第66話 ラストゲームと新たな使者

 俺が思わず腹パンした相手が、ゲームマスターだったとか言うんです。

 なんですか、だって、デスゲームですよ。


 敵の本拠地でゲームしてるんですよ?

 そのシチュエーションで未確認の敵が出てきたら、攻撃するじゃないですか?


 日本人なら専守防衛せんしゅぼうえいに努めるべき?


 日本国憲法にデスゲームの条項があるんなら謝りますけど?



「どうすんだよ、新汰ぁー。おはしきさん死んじゃったじゃんよー」

「ペタジーニ様、林崎はやしざきです」


「これは困ったね。今確認して見たら、屋上の出入り口も施錠されているよ。多分、そこで伸びてる鼻出はなですぎが死ぬ前にロックしたんだよ」

「佐々木様、林崎です」


「奈良原殿! 確認してみましたが、扉が思いのほか頑丈であります! これはバールや鈍器による打撃では破壊できないかと思われます!」

「ぴぃぃぃぃっ! さ、寒いですぅー。あ、弱音を吐いてごめんなさい! すみません! ぴぃぃぃぃぃっ!!」


「藤堂さん」

「ぴっ!? ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「いえ、俺のジャケットをどうぞ。ダウンのちょっと良いヤツです」

「ぴぃぃっ!? い、良いんですか!? 奈良原さんは寒くないんですか!?」

「気にしないで下さい。鍛え方が違うんですよ」

「ぴぃぃぃぃっ! ありがとうございます! ごめんなさい!!」


「おっ! 新汰ぁー! たまには男らしいとこ見せんじゃねぇかよ! 見直したぜ!!」


「うちの優秀な事務員が風邪を引いたらどうします。……うわぁ、寒い。ダメだ。おこしやすさんの上着を回収しましょう。ダメだダメだ、寒いです。よく考えたら、寒さって体の強靭さより、どっちかって言うと精神力の方が必要とされるじゃないですか。ああ、無理無理、寒いです」


「見直した評価を適性値に見直しといたわ! 敵には無慈悲で死体から追い剥ぎとか、なんだ、いつもの新汰じゃん!!」


「あの、皆様。よろしいでしょうか」

「はい。郷田さん。どうぞ」


「林崎。まだ死んでおりませんが。彼を起こせば良いのではないかと愚考致しました」


「郷田さん。さすが、伊達にデスゲーム仕切って来た訳じゃないってことですか」

「その手があったかぁ! 郷田さん、やるじゃねぇの!」

「郷田にも知恵があるんだね。人間、誰しも絞ってみるものだ」



「あの、郷田さん。もしかして、皆さん割とポンコ」

「バカぁぁっ! ヤメなさいよ、高東原くん! 小久保くんみたいになりたいのかね!? 君も時々昔のアホな頃の君が顔を出すな!? どうなってんだ、うちの社員!!」

「す、すみません! 口が滑りそうになりました!!」

「うむ。我々は、必要最低限の事を言えば、あとは路傍ろぼうの石となるのだ」



 そうと決まれば、ゲームマスターを叩き起こしますか。


「新汰、頼むぜ! いつもの往復ビンタでバシッとやってくれや!」

「えー。嫌ですよ。こんなおっさんとじいさんの中間みたいな人の頬に触れるとか、生理的に無理です」

「バールでやるかい? 8割くらいの確率で本当に死ぬけど。あはは!」


「チームサイコパスはマジでやりそうだからこえぇんだわ」


 見た目は半グレ、中身は穏健派のペタジーニさん。

 是が非でもゲームマスターを穏便に起こしたいと言います。

 分かりましたよ、鼻輪のジェントルマンに今日は俺が折れましょう。


「チロルさん」

「はっ! なんでありましょうか、総司令官殿!」

「まだ牛乳って残ってます?」

「1リットルはあるであります! 凪紗殿がたくさん用意してくれたでありますから! 奈良原殿も喉が渇いたのでありますか?」


「いえ。牛乳ぶっかけて、気付きつけにしようかなって」

「……えっ? き、貴重品である、新鮮な牛乳をでありますか!?」

「はい。だって、他に液体がないんですもの」


「くっ。殺せ……」


「はい。ありがとうございます。死なないで下さいね、チロルさん」


「このまま生き恥を晒すくらいなら、あたしは死を選ぶ!」

「藤堂さん。チロルさんが死なないように見ててください」

「ぴ、ぴぃぃぃぃっ!? ち、チロルさん! 死んじゃ嫌です! ぴぃぃぃっ!!」


「はい。それじゃあ、顔面に牛乳をぶっかけましょう。ペタジーニさん、頭の方、持って下さい」

「えええええっ!? 嫌だよ、オレ! ぜってぇ牛乳まみれになるじゃん!」


「ペタジーニさん。クリスマスの宴会で言ってましたよね? 瑞鶴ずいかく? なんか、髪が2つ分けになっている女の子のフィギュア、並んで買ったって。御日様おひさま組の若い衆に自慢してたじゃないですか。つまり、母屋にまだありますよね?」


「おまっ! お前、それはもうパワハラを越えてんぞ!! お、オレだってたまには逆らったりするんだからな!? 良いか!?」

「帰ったら最初に粉々にして差し上げます」


「すんませんっした。どうぞ、牛乳をオレもろともぶっかけて下さい」

「図書券あげますから、ねないで下さいよ」


 そして、鮭ヶ口牧場の新鮮牛乳、投下。

 ああ、もったいない。


「……げほぉぇ!? はぎぃ、はひぃ、わ、私はどうしたんだ!?」


「オレ、おっさんとじいさんの中間の人を膝枕ひざまくらする日が来るとは思わんかったわ。しかも、牛乳浴びながら。……いいから、立てよぉ、おっさん!!」


 状況を理解した林崎さん。

 その年で意識回復から即座に事情を察するのはすごいですね。

 脳年齢若いんじゃないですか?


「くっ、くっそ! 卑怯な不意打ちを仕掛けてきおって! 奈良原ぁぁぁ!!」

「えっ。卑怯な不意打ちで人質ひとじち集めるのがベターなあなた方がそれを言います?」


「奈良原はすぐに正論で論破ろんぱするんだからな。友達ができないタイプだよね」


代々木よよぎさんには言われたくないです」

佐々木ささきだよ。そういうところだよ」


 するとゲームマスター・林崎さん。

 なにやら四角い機械と、ペンチを持って来て、俺の前で座り込みました。


「最期のゲームだ。まさか、貴様らがここまでやるとは思わなかった。私だって、このゲームで負けたら終わりなんだ! だから、命を懸ける!!」


「はあ。それで、何をするんです?」


「デス爆弾解体ゲームだ! この赤と青の配線の、片方は正解で、そちらを切ればこのビル全ての電力がダウンし、ドアのロックも解除される」


「あー。はいはい。それで、間違った方を選べば、ビルごと爆発ですか?」


「そ、そうだ! 私も死ぬが、お前たちだって死ぬ! どうだ! これなら私の負けはない! 負けはないのだぁァァァァァ!!!」



「おいおい、なんか林崎のおっさん、やべぇ感じになってんぞ?」

「どうせ奈良原の事だから、必勝法があるとか言い出すよ」


「じゃあ、切りまーす」


 俺は迷わず、赤い方の配線を切りました。


「ぷっ、ふははははは!!! やったな! 奈良原ぁ!? お前、やってしまったな!? 赤が起爆の配線だったんだよぉぉぉぉ!! くははは! これで全員木っ端みじんだぁ!!」


「あ、そうでしたか」


 突然ですけど、爆発の擬音にお好みってあります?

 ドゴンとか、ズガンとか色々ありますけど。

 俺ですか? 俺はやっぱり、王道を行くドカーンですかね。



 廃ビルから3区画先に行ったところにある無人の倉庫が、ドカーンと音を立てて爆発、炎上しています。



「くはははははっ! ははははは、ははは、はは、は?」


「新汰ぁ!? どういうことなん!? ちょっと分かるように説明して!」

「いえね、到着した時に、玄関の周りでウロウロしたじゃないですか。その時に露骨な爆発物見つけたんで、一応離れた場所の倉庫にぶん投げておきました」


「そんな一応ってある!?」



 そして、残った青い配線もカット。


「チロルさん、扉の塩梅あんばいはどうですか? あと生きてます?」

「はっ! ……奈良原殿、問題なく開くようになっているであります!!」


「それじゃあ、帰りましょうか」



 すると、上空からヘリコプターが接近して来て、屋上に着陸します。

 これは俺も知らない展開ですね。


 中から、なんだか偉そうな髭を生やしたおじさんが出てきました。


「奈良原新汰。君を、我がデスキングダムのデスゲームに招待しよう。拒否権はなひぃぃぃぃぃん」


「お前ぇえぇぇぇ! 何やってんのぉぉぉ!? 絶対これ、大事な場面だったじゃん!!」

「往復ビンタですが? なにか?」


「そーゆうとこだよ、お前ぇぇぇ!! また主要人物気絶させてんじゃん!!」



 嫌だなぁ。まーた俺が悪者にされてますよ。

 俺が何をしたって言うんですか。



 なんか敵っぽい人を先んじて倒しただけですよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る