第62話 神経衰弱の必勝法はスピリチュアルな人
「落ち着いたでありますか? 雪美殿!」
「ぴ、ぴぃぃ! ごめんなさい、わたしのために! ごめんなさい!!」
「謝らなくても良いのであります! これも、奈良原殿のご采配なのであります!!」
どうやら藤堂さん、人心地ついた模様。
それは何よりです。
俺たちの感覚が麻痺しているからアレですけど、普通に考えたら、デスゲームに巻き込まれたりした日には、そりゃあ心中穏やかではいられません。
「あ、あああ、あの! な、奈良原さん! ぴ、ぴ、ぴぃぃぃっ!」
「はい。なんでしょう?」
「わた、わたしのために、あの、お手数をおかけして、ぴっ、ごめんなさい!!」
「ああ、いえ、あのー。アレですよ、なんて言うか。別に、そのね、アレですから、こういう時は何て言うか。ええと、ああ! そうだ! お気になさらず!」
「嘘だろ!? お前その一言を探すのにどんだけ頭ん中駆け回ったの!?」
「ペタジーニさんとは違うんですよ。俺は。ねえと言われて、モォーと鳴けるようにはできてないんです」
「モォーって鳴いた事は1度もねぇけど!?」
「そう言えば、牛ってどうして鼻輪付けてるんですか?」
「牛の事情は知らねぇよ! なんでオレ見てんの!? だから、オシャレだよ!!」
「ふ、ふふっ。ぴっ、ごめんなさい! おふたりの掛け合いが面白くて……」
「いくらでも笑ってあげて下さい。ペタジーニさんは喜びます」
「そうなんですか? ペタジーニさん? 日本語、お上手ですね!」
「久しぶりの展開で懐かしさすら覚えるけどよ! オレね、日本人なんだわ!!」
「ぴぃぃぃっ!? ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」
「雪美殿、ペタジーニ教官は、今は立派な日本人であります! そして、ピポロン族の勇敢なる戦士でもあるのであります!!」
「今も昔も立派な日本人だよ! あと、ピポロン族にはなった事ねぇよ!!」
藤堂さんの緊張も良い感じにほぐれて来たところで、偵察に出ていた高東原さんが戻って来ました。
「僕はお役に立てそうにないので、せめて先の様子を見てきます」とか、死亡フラグみたいな事言って出かけて行ったのに。
普通に無傷で帰って来るとか、それはちょっとイエローカードですね。
「どうだったかね? うちの社員は次のフロアにいたかね?」
「ええ、郷田さん。
「そうか。よく頑張ってくれた。奈良原様にお伝えしよう」
「あ、すみません。聞こえてました」
「そうでしたか! では、そろそろ次のフロアに進みますか?」
「そうですね。藤堂さんはどうしましょうか。細山田さんを待たせている下のフロアに行ってもらう方が安全だと思うのですが」
「奈良原殿! いえ、総司令官殿!
「はい、チロルさん。どうしました?」
「雪美殿は帯同させてあげて欲しいであります! あたしが一緒の方が安全であります! 奈良原殿のご迷惑にはならないようにしますゆえ!!」
「あ、良いですよ」
「軽いな! ちょっと良い値段のする羽毛布団か!!」
「奈良原殿……! ありがとうございます!!」
「ぴっ、ごめんなさい! でも、チロルさんと一緒だと、安心しますぅ」
話が纏まったことですし、ペタジーニさんを先頭に上階へと進みます。
道中の罠は把握済み。
うっかり言い忘れてペタジーニさんがとらばさみに引っ掛かりそうになった事以外は、おおむね予定通りの進軍となりました。
『命知らずの愚か者どもめ、また罠を運よく避けて来れたようだな!』
毎フロアに必ずモニターがあって、毎フロアで必ずおっさんが顔出しで煽って来るんですけど、こんな仕様にしましたっけ?
「あのー。元デストラのおふたり、良いですか?」
「デストラ、ああ、略しておられるのですね。はい、何なりと」
「山梨駅さん、このゲームの企画者が俺って、もしかして知らないんですか?」
「あ、はい。恐らくは。と言うか、ゲームの企画の管理も副社長の島津が行っていましたので、むしろどうやってゲームプランを手に入れたのか……」
郷田さんの言葉を引き取った高東原さんが、見解を述べます。
「企画の入手ルートは不明ですが、社長は実務に一切関わっていなかったので、奈良原様についても、企画課の1人だったくらいの知識しかないかと。しかし、もちろん今は、会社を傾かせた厄介なお方だと思っているはずなのですが……」
「あー。なるほど。バカなんですね!」
「言い方ぁ! 仮にもお前の元雇い主!!」
『ごちゃごちゃとうるさいヤツらだ! まあ、良い。ここで最初の犠牲者が出るのだからな! ゲームはデス神経衰弱! 50枚のパネルをひっくり返して、同じマークのものならセーフ! だが、ミスは2回までしか許さない! 3回目のミスで、プレイヤーと人質は死ぬ!!』
「おいおいおい! なんか急にハードル上がったけど、大丈夫なんか!?」
「ペタ様、平気ですよ! 奈良原様は天才ゲームプランナーです!」
「ええ。わたくしどもも、こんな感じの展開でボコボコにされて来ました」
すごく言い出しにくい空気を作らないで欲しいですよね。
コミュ障って、空気感をすごく気にするんですよ?
喋らないから場の空気も読めないとか思ってもらっては困ります。
むしろ、人一番読んでいるまでありますからね。
「あのですね、皆さん」
「おお! 出るんだな! このゲームの必勝法!」
「いえ、あのー。困ったなぁ、なかなか伝えにくいんですけどー」
「なるほど! 口頭では伝えられない、高度な技術があるのですね!?」
「あー、いえ。そのですねー。アレなんですよ、もう、アレなんです」
「僕たちでは理解ができないから、敢えておっしゃらないんですね!」
「ええ……。うーん。えーと。じゃあ、言いますね?」
「このゲームの存在をすっかり忘れてました! パターン予測しようにも、二手までしかミスれないんじゃ、ちょっと難しいんですよねー」
「「「えっ」」」
「一応、プレイヤーはさっきのフロアから持って来た
「つまり、どういう事でありますか!?」
「一応確認しますけど。長沼さんでしたっけ? ……諦めちゃダメですよね?」
「だ、ダメだろ!? どうしたんだよ、お前! いつも言ってんじゃん! 俺の作ったゲームで死人なんて出させませんよ! とか!!」
「あ、やっぱりダメですか。じゃあ、時間かかる方法で良いなら、必勝法があるんですけど。そっちやります?」
元デストラのおふたりに確認。
即答が返って来ました。
「そ、そちらでお願いします!!」
「我々、どんな事でもしますから!!」
「ああ、そうですか。じゃあ、高東原さん」
「は、はい!」
「車に戻って、地図のこの場所に行ってもらえます?」
「は、はい?」
「助っ人呼びます。1人、知り合いにいるんですよ。チート系の能力者が。なんか、アレです、スピリチュアルな人で、色々よく
「た、高東原くん! 行って!」
「あ、多分外の黒服が襲ってくると思うんで、これ、どうぞ。バールと、良い感じに短くした槍です。
「運任せかよ! オレも行くか!?」
「いや、ペタジーニさんいなくなったら、戦闘員がチロルさんだけになっちゃうじゃないですか」
「郷田さん、皆さん。僕、行きます!!」
「すまない。もしもの時は、私もすぐに後を追うから。あの世では部下も上司もなしだ! 先に逝った君が
「……はい!!」
そして高東原さんは、槍を抱えて走って行きました。
不謹慎ですけど、アレですね。
私服で槍持って走る人って、なんか笑えますね! あははは!!
では、俺も助っ人に連絡を取る事にしましょう。
電話をかけて、少しすると通話状態に。
「あ、もしもし? 今ってお仕事中ですか? あ、お仕事中。それって、サボタージュする事できます? えっ? 補償? ちょっと待ってくださいね」
一旦スマホから耳を離して、郷田さんに相談。
「あの、助っ人がお金を要求してるんですけど、いくらまでなら出せます? 50万くらい出せると、食いついてくれると思うんですけど」
相変わらず、お金大好きですね、この人ったら。
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