第75話 年寄りはなぜ同じ話をするのか
お友だちに、とっておきのネタを話していて、相手はニコニコ頷いてくれてるんだけど、その笑顔がぎこちないとき。
「あ、これ、前にも話したネタだった」と気づきます。
「……ごめん、これ、前にも話したよね?」とバラして失笑を買う場合もあります。でも、自分がノリノリで話している場合、心優しいお友だちは、迫真の演技で「初めて聞いたフリ」をしてくれてたりします。途中で「あ、演技だ」と気づきます。
そういうときは、お互いにほんとーうに辛いんだけど、早送りバージョンで最後まで話します。そして、私の失態など何もなかったかのように、次の話題へと速やかに移ります。大人のエチケットってやつです。最後の最後に「その話、前にも聞いたけどね」と笑顔でチクっとトドメをさしてくる、心憎いお友だちもいます。くぅ。
子どものころは、何度も同じ話をする年齢層高めの大人が理解できませんでした。自分が年齢層高めの大人(ってつまりは年寄りだ)になってきた今、このカラクリが少し理解できてきました。
いつ、誰に、どのネタを披露してきたかが、ごっちゃになってるんです。
このエッセイも、ゆるゆると今日で75話目。前のエッセイと合わせると175話。さらに、他の方のエッセイのコメント欄でも長々とネタ披露してたりする。なので、「さて、今日は何のネタ書こうかな。あ、とっときのやつがあるぞ、グフフ」なんて思って書こうとすると「待って。これ、前にも書いたやつじゃない?」と不安になることがあります。
これ、私だけじゃないという確信があります。もう、私のまわりも妙齢層が増えてきましたから、そんな失態は何度も目にしてきました。ちなみに私はわりと「初めて聞いたフリ」をしてしまうタイプです。
ここで強調しておきたいのは、「前にも話したことがある」てことを忘れてるわけじゃないんです。誰にそのネタを披露したか、を忘れてるんです。若い読者のみなさん(いる?)、いいですか? 年寄りは、持ちネタを何年も再利用しているのです。だから、十年前にAさんに話したことを、今日Bさんに話すなんて、日常茶飯事です。同じことを話している自覚はあるのですよ。ただ、例えば三年前にCさんに話したことを、満を期してDさんに披露したところ、実は三ヶ月前にDさんに話してた、なんてことが起こるんです。
これね〜、もう、能力の衰えというより、ログの量と複雑さのせいじゃない? 年を取れば取るほど、鉄板ネタも増えれば、話した人や回数も増えてくからさ〜。
今でも理解ができないのが、同じ話を何度も繰り返してる方で、私がすでに「初めて聞いたフリ」もしなくなり、どっちかっていうと「いや、それ前にも聞きましたよ」と全身で言っているのに、懲りずに同じ話をする人。さらには、「ああ、それ、前にもおっしゃってましたよね」と直球で「同じ話を繰り返してますよ」とシグナルを送っているのに、やっぱり最後まで話してしまう人。
中年の私よりも、さらにお年を召された方々に、けっこういらっしゃいません? 認知症とかじゃなくて。アレはどんな了見なんでしょうか。ジャイアンのリサイタル的な、観客の反応はどうでも良いってことなんでしょうか。
ネタの再利用はほどほどにして、いくつになっても、新しいネタを増やしていきたいものです。将来は、若い人から「あのおばあちゃんとおしゃべりするのは楽しい」と思ってもらえるような年寄りになりたいですねぇ。あ、そういう人って、ネタが豊富というよりは、聞き上手な人が多いかもしれません。おしゃべり上手の一歩は、ネタの仕入れから、ですね(←きっと違う)。
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