第57話 そのデスゲーム作ったの、やっぱり俺です。

 しばらくして、迎えのハイエースが到着。

 俺とペタジーニさんとチロルさんは、諸々の用意を整えて乗り込みました。


「新汰さーん! 気を付けて下さいねー!!」

「そうだし! お兄が怪我したらヤだかんねー!!」

「こちらの事は自分たちにお任せ下さい!」

「押忍! この命に代えても守り抜きます!!」


 見送りの数が足りてないんですよね。


「ああ、そうだ。テレビの横にニンテンドースイッチと輪っか使ってやるゲーム。何て言うのか忘れましたけど、あれ買っときましたんで」


「マジ!? お兄、気が利くじゃん! じゃあ、みんなで遊んで待ってるし!」

「新汰さん、私、おっぱい鍛えてお帰りを待ってますね!」

「自分、ゲームすんの初めてっす! 楽しいって噂のヤツっすよね!」

「赤岩、お前! 言っとくけど、交代でだかんな! 先、オレな!!」


 見送りの数がゼロになりました。


「奈良原様、車を出しても良いでしょうか?」

「ああ、はい。どうぞ」


高東原たかとうはらくん、頼む」

「はい。了解しました」


 そして出発。

 目指すは海月くらげ市のふ頭。



 俺は、郷田さんの作ってくれたレポートを読みながら、予習です。

 人質が全部で4人。こっちのプレイヤー数に指定はなし。

 そしてステージが多分これ、廃ビルですよね。


 なんだか久しぶりに感じる既視感。


「戦場に向かうこの感じ、血が冷えていくようで気が引き締まるであります!」

「ものすごい勢いでチキン食べてますけど」

「これはその、エネルギー補給であります!!」


「ゔぉえ……ちろ、チロルちゃん。車内で揚げ物の匂いは……ゔぉ、モルスァ」


「チロルさん。エネルギーの補給でペタジーニさんが死にそうです」

「なんと! これは教官殿! チキンを食べて元気を出すであります!!」

「いや、マジで、ヤメ……。ゔぉろろろろろろろろろろろろろろ」


「高東原さん」


「はい。次のコンビニで1度停まります」

「ビニール袋持って来ておいて良かったですね」

「教官殿! 戦いを前にして、緊張しておられる!!」


「……チロルちゃん、だいたい全部、君のせいなんだわ」


 これは困ったことになりました。

 何が困るって、この世界の根幹にかかわる事ですよ。



 ツッコミ役が死にそう。



 俺はコミュ障の自覚があるので、基本的にツッコミありきで普段は喋っているのですが、ご存じだったでしょうか?

 そんな俺から、ツッコミを差っ引くとですね。


 コミュニケーションが成立しなくなるんですよね。


 連携がものを言うデスゲーム攻略においてこれ、割と致命的じゃありません?

 さすがに、必勝法を閃いたって俺一人じゃなかなか実行するのも骨ですし。


「奈良原様! ウコンの力、買って来ました! 棚にあった分、全てです!!」

「ありがとうございます。さあ、ペタジーニさん、飲んで飲んで飲んで! 飲んで飲んで飲んで! 飲んで!!」


「……なんで、おま、お前、一気コールなんだよ」


 普段のペタジーニさんのツッコミ力を1とすると、今のペタジーニさんは存在が消えるレベルです。

 ウコンの力のドーピングで、到着までにどれだけ持ち直せるか。

 これは早々に大きなターニングポイントですよ。


 そしてハイエースは走るよ、どこまでも。

 30分で人気ひとけのない、いかにもな倉庫群に到着。


「こちらが指定された場所のようです」


 郷田さんが、カーナビと脅迫文の位置を確認します。

 まあそうでしょうね。

 確認するまでもないですよ。


 廃ビルの前に黒服の人が立ってますから。


 こんな異様な光景、あります?

 多分、日給20000円とかで雇われたんでしょうね。


「とりあえず降りましょうか」

「危険はないでしょうか?」

「あはは! 高東原さん、嫌だなぁ! 知ってるくせに! 中継があるんですから、カメラの前に行かない限りはいきなり撃たれたりしないでしょ!」


「も、申し訳ありません」


「ところで郷田さん。高東原さんも」


「はっ。なんでございましょうか」

「僕もですか。なにかご無礼ぶれいがありましたか!?」


「いえ。何て言うか、キャラ変更って言うんですかね? そういうのしたくなる気持ちも分かるんですけど、正直言って良いですか?」


 俺は許可を待たずに口に出しました。


「お二人の口調が変わり過ぎてて、誰が何しゃべってんのか、今一つピンと来ないんですよね。昔みたいな感じにできません? ほら、ひゃっはー系の!」


「奈良原様、お許しください。あなた様に対してあのような態度を……」

「僕は、毎晩未だにうなされるんです。こればかりは、どうかご容赦を……!」

「もー。困るなぁ。分かりましたよ、こっちで慣れていくよう頑張ります」


「できねぇ頑張りを約束すんじゃないよ!!」


 そこには、元気にツッコミをするペタジーニさんが!


「良かったですねぇ。ウコンの力が効いて!」

「いや、もうマジでな! チロルちゃんがチキン食いまくってる時は、この世の終わりかと思ったけどよ! 胃の中身も出ちまって、結構調子良くなったぜ!」

「ペタジーニさんは当分の間、禁酒で」


「いや、アレは凛々子ちゃんが! 飲み方が悪かっただけでよぉ!」

「禁酒で」

「……はい」


「総司令官殿! 六時の方向より黒服が2人来ます! ヤリますか!?」

「やらないで下さい。ああ、やりにくいなぁ。ちょっと、皆さん全体的にコミュ力下げるのヤメてもらえます? 俺が纏め役なんて、これ事件ですよ?」


「郷田農場の者だな?」

「そうだ! うちの従業員は無事なのか!?」

「くくくっ、それは自分で確かめてみるんだな」


「奈良原様? いきなり車から降りられては危険なのでは!?」


「黒服の人、少し良いですか?」

「なんだ貴様は。部外者は引っ込んでぶしゃ、べしゅ」


「口の利き方が良くないですね。新人ですか? いち、に! さん、し!!」

「えぶっ……ご、ごめんな、すみませ」

「謝ったら過去が消えるんですか!? そうじゃないですよね? ご、ろく!!」

「あしゃっ、ひゃなっ」


「郷田さん、僕たちどっちにしろ奈良原様に殺されるのでは?」

「高東原くん、その時は諦めよう」


「新汰! お前の何の気ない発言が2人の心をえぐってんだわ!! ヤメだけて!!」


「さて。皆さん、カメラの前に行きますか。そこに2つ付いてるんで、多分その辺に行ったら、ゲームマスターが何か喋り出しますよ」

「おい! 無視すんなよ!! チームワークは!?」


「今の俺は、ラディッツが攻めてきたら仕方なくタッグを組んだピッコロさんみたいなものなので。その人たちの心のケアまではちょっと」


「さっきスーパードライ飲んでたからってすごく冷酷になんなくても良いのによ! ……おふたりさん、オレが魔法の言葉を授けてやるぜ。良いか?」



 柔軟運動をしっかりとしておかなければ。

 怪我をしたら楽しいイチゴの収穫ができなくなります。


「な、奈良原様!」

「はて? なにか?」


「サクランボの木、10本ほどでよろしかったでしょうか!?」

「桃の木も、同じく10本、いえ、15本ご用意させて下さい!!」


「えっ!?」


「もちろん、生育方法についても出来る限りお教えいたします!」

「販路に関しては、わたくしどものツテをご紹介します!!」


「…………」


「ペタ様。これでよろしかったのでしょうか?」

「おう。見ててみ」


「しっかたないですねぇ!! もう、過去の事は水に流しましょう!! 俺たちは同業者!! これからも仲良くしましょうね! 郷田さん、高東原さん!! いやぁ、もう、仕方がないなぁ! なんだか気分が高揚して来ましたよ! 昔は昔、今は今ってね!!」


「なっ?」


「あとですね、このデスゲーム。作ったの俺です」

「そこまでは予想してなかった! マジで!?」


「デス迷路脱出ゲームですね。お蔵入りにされた企画です。当然ですけど、攻略法も必勝法も頭の中に入ってます」


「マジか! なんか久しぶりだな、このパターン!!」

ふへはほふひふほほへふはそれはどういうことですか?」


「チロルちゃんは、一旦チキンの骨、口から出そうな? 静かだと思ったよ」



 さて、早いところ攻略して、帰りましょう。

 今日、クリスマスですよ?


 こんなの、寒くてやってられませんよ。

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