第71話 そのデスゲーム作ったの、俺です。
さらに時は流れて、7月。
現在、奈良原農場では桃の収穫がピークに達しようとしています。
郷田農場からお迎えした桃。
これが実に品質の良いものでして、道の駅で大評判。
イチゴで
「新汰さん! 準備って出来ていますか?」
「はい。追加の注文ですか?」
「違いますよぉー! 明日から、みんなで海水浴旅行じゃないですか!」
「ああ、忘れていました」
「ふっふっふー。そう言うと思って、新汰さんの水着や洋服、一式セットで揃えておきましたよ!」
「なんと。俺の体のサイズをご存じでしたか」
「当たり前だしー! 洗濯当番で、お兄の服もパンツも一緒に洗ってるんだから、そんなの完璧に把握できてるし!」
「実に論理的な答え……。さすが、大学生は違いますね」
「おじいちゃんみたいな事言うなし! じゃあさ、お兄も大学に通えば良いじゃん! ウチと一緒にキャンパスライフするしー!」
「ええ……。興味ないです」
「農学部だから、野菜の授業もあるし! どうどう? お兄ー!」
「すみません、皆さん。俺、明日から受験勉強始めます!」
「ちょっとぉー! 莉果ちゃん、新汰さんを煽らないでよぉ! 明日から旅行なのに!」
「これはウチとしたことが、失言だったし。お兄、受験は来年だからヘーキヘーキ!」
「雪美殿! まだ覚悟は決まらないでありますか?」
「ぴぃぃぃっ! み、水着は恥ずかしいですぅー!!」
雪美さんは旅行に反対派。
つまり、明日も桃の出荷をしていたいのですね。
「雪美さん、明日は俺と一緒にいましょうね!」
「ぴっ、ぴぃぃぃっ!? あ、新汰さん、そんなにわたしの水着、見たいんですか?」
あれ、おかしいですね。
情報伝達に何か致命的な
「おー。やっとるかね、お若いのー! やっほー。明日泊まる貸別荘のパンフレット持って来たよー。ちょっと休憩してお話しない?」
凛々子さんまでやって来ました。
俺は桃の表面についたゴミや
「新汰くんも来なよー。ほら、お土産にカブの種持って来たからさー」
「ちょっとだけですよ!!」
「意志が軽いんだわ! シャボン玉か!」
「あ、ペタジーニさん。ツッコミが聞こえてこないから、てっきりお亡くなりになったのかと思っていました」
「どういう判断!? よしんば
「凛々子さん、良い獣医さんをご存じですか?」
「牛じゃねぇわ! 仮に牛だとしても、気軽に町の獣医に連れて行くなよ! お医者さんだって面食らうわ!!」
ああ、結局旅行に行くメンバーが勢ぞろいしてしまいました。
阿久津さんたち、元御日様組のメンバーが留守を預かってくれる事になっているのです。
なんでも、阿久津さんが「ワシ、体中に刀傷あるし、海はちぃと
それで「じゃあ自分たちも」と、若い衆はおじきを裏切らなかったと言う美談です。
ああ、森島さんだけは最後まで迷っていましたっけ。
「おおー! すごい、すぐそこがプライベートビーチになってるんですかぁ!?」
「そうだよー! 貸し切りだから、他の人に気を遣う必要もないよ!」
「雪美殿! これなら水着、恥ずかしくないでありますな!」
「ぴ、ぴぃぃぃ……。うぅ……。逃げ道がなくなりますぅ……」
「どうした、新汰? 神妙な顔して」
「いえ、今、桃の話しました?」
「はあ? ……ビーチだよ! ピーチじゃねぇわ!! このオレをもってして一瞬分からねぇとか、日々お前のコミュ障は進化していくな!」
「あと、もう一つ」
「ああ!? なんだよ!? どうせしょうもねぇことだろ!?」
「いえ。プライベートビーチなら、阿久津さんたちも行けるのでは?」
「……マジじゃんよ」
今こそ好機。
俺は、必殺技を行使します。
ふふふ、農業のためならば、コミュ力のひとつやふたつ!
「では、じゃんけんで残留組を決めましょうか。ああ、俺は残る方で良いので」
「だ、ダメですよー! 新汰さんには、えっと、ほら! 車の運転を!」
「そ、そうだし! あと、バーベキューするから、野菜焼いて貰わないとだし!」
「あー、新汰くんの名前で申し込んじゃったから、本人確認もいるねー」
「新太殿がいないとバーベキューができないでありますか!? ……くっ。殺せ」
「ぴぃぃっ! チロルさんが死んじゃわないように、わたしも水着になりますぅー!」
「何この結束力。新汰、やっぱお前、コミュ障じゃねぇよ。なんかハーレムできてんじゃん! なにこれ、腹立たしい! そして羨ましい!!」
「何の事かは分かりませんが、今度
「マジで!? って、おめぇ! 膝山さんとこ、酪農メインでやってる農家じゃん! オレ、言っとくけど、
「……えっ?」
「今までで一番のキョトンとした表情!! お前ってホントに酷い男だよ!!」
「さあさあ、ペタジーニさんは荷物をハイエースに乗せて運んでもらうとして、私たちは全員新汰さんの車に乗りますから、席順を決めますよー!」
「お兄の隣はウチがもらうしー!」
「おやおや、莉果ー? 前にも言ったけど、姉より優れた妹はいないんだよ?」
「おっ、おっぱい寄せながら言うなし! ってぇ、なんで凪紗さんとチロルさんまで!! このおっぱい強者たちめ! 雪美さん!」
「ぴぃぃっ!?」
「今こそおっぱい弱者同盟の力を見せる時だし!」
「おおおっ!? 新汰、笑ってんじゃん! どうした、人に興味のないお前が!!」
「あ、ホントですね! 新汰さん、実は楽しみだったんですねー?」
「えっ。俺、笑ってましたか? 気のせいじゃないですか?」
その後も、なんと
俺は桃を拭きながら、たまに聞かれる質問に答えていただけですけど。
まあ、たまには良いですかね。
気心の知れた仲間と、旅行に行くと言うのも。
◆◇◆◇◆◇
はて。
フカフカの布団で寝たはずなのですが、いやにひんやりしていますね。
目を開けてみると、高い天井に強めの証明が起き抜けの瞳にダメージを与えようとしてきます。
とりあえず、ここが俺の部屋でない事は分かりました。
周囲を見てみると、老若男女入り交じった、バラエティに富んだ気絶者たちが並んでいるではありませんか。
もうこの時点で既視感が半端じゃないんですけど。
そして徐々に起き上がる人たち。
「なんだね、ここは! おい! 責任者を出したまえ!」
「お母さーん! どこー!? お父さーん!?」
「こ、ここで大金稼ぎゃ、人生まだやり直せる!」
本当に、既視感があり過ぎて震えるレベルです。
部屋の中央に設置された大型のモニターに、覆面を被った人が映し出されて、俺以外の皆さんが息を呑みました。
そして覆面さんは、立て板に水。
皆さんが拉致されて来た事を淀みなく説明していきます。
『我々の名はデスキングダム。これから皆さんには、デスゲームに参加して頂きます。種目は、そう、名付けてデス運動会! 個人で戦っても良いですし、チームを組んでも結構! 視聴者様を楽しませるために、頑張って踊って下さい!』
覆面なので視線は分かりませんが、ゲームマスターが俺の方を見た気配を察知するに、ああ、俺だけは狙って連れて来られたのですね。
俺を母屋から拉致してくる技量の高さは、元勤め先のデストライアスロンとは比較にならないものだと認めなくてはなりません。
阿久津さんプレゼンツの警備システムを掻い潜るとは。
俺は、隣の女性にスマホを持っているか聞きました。
時間が知りたかったのです。
「深夜の1時過ぎですけど……」
「ああ、そうですか。良かった。これなら間に合いますね」
「あの、あなたはどうしてそんなに落ち着いているの?」
さて、サクッと片づけて、家に帰らなければ。
旅行の出発は9時ですからね。
別に俺は行かなくても良いんですけど、皆さんほら、ああ見えて結構頼りないですし。
俺が見ていないと心配ですので。それだけですよ。
「皆さん、聞いて下さい。このゲームには攻略法があります」
まさか、またこのセリフを言う事になろうとは。
まだ信頼関係も築けていない参加者の皆さんに向かって、俺は宣言します。
「そのデスゲーム作ったの、俺です」
———完。
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