第61話 食いしん坊キャラはだいたい強い

 藤堂さんを無事に回収。もとい、解放することに成功。

 そして俺たちは、地道に次のドアの鍵を探しています。


 繰り返しますけど、この俺たちが鍵探してるシーン、上級国民の方たちはどんな気持ちで見ているのでしょうか。


 せめて藤堂さんとチロルさんにカメラを向けたら良いと思いますよ。

 だって、男たちが鍵を探す姿なんて見てても面白くないでしょう?

 面白いって言う人は、変態か、そうでなければよりたちの悪い変態です。


「新汰よお、覚えてねぇの? 鍵の隠し場所」

「そうですねぇ。槍の先端にくっつける事にしていた記憶はあるんですけど、さすがにそこまで採用はされていないでしょう」

「おお、それは俺でも意味が分かんねぇ。なんで槍の先端?」


「ノリですかね」

「よっぽど疲れてたんだな」


「いえ、でも、そうだ! 高東原さんだって悪いんですよ! 思い出しました!」

「ひぇ!? も、申し訳ございません! 過去のご無礼の数々は!!」

「ああ、そうじゃなくて。別に、今更クビにされたのがどうとか言いませんよ。恨みに思ってたら、デスツイスターゲームの時に殺してますもん! あはは!」


「笑い事じゃねぇな! 高東原さん、気をしっかり!」


「だって、この企画チェックしたの、高東原さんですよ。俺、あなたに提出した記憶がちゃんと残ってますもん」

「そうなのかね、高東原くん」

「あ、いえ、その、すみません! 覚えておりません!!」


「しゃあねぇんじゃないの? そんな昔の事、覚えてねぇだろ? 新汰の記憶力がチートなだけだって。なあ、新汰?」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」


「どういうことなの!? なんで急に壁、バールでぶん殴ってんの!? お願いだから何かする前に説明して! 心臓が止まっちまう!!」


「いえ、槍の発射口を破壊して、一応先端の確認しようかなって」

「だからそれを先に言えよ!! 見ろ、高東原さんが戦場で呂布りょふに出会った歩兵みたいな顔になってんじゃん!」


「ああ、呂布りょふって怖いですもんね」

「お前よりは怖くねぇよ!?」


 そして発射口を破壊していくこと、3つ目。

 やっぱりさすがにないですよねって言おうとしたら、普通に鍵がくっ付いていました。


 バカなんじゃないですかね、ゲームマスター。


 企画書を妄信し過ぎですよ。

 少しは疑う心ってものを持たないと。


 俺にこんな事思わせるとか、大したものですよ。


「郷田さん」

「はっ。何でしょうか」

「山梨駅さんってどんな人ですか?」

「林崎でしょうか?」

「ああ、そうでした。林崎さん。いえ、下請けとは言え、デスゲーム興行のトップですよね? ちょっとお粗末が過ぎるんじゃないかと思いまして」


「社長は現場に一切介入せず、実務のトップは副社長の島津しまづに投げていましたから、当然かと思います」


「ペタジーニさん! あなたの好きなキャラですよ!」

「それ島風だよ! って、別に好きじゃねぇし!? ヤメてくれる、そういう嘘!」

「じゃあ、帰ったらフィギュアで的当て大会しましょうね」


「ごめん! 許して! あれ完全受注生産だから! もう手に入んねぇの!!」


 とりあえず、鍵はゲットしたので、先に進みたいのですが。

 ゲームマスターが何も言って来ませんね。

 普通、ここでワンクッション挟むのがパターンだったじゃないですか。


「奈良原殿! 雪美殿に温かい牛乳を差し入れたいのですが、火を使っても良いでありますか!?」

「えっ!? ビルに火をつけるんですか!? それは思いつかなかったなぁ」


「猟奇的な勘違いするんじゃねぇよ!!」

「な、奈良原様ぁ! まだうちの社員が2人残っておりますぅぅぅぅ!!」


「ああ、ホットミルク作るんですか。でも、どうやって?」

「心配ご無用であります! こんな事もあろうかと、携帯用のコンロとシェラカップは持ち歩いているであります!!」

「おー。マジか、チロルちゃん。さすが元傭兵! で、シェラカップってなに?」


「俺に聞いて分かると思います?」

「いや、新汰、1人キャンプとかすんのかなって。ほら、孤独が好きじゃん。ゆるキャン△流行ってるしよお?」


「言っときますけど、コミュ障は1人でキャンプなんかしません。まず、キャンプ場の受付で詰むんですよ。うわ、こいつ1人かよ、とか思われるかもと考えると、すでにそこがゴールなんです。だから、キャンプなんかしません」


「なんか、ごめんなさい」


 チロルさんによると、シェラカップとは、直火で使える小っちゃいお鍋みたいなものらしいです。

 世の中、便利な物ってあるんですね。


「ぴっ、ぴぃぃぃっ! ごめんなさい! わたしなんかのために、お時間を!!」

「あ、もしかして、俺に話しかけてくれてます?」


 コミュ障あるある。

 大人数でいる時には、誰かが発言しても、それが自分に向けてのものかを確定させなければ反応しません。

 ちなみに、大概の場合、反応する前に話が次のフェーズに進んでしまいます。


「ぴ、ぴぃぃっ! な、なら、奈良原さんがボスだって聞いたので!」

「一応俺が経営者ですが、そんなに恐縮しないで下さい。ただの一般人ですよ?」


 どうして俺以外の男性陣が一斉に視線を逸らしたのか。

 俺、そういうところも敏感だから、分かるんですよ?


「ごめんなさい! わたし、のろまで人の足を引っ張ってばかりで!!」


「あ、そうなんですか? じゃあ、俺の仲間ですよ。俺なんて、基本的に人の足を引っ張って生きてましたから。そして、それも面倒になって、1人で農業してました。だから、頑張って人の足を引っ張っている藤堂さんは偉いですよ」


「ぴぃっ? そ、そう、ですか? そんな事言われたの、初めてで……」

「そうですよ。自信を持って下さい」


「雪美殿! ホットミルクが出来たであります!」

「あ、ありがとうございまぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」



 次の瞬間、急にドアが開いたかと思うと、男が3人乱入して来ました。

 手には刃物。

 これは俺の知らない展開ですね。


『のんきにグズグズしているから、ここでゲームオーバーだ! お前たち、高い金払っているんだから、3人で全員の息の根を止めろ!!』


 そしてゲームマスターがモニターに。

 モニターに出ているという事は、中継されている事になるんですけど、そんな自分からゲームぶち壊しに行って良いんですか?


「ぴ、ぴぃぃっ!?」


 驚いた藤堂さんは、ホットミルクをこぼして後ずさりします。

 すぐに臨戦態勢に入るのはペタジーニさん。

 が、それよりも早く動いたのはチロルさん。


「き、貴様らぁぁぁぁぁぁぁっ!! 貴重な食料を!! 許さん!!」


 聞いたことのない怒気どきに俺も他の皆さんもドキドキ。

 出会ってすぐに襲い掛かって来た時ですら、こんなテンションじゃなかったのに。


「おいおい、お姉ちゃん、威勢が良いなぁ! 良い体してんじゃぺげぇっ」

「お前何してぽぴぃしぇんせ」


 チロルさん、見事なジャンプからの強烈な回し蹴り。

 横でペタジーニさんが「ソバットかよ!」とか言っています。

 ソバットって言うんですって、あのカッコいい回し蹴り。


 そのソバットで1人目をノックアウト。

 そして返す刀で2人目を体重全部乗せの肘鉄により昏倒させました。


「こんにゃろ! いい気になんじゃねぇやぁぁぁぁんしゅ」


 そして、トドメに、なんて言うんですか、あのてのひらでグッてやるヤツ。


掌底しょうていフック!! すげぇぜチロルちゃん!!」


 そうです、それ。

 掌底で思い切り相手の顎を打ち抜きました。

 ペタジーニさん、実況までこなすとは、やりますね。



「食べ物の貴重さを思い知るであります。命までは取らない。だが、次はない」



「お見事です」


 するとチロルさん、バトルモードから一転、慌てて頭を下げました。


「も、申し訳ないであります! ついカッとなってしまい、総司令官殿の指示を待たずに突貫とっかんを!」

「いえいえ。良い判断でしたよ。じゃあ、もう1回ですね」

「と、言いますと?」


「ホットミルク、こぼれちゃいましたから」

「奈良原殿……! はい、すぐに用意するであります!! 雪美殿、待っていて下さい! すぐに用意するであります!」

「ぴ、ぴぃぃっ! ごめんなさい! ごめんなさい! でも、ありがとうございます!」



 では、俺もゲームマスターに一言。


林原はやしばらさん」

「奈良原様。林崎はやしざきです」


 一言じゃ済みませんでした。


「林崎さん。もっと本気で来ないと、すぐにそっち行きますよ?」


『い、いい気になるなよ! お前たちの首を取って、私は栄転するんだ! すぐに殺してやる! 良いな、すぐにだ!!』


 そしてモニターの電源が落ちました。

 何やら焦っておられますが、こちらはゆっくりと行きましょう。


 藤堂さんにホットミルクを飲ませてあげる時間くらいはありますよ。

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