
そんな、忘れられないクリスマスのお話でした。いろんな人の優しさが起こしたクリスマスの奇跡☆
追記:この話、前にエッセイでしたことありましたっけ? してたらごめんなさい。
追記2:カクコン盛り上がってますね。私も毎日楽しくヨムヨムしてます。ヨムヨムが増えるので、カクコン中はコメント少なめになりますが悪しからず。それから、お気に入りのカクコン参加作は、ぜひとも中間突破してほしいので、できるだけレビューを書きたいなと思っています。思いついたら書きますね! でも、思いつかなかったら書けません。御免。
追記3:明日、カクコン用のエッセイを投稿するので、よかったら読んでくださいませ〜。三回に分けて連載予定です。
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