第56話 お酒飲んじゃったんで、迎え頼めますか?

『な、奈良原様!? ご指示をくださいませんと、わたくし共もどうして良いか!!』

「えーと、あのー。アレです。……やっぱり良いです。悪いんで」


『何でもしますので! ご遠慮なさらずに!! お願いします!!』


「えー? そうですか? うわー、こいつめんどくせぇーとか思いません? 嫌なんですよね、俺、そんな風に思われるのって。この前もですね」

『思いません! 思いませんとも!!』


 そんな風に全肯定されると、なんだかちょっといい気分になりますね。

 知ってます?

 コミュ障って、人から褒められるとやる気が倍増するんですよ。


「じゃあですね、あのー。うち、今、宴会してるって言ったじゃないですか?」

『ははっ! 申し訳ございません! 水を差すような真似をしてしまい!!』

「ああ、いえね、そうじゃなくて。なんて言うかなー。あのですね、こっちに車の運転できる人がいないんですよね。全員お酒飲んじゃってまして」


『そ、そういうお話でしたか! では、すぐに迎えに参ります!!』


「ちなみに、郷田さんの農場ってどこにあります?」

烏賊山いかやま市の山岳部でごさいます』

「それで、デスゲームの会場はどこですか?」

海月くらげ市の沿岸部にある雑居ビルと脅迫文に書かれています』


 烏賊山市は、うちの農場のある鮭ヶ口さけがぐち市の隣ですが、聞いた感じですと車を飛ばしても1時間はかかりそうです。

 そこから海月市まで30分。

 準備する時間はそれなりにありますね。


「じゃあ、とりあえず貴乃花さん。じゃなかった、高東原さんと郷田さんでこっちに来てもらえますか?」

『かしこまりました!』

「あ、他の人の援軍はなしでお願いします。正直、郷田さんレベルの人だと、居るだけで手間が増えて邪魔なので」

『本当に申し訳ございません』


「サクランボの木! それで手を打ちますから! 気にしないで下さい! あははは!!」


 そして電話を終えた俺は、宴会場へと戻ります。


「お兄、電話長かったねー。なんか大事なヤツだった系?」

「いえ、そうですね、大事なヤツだった系ではないです。面倒くさい系でした」

「うへぇー。それはマジでナシだし」


「新汰さん、お出掛けするんですか? 外、かなり冷えますよ? 雪が降るかもって天気予報で言ってました!」

「うわぁ。ますます面倒になってきました。しかし、サクランボの木が……。サクランボって、植えてからどんなに早くても3年は収穫できないんですよね」


 それがタダで手に入るなんて。

 くぅぅぅ、これを逃す手はないですよ。

 上手くいけば、来年から出荷できるじゃないですか。

 ああ、品種を聞いておけば良かった。


「えー。あのー、皆さん。ちょっと聞いてもらえますか?」


 ……誰も聞いてくれませんでした。

 もうダメだ。


「お兄、声ちっちゃ! 仕方ないし! みんな、お兄が話すから聞いてあげてー!!」


 莉果さんの声は、瞬く間に部屋の端から端までを駆け抜けました。

 そのコミュ力が俺は欲しいんですけど、高校に通えば良いんですか?

 おかしいなぁ、俺、一応高校卒業したんですけど。


「どうしたんすか?」

「新汰くん、歌でもうたうのかな? やれやれー!!」

「終わり!? 宴会終わりなの!? オレのピアス、守りきれた!?」


「あのですね、なんか、デスゲームに巻き込まれた俺の元勤め先を辞めた人たちが俺を頼って電話して来てサクランボの木が手に入るんですけど」


「要領を得ねぇことがこの上ねぇな!」


「つまりぃー、新汰くんの敵だった人たちが、新汰くんを頼って来てー。サクランボの木で買収された新汰くんが助けに行くって感じー?」

「あ、そんな感じです」


 凛々子さん、酔っぱらっているのに何と言うコミュ力!

 白木屋姉妹のコミュ力は、やがてうちの農場の大きな戦力になる未来が見えますね。


「莉果さん、クリスマスプレゼントをあげます」

「えっ!? なんでいきなり!? でも、くれるなら貰うー! なになに?」

「図書券5000円分ですよ」


「あ、急にお兄が親戚のおじさんっぽくなった。なんでおじさんってお小遣いを何とか券にしたがるん? 現金の方が嬉しいに決まってるし!」


「そ、そうだったんですか……。じゃあ、あの、これ」

「おおーっ! 1万円だ! ありがと、お兄!」

「凪紗さんとチロルさんにも差し上げます」


「良いんですかぁ? ありがとうございますー!!」

「奈良原殿……! これでカップ麺が100個買えるであります!!」

「凛々子さんには後で酔いが醒めてから渡してあげて下さい。はい、莉果さん。ちょろまかしちゃダメですよ」


「失敬だし! ウチ、お金に関しては嘘つかないし!」

「本音はどうですか?」

「お姉のものはウチのものだし!」


 あとは姉妹間で調整してもらいましょう。


 さて、デスゲームの準備ですよ。

 急いで人選しなければ。

 まずは、阿久津さんは決定ですかね。


「阿久津さん。……あれ? 阿久津さん、死んでます?」


 そこには、あお向けになった顔色の悪い阿久津さんが。

 これは死んでますね。顔面が土の色してますもん。困ったなぁ。


「いや、何で諦めてんの!? 死んでねぇし! よしんば死んでたらもっと騒げよ!!」


「おじき、宴会のテンションのまま焼酎ロックで飲みまくってたので、潰れてます。こうなると、正直2日3日は役に立ちませんよ」

「えー。困りますよー。戦闘員が減るじゃないですか」

「それでしたら、自分たちが!」


 立ち上がるのは御日様おひさま組の若い衆!

 なんて頼りにな……森島さん、立ち上がれず。

 膝から崩れ落ちました。


「森島さん、おじきに付き合って飲むから……」

「奈良原さん。自分と赤岩ならイケます! 自分ら、酒あんま飲んでないので!!」

「ちょっと待ってくださいね。考えます」


 要介護者が、既に凛々子さんと阿久津さんに森島さん。

 さらに、凪紗さんと莉果さんを夜更けに残して、万が一にもデスゲームの運営がこっちにまでちょっかい出して来たら、うん、実にまずいですね。


「では、お二人にはここの護りをお願いします。もしもバカな人たちが乗り込んで来たら、ボコボコにしてあげて下さい。銃以外なら何使っても良いですよ」


「押忍! 奈良原さんのお留守を預かれるなんて、光栄っす!」

「自分たち、命張ってお嬢さん方をお守りします!」

「はい。お願いします。あと、ついでにそこで死んでる皆さんの上司が本当に死んじゃわないように気を付けて下さいね」


 嫌ですよ、俺。

 保護責任者遺棄いき致死ちし罪とかで報道されるの。


 こうなると、人選の仕様がないですね。

 ベーシックなスタイルで行きますか。


「ペタジーニさん。出られますね?」

「お、おお、任せろ。ゔぉえ。ちょ、ちょっとだけ気持ち悪いけど」

「一体どれだけ飲んだんですか」

「カルーアミルクとカシスオレンジを2本」


「その見た目でお酒に弱いとか、詐欺じゃないですか」

「見た目と肝臓の強さは比例しねぇんだよ!!」


「あとは、んー。あんまり女性に頼みたくはなかったんですが。チロルさん。ちょっと悪い人をボコりに行くんですけど、コンディションはどうです?」

「まだ腹八分目ですので、食べられるであります!!」


「腹具合は聞いていません」

「えっ!? まだ料理があるのに、この場から離れよと!?」

「はい」


「くっ。殺せ……!」


 なんでそんな事で死にたがるんですか。

 俺が悪い人みたいじゃないですか。


「じゃあ、箱にチキン好きなだけ詰めて良いですから」

「犬飼チロル二等兵! 出動するであります!!」


 これで陣営は固まった訳ですが。


「ゔぉえ……。あ、ああ、準備しねぇと。ゔぇあ……」


「チロルさん、そんなに持ってって食べられんの?」

「莉果殿、心配ご無用! あたし、かつては土食べてましたから!!」

「チロルさん、水筒に牛乳入れて行きます? 私、準備しますよ?」

「凪紗殿! お気遣い、痛み入るであります!!」



 あの、これ、大丈夫でしょうか。

 参加する前から不安の方が大きいデスゲームって初めてな気がします。

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