【完結しました！】そのデスゲーム作ったの、俺です。 ～会社をクビになったのでスローライフを始めたのに、やたらと命を狙われるため全て返り討ちにします～

第59話 有能な事務職員候補、発見する

　誰かがモニターの配線切ったものだから、鍵の有りかが分かりません。

　だって仕方がなかったんですよ。

　生理的に受け付けない声なんですもん。

「あ、総司令官殿!　この鍵は違いますか!?」

「チロルさん、よく見つけてくれました。でも、ダメですよ。スカート履いてるんだから、そんな無防備に四つん這いになっちゃ」

　上級国民のクソ野郎様たちにサービスシーンを提供することはありません。

「これは失礼しました!　お見苦しいものを!!」

「以後、気を付けて下さいね」

「女子のパンツ見えそうになったシチュで以後気を付けろって感想が出て来る発想が怖ぇよ!　もう早く行こうぜ!　そこのドアの鍵開けてよお!」

　言われなくてもそうしますよ。

　鍵穴に差し込んで、グイっと。

　……回りませんね。

「ああ!　細山田（ほそやまだ）くん!　細山田くんじゃないか!!　そんなところに閉じ込められて!!」

「お知合いですか?」

「うちの社員です!　人質に取られた仲間の一人ですよ!!　ああ!　鍵穴がある!　奈良原様、その鍵、こっちのものなのではないでしょうか!?」

　細山田さんは、透明なガラスで出来た棺桶に閉じ込められていました。

　こういう装飾にだけ凝って、何がしたいんですか。

　まだ、若い女子が閉じ込められているのなら分かりますよ?

　上級国民の方たちには、そう言う趣向が好きな輩（やから）もおられるでしょう。

　細山田さん、結構な勢いでおっさんですよね。

　おっさんがガラスの棺桶とか言うロマンチックな場所に拘束されているシーン見て、何か感じる人っていますか?

　あ、不快感以外でお願いします。

「細山田くん!　息は出来ているのか!?　今、出してあげるからな!」

「は、はい。すみません、郷田社長」

　細山田さん、健康状態は良好な模様。

「すみません、奈良原様。鍵をお借りできますか?」

「ああ、はい。……あれ?　あー。うん。少し待ってくださいね」

　困ったことになりましたね。

　いえね、差し込むときから妙にフィット感がないな、とは思っていたんですよ?

　でも、ほら、人質の事を忘れていたものですから。

　ドアの鍵と疑っていなかったので、かなり強引に差し込んだんですよ。

　抜けませんね。

「おい、新汰?　もしかして、抜けねぇとか?」

「ふぅぅぅぅぅんっ!!」

　——ガキッ!

「……ええと。郷田さん。高東原さん。ひとつお聞きしたいんですが」

「はい。なんですか?」

「その人、置いて行きません?」

「えっ!?　いや、あの、出来れば助けて頂きたいのですが!」

「あ、やっぱりそうですか?　困ったなぁ」

「お前……。さっきの音。お前……。やったな?」

　鍵がね、折れたんですよね。鍵だけにガキって音を残して。

　こんな脆（もろ）い鍵を用意した運営サイドに責任があると思うのですが、今この場では、なんだか俺がやらかしたみたいな空気が充満しています。

　嫌だなぁ。コミュ障って、そういう空気に敏感なんですよ?

「細山田くん!　しっかりしろ!　絶対に助けてやるからな!!」

「奈良原様!　何か手はないのですか!?　僕や郷田さんのゲームを打ち破って来た、その知恵をお借りしたいのですが!」

　分かりました。分かりましたよ。

　俺が悪かったです。

　責任を取って、細山田さんは助けますよ。

「みなさん、少し下がって下さい。細山田さんは目を閉じて、手で顔を覆って下さい。十字架を切るのも忘れずに」

「ちょ、おい!　待て、待て待て待て!!　新汰、ちょっと待って!!」

「ふぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」

　振り降ろしたバール。

　バリンと言う景気のいい音と共に、棺桶が割れました。

　ガラス製で助かりましたよ。

　ステンレスとかだったら苦戦していました。

「ほ、細山田くぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「大丈夫ですよ。ちゃんと、足の方を割りましたから。じゃあ、俺はこっちも片づけますので。感動の再会は隅の方でお願いします」

「待って!　ねえ、新汰!?　新汰さん!?　そのバールで何すんの!?　いや、もう分かってんだけどさ!　それ、やって大丈夫!?」

「ふぅぅぅん!　せぇぇぇぇい!!　えぇぇぇぇぇん!!!　はぁぁぁぁぁぁい!!!!」

　俺は先に進むためのドアを、遮二無二（しゃにむに）バールでぶっ叩いています。

　だって仕方がないですよね。鍵穴が埋まってしまいましたから。

　今更、本物の鍵が見つかったって、どうにもならないですもん。

「奈良原殿!　鍵を発見したであります!」

「チロルちゃん。もう、遅いんだわ」

「おお!　強行突破!　力こそパワーでありますな!　さすがは総司令官殿!!」

「発想が戸愚呂弟のそれなんだわ。多分ゲームマスター、ドン引きしてると思う」

　１３発目の打撃で、ドアが完全に向こう側へと倒れました。

　なかなか手こずらせるじゃないですか。

　やりますね、ゲームマスター。

「さあ、ちゃっちゃと行きますよ。３階へ上がります。ついて来て下さい」

　なんだか空気が重くなりましたが、原因は分かっています。

　ペタジーニさん以外はデスゲームに初参加。

　特に、郷田さんと高東原さんは運営側を経験しているので、より緊張するのでしょう。

「違うよ?　お前にドン引きしてるだけだよ?」

「よく来たね!　あたしゃ、この階の番人!　お題はパズルだよ!　この手錠をはめて、パズルに挑戦してもらうからね!　時間内にクリアできなければ、高圧電流が流れるって寸法さ!　ひっひっひ!」

　また馬鹿の一つ覚えみたいに高圧電流が出てきましたよ。

　いえね、企画したのは俺ですよ?

　言い訳させてください。

　この迷路脱出ゲーム、３日徹夜した頭で考えたヤツなんですもん。

　そりゃあ、いい加減な設計になりますよ。

　なんで、よりによってこんな欠陥ゲームチョイスしたんですか?

　繰り返しますけど、作ったの俺ですって言うのが恥ずかしいんですけど。

「ああああ!!　藤堂さん!　藤堂さんじゃないか!!」

「あ、今度は女性の方なんですね。綺麗な女性だと、確かに映えますね」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!　わたしなんかのために、ごめんなさい!!」

「藤堂さん!　良いんだ、気にしないで!」

「でも、帳簿整理の途中でしたし!　ごめんなさい!　わたしのせいで、仕事に遅れが!　ごめんなさい!!」

「いや、君は素晴らしい事務員だよ!　１人でうちの事務仕事を引き受けてくれているじゃないか」

「えっ?　そんなに優秀な方なんですか?」

「あ、はい。それはもう。今年のデストライアスロンの新入社員だったので、もちろん助ける意味合いもありましたが、彼女の能力は実に高いです」

「……良い事を聞きました」

「うわぁ。新汰がすっげぇ悪い顔してる。きっと、ろくでもねぇ事言い出すぞ」

「奈良原殿は何をされるのでありますか?」

「チロルちゃんもよく見てな?　あいつ、サイコ野郎だから」

「はじめまして。俺は奈良原新汰と言います。あなたを助けに来ました」

「ぴぃぃぃっ!?　ごめんなさい!　わたしなんかのために!　ごめんなさい!!」

「いえいえ。ところで、藤堂さん?　例えばなんですけどね。農場の帳簿管理、１か月分を最速で済ませろと言われたら、どのくらいかかります?」

「い、１日かかっちゃいます!　ごめんなさい!　のろまでごめんなさい!!」

「もしかして、簿記の資格持ってます?」

「日商簿記の２級なら持ってます!　１級じゃなくてごめんなさい!!」

「藤堂さん。あなたの命は、今、俺の手のひらの上にあると言っても過言ではありません」

「ぴっ、ぴぃぃぃっ!!」

「郷田さんのところの２倍の条件を出しますから、うちで働きませんか?」

「ほーら。むちゃくちゃ言い出したよ」

「え、あの、奈良原様?　それはどういう?」

「黙らっしゃい!　郷田さんだって、デスゲームの時に俺の事を引き抜こうとしたでしょう!?　やったらやり返されるのが世の中ってもんですよ!!」

「ぴ、ぴぃ!!」

「ああ、ごめんなさい。大きな声を出してしまいました。もちろん、職場の見学をして、あなたが気に入ればで結構ですよ。考えてもらえませんか?」

「新汰よお。それはもう交渉じゃない。脅迫だよ?　クレイジーサイコ野郎だなぁ、お前ってヤツは。そのブレない姿勢は政治家に見習わせたい」

「藤堂さんのお返事次第では、俺のやる気も変わるのですが」

「い、行きます!　前向きに考えますぅ!　ごめんなさい!!」

「その言葉が聞きたかった!」

　俺は、おばあさんの座っているテーブルに着き、手錠をはめました。

「えっ。あ、あんた。はめた瞬間から、時間は減るんだよ!?」

「静かにしてもらえますか。ああ、このパズルですか。なるほど」

　思わぬところで優秀な人材のヘッドハンティングチャンスが到来。

　逃す手はありません。

　ああ、それから、このパズル作ったのも、俺です。