第24話 インドで見た鉄拳制裁

 十年以上前に、二か月ほどインドを旅行したことがあります。今の夫がまだ婚約者だったころの話です。


 オールド・デリーの古い町並みを歩いていたのですが、観光客があまりいない治安の悪いところまで足を伸ばしてしまいました。観光客どころか、女性が一人もいません。当時、私はまだ二十代。若い女性の外国人ということで、地元のガラの悪い男性ばかりの場所で、私はものっすごく浮いてました。肌の露出は最小限だったんですけどね。


「不躾な視線」にレベルがあるとしたら、あれほどマックスなやつを浴びたことは、あれから後にも先にもありません。動物園にいる珍獣を通りこして、精肉店の肉になった気分でした。身長が二メートル近くある夫(当時は婚約者だったけど)と一緒にいたので、まだよかったのですが、けっこう真面目に怖かったです。


「ここ、ちょっとヤバいね。早いとこ退散しよう。」という話を二人でしていたところ、いきなり、地元男性の一人が「うわーーー!」と大きな声を張り上げて、私に接近してきました。私は悲鳴をあげて夫の腕を掴みました。


 なんのことはない、ただ、私をからかって脅かそうとしただけだったみたいですが、夫がキレて「おい! 僕の彼女に何をする!」的なことを言って、脅してきた男性に詰め寄りました。そんな映画みたいな台詞を夫が言ったことも、あれが最初で最後です。


 例の地元男性と、夫の大声を聞きつけて、警察官が走り寄ってきました。事情を聞かれたらなんて言おう、などと思っていたそのとき、いきなりその警察官が、例の地元男性の頭を、ゲンコツでゴッと音がするくらい殴りつけたんです!


 そこで警察官が、地元男性に向かって一言。


「もうこんなことはするな!」


 それから、唖然としている私と夫に向かって、


「もうこれでいいだろう?」


 たぶん、一部始終を見てて駆けつけてくれたんだと思いますが、まさに問答無用の鉄拳制裁。インド、すげぇ。と思った出来事でした。


 

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