第67話 奈良原新汰のターン クビにされた会社から骨の髄まで搾り取る男

 思わせぶりにヘリコプターから降りて来たスーツの人を張り倒したら、なんかブーイングされました。

 そこで俺は名案を思い付いたのです。


 じゃの道はへびって言うじゃないですか。

 じゃあ、悪そうな人は悪そうな人ですよ。


「もろこし焼きさん」

「林崎です。奈良原様」


「なんだ、奈良原もそろそろお疲れかい? だらしがないな」


「失礼ですね。代々木よよぎさん」

「失礼は君だ。佐々木ささきだよ」


「あれ!? もしかして、新汰!? 今になってアルコール回って来てんの!?」

「バカ言っちゃいけませんよ。ちょっとフワフワした感じがあって、気だるくて、体が火照っていて、心地よい疲労感もあるだけです」



「酔っ払いじゃねぇか!! なに、お前にとってアルコールって遅効性の毒なの!?」



「もう、良いんですよ。これで終わりなんですから。林崎さん」

「奈良原様、林崎です。……あれ!? 合ってました! 申し訳ございません!!」


「なんだ……? 私はもう終わりだ。貴様と口を利く理由なんてない」

「もう一回言ってもらえます?」


「言っているだろう。もう貴様と口をべっしゅ、ひなっぷ、みょっす」

「もう一回言ってもらえます?」


「ちょ、ちょっと待て、ちょっぺりんっ、きゅれぇー、ぴんすくっ」

「もう一回言ってもらえます?」


「待て待て、新汰! 林崎さん死んじゃう! 何発ビンタすんの!?」

「ちゃんとこの人が喋るまで、ですかね?」



「ハメ技じゃねぇか!! お前のビンタが続く限りずっとその機会は訪れねぇよ!?」



 またそうやって俺を悪者にするんですから。

 はいはい、分かりました。

 両手を頭の上に上げますよ。はい、どうぞ。


「な、なんでしょうか……。もう、もうヤメて下さい……」

「あ、林崎さんが話の分かるおっさんになりましたね! やりましたよ、皆さん!」


「さすがは総司令官殿であります! 雪美殿、もうしばらくおっぱいに埋まっておいてください! 耳も塞いでおくであります!」

「ぴぃぃぃぃっ! 分かりました! ごめんなさい、ごめんなさい!!」


「あーっははは! 本当に面白いなぁ、奈良原は! ボクの予想を超える行動を取れる人間って、貴重だよ! はー、笑い過ぎてお腹が痛いよ」


「悪魔だ。郷田さん、奈良原様はもう、まごう事なき悪鬼羅刹あっきらせつですよ」

「……高東原くん。君は忘れたのかね。廃校のバトルロイヤルを。あの時点で、既に奈良原様は悪魔だったよ。今度から、あの方を陰ではサタン様とお呼びしよう」

「お、クリスマスにちなんでサンタと掛けたんすか? それ、名案っすわ。オレもそうしよ」


「あの、どうしてペタジーニ様は我々のところにおられるので?」

「理由が聞きてぇんすか?」

「え、ええ。是非とも」

「郷田さんまでっすか。いやー、簡単な理由なんすけどね?」


「あんたたちが、この場で一番まともだからっすかね」


「あー」

「喜んで良いのか分かりません……」



「林崎さん。あのヘリコプターって何ですか? まだデスゲーム続いてます? なんか、上空にあと2つ飛んでますけど」

「ち、違います! あれは、親会社の、デスキングダムの者たちです!」


「ディズニーランドのアトラクションみたいな響きですね!」


「ははっ! お前ディズニーランドなんて行けねぇだろ! コミュ障なんだから!!」

「ペタジーニさん」

「おう、どうした?」


「ぶち殺しますよ?」

「ここに来てシンプルに一番怖ぇ脅し文句! 冗談じゃん! 他愛のないヤツじゃん!!」


「それで、デスキングダムの人たちは何してるんです?」


「恐らく、これから兵隊たちが降下して来ます。今回のデスゲームの中継はデスキングダムが運営しておりまして。私が敗北した以上、フィナーレとして、奈良原……さんたちを狙っているのではないかと」


「なるほど。ところで、相談なんですけどね。林崎さん」

「殺すのですか? 私を」

「嫌だなぁ。俺を何だと思ってるんですか?」


「……サタン」


「ペタジーニさん」

「ごめん! ちょっと言った方が良いかなとか思ったの! 許して!!」

「ペタジーニさんの、あの小っちゃい人形、なんて言うんでしたっけ?」


「ね、ねんどろいど!? ヤメて、マジで、ねんどろいどはヤメて! あれ、むちゃくちゃレアなんだよ! お願い!! ヤメて!!」


「これからの働き次第ですね。不可と判断した時点で、握力トレーニングのために毎日三体ずつ握りつぶします」


「あの、私は何を?」

「ああ、話が逸れちゃいましたね。今から、降りて来る兵隊とやらを倒すんですけど、林崎さん、お勘定かんじょうがまだなんですよ。2つあるんですけどー」


「何なりと。どうせして死を待つ身です」

「まず一点。今後、郷田農場に手出しは無用です。破られた場合は、地平線の果てまで追いかけて行って、色々と後悔させます」


「もはや、私にそのような力はありません。可能ならば、どこか物価の安い国にでも逃げたいのですが、それも叶うかどうか」

「あー、そうなんですか? 大変ですねー」


「だいたい全部お前のせい!!」


「うるさいですね。あと一点。俺たち、こんなに疲れたのに対価を貰ってないんですよねぇ。これはいけません」


「あの、奈良原様。うちから桃とサクランボの木が」

「高東原くぅぅぅぅん! 君は要所要所でバカだな! 黙らっしゃい!!」


「何か貰えたらですね、あなたの事もついでなので助けて差し上げます。デスゲームで人が死ぬのなんて、バカバカしいですから。あははは!」


「会社のハイエースと、中継用の機材があります。デスキングダムに差し押さえられる前でしたら全て正規のルートでお渡しします」

「話は決まりましたね」


 タイミング良く、6人ほどのスーツを着た人たちがヘリコプターから降下。

 あ、これアレですね。

 逃走中からパクったでしょう?



「みなさん、最後のお仕事、お願いします!」


「おっしゃあ、任せとけ! おるぅあ! これがオレの猛牛ラッシュじゃあああ!! おるぅあ、おるぅあ! おるぅあ!!」


 ペタジーニさんが早速1人撃退。

 そして、ついに自分で自分が牛であることを認める。


「やれやれ。これは追加料金を取ってもいいのかな?」

「イチゴのジャム10瓶でどうですか?」

「ふぅん。……いいね!」


 佐々木さん、相手の攻撃を全て華麗にかわしながら、たまに足を引っかけたりして体勢を崩させるとそのまま急所を突きます。

 実に無駄がなく彼らしい戦い方。


「雪美殿、あたしの後ろへ!」

「ぴぃぃぃっ! あっ、チキンが落ちちゃいました……」


「き、貴様らぁぁぁ!! よくも、よくもチキンを! たぁぁぁっ! せぇい! はぁ!」


 チキンが逆鱗げきりんなチロルさん。

 欧州仕込みの格闘術で相手をボコボコにして、最後は関節技で締め落とす。

 容赦がなくてとても良いですね。


「奈良原様! 3人に囲まれております!」


「郷田さん。俺が農業もしていない3人程度に囲まれて、どうにかなると思います?」

「愚問でした!」


「お前が首謀者だな! さらし首にしてやひゅん」

「はい、ひとつ。お次は、2つ目!」


「やめろ! 待て、おれは部隊長だ。話し合おうじゃないきょょょんぺぇぇ」

「コミュ障に向かって話し合おうとか、西欧せいおうで手袋投げつけるのと同じ意味ですよ?」


「ひ、ひ、引き上げだ! おい、ヘリ! 梯子はしごを下ろせ! おい!!」



「逃がしませんよぉ?」



「あぎゃあぁぁぁぁ! ま、待って! 要求があるなら上に伝える! メッセンジャーは必要だろう!?」


 なるほど、スーツを着ているだけあって、なかなかインテリじゃないですか。


「では、伝言を頼みます。2度と俺たちに関わらないで下さい。さもないと、会社、潰しますよ?」

「わ、分かった! 伝える!」


「はい。では、覚えておいてくださいね。おやすみなさい」

「ぽきょっ」



 こうして、無事(?)にデスゲームを攻略。

 ちょっと、誰ですか、(?)とか入れたの!


 ちゃんと攻略したでしょうが!!


 俺たちは急いでデストライアスロンの本社へ車を走らせました。

 防犯対策に使えそうなカメラと照明器具を回収。

 駐車場にハイエースちゃんが3台いたので、彼女らも接収。


 うち1台は郷田農場へプレゼント。

 だって、これから長いお付き合いになりますからね。ふふふふ。



 それでは、帰りましょうか。


 野菜たちが俺を待っています。

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