スローライフ編 その3

第44話 道の駅へ行こう!

 デスゲームから3週間。

 季節は11月。もう結構冷える時期になりました。


 寒さに耐えながら、じっと座って農作業。

 ふふふ、興奮して来ますね。ふふふ。



「新汰よー。オレ、ちょいとゴミ捨てて来るわー。ハイエース2号借りてくぜ」

「ペタジーニさん、見て下さい。そろそろイチゴの花が咲きそうです!」

「マジか! いやぁ、楽しみだなぁ!」

「興奮して来ますよね。ああ、ムラムラする」


「いや、野菜に抱く概念として既にそれは常軌を逸してる」


「俺はこれから、白木屋しらきや種苗園しゅびょうえんに行ってきます。注文しておいた苗を受け取りに行かなくてはなりません」

「そういや、今日だったか。オレもそっち行こうか?」

「いえ。あっちで莉果さんが手伝ってくれる予定ですし、凛々子さんも今日は暇らしいですので、恐らく大丈夫です」


「分かった。んじゃ、玉ねぎの植え付けは御日様組おひさまぐみの若い衆に任せとくか。おじき、今日はいねぇし」

「ええ。もう彼らも立派な農業戦士ですから、大丈夫でしょう」

「オレはゴミ捨ててきたら、準備して待ってるぜ」


「え? どこか行くんですか?」

「はあ!? お前、忘れてんの!?」


「多分忘れています」



「今日、凪紗ちゃんの職場の道の駅に遊びに行くって話だったじゃん!!」

「ああ、そうでした。うちの野菜が売れる瞬間を見て、興奮する日でしたね!!」



「お前、ぜってぇ凪紗ちゃんの前でそれ言うなよ?」

「言いませんよ」


「いいや、言うね! お前は絶対に言う!」


 ペタジーニさんのよく分からない自信満々の予言を聞き流して、俺はハイエース3号で出発です。

 それにしても、ハイエースが5台になってしまいました。


 これ、どうしましょうか?


 正直、3台あれば充分過ぎるのです。

 そして2台遊ばせていると、それだけで維持費が掛かります。

 お金を捨てているようなもので、ハイエースちゃんも泣いているでしょう。



「あー。やっぱりそんなにいらないよねー。じゃあさ、わたしがお店のお客さんに話つけてみようか? 少しお買い得な値段にしたら、すぐに買い手がつくと思うよ!」


 種苗園に着いて、ハイエースちゃんの事を少し話しただけで、すぐに買い手を探してくれると言う凛々子さん。

 これが現役女子大生のコミュ力……!

 なんと恐ろしい。


「おっつー! お兄、何の苗買ったのー?」

「莉果さん。こんにちは。もう学校は終わったんですか?」

「今日は5限までだったし! すぐに帰って来たんだよ。だって、お兄がウチの手をどうしても借りたいってうるさいからさー。仕方ないしー」

「莉果さんもすっかり農業のとりこに……! 嬉しいですねぇ!」


「……じゃないし」

「莉果、どんまい!」


「それにしても、注文しておいた苗が全部同じ日に受け取れるとは。実に助かります」

「ふっふー。そこは、敏腕経営者の凛々子さんだからね! わたしにかかればこのくらい、余裕、余裕! 任せてよ!」

「すごいなぁ。凛々子さんと結婚したいですよ」


「はへっ!? ……ああ、しまった。わたしとしたことが、新汰くんの天然に、ついついドキッとしちゃったよ。お姉もまだまだだねぇ」

「今のはお兄が悪いと思うし。お姉、どんまい」


 種苗園のハウスの中には、色とりどりの苗が。

 ああ、中に入ってスーハ―と深呼吸をしたいですね。

 きっと、気持ちが良いでしょう。


「運んでいくよー。っと、その前に、お勘定ね! ブロッコリーと、春菊とほうれん草! あとはキャベツね! 数の確認よろしくー」

「うげー。ウチが嫌いな野菜ばっかり! キャベツだけで良くない?」

「莉果さん、今年の冬はたくさん母屋でご飯食べて下さいね。冬野菜、山ほど収穫しますから」


「うー。考えとくし」

「あらあら、莉果も随分と野菜に優しくなったねぇー」


 そして、3人で苗を運んで、ハイエースちゃんにドーン。

 そのまま2人を乗せて、一路農場へ。



「おーう! 帰ったか! よっしゃ、みんなで苗運ぶぜー! ハウスに入れるヤツと、ビニール被せるヤツと、そのままのヤツはメモの通りにな!」

「「「押忍!! ペタの兄ぃ!!」」」


 ハイエースが到着したら、すぐに全員総出で搬出作業。

 ペタジーニさんが事前に作ってくれた丁寧なメモのおかげで、全員が迷わずに済んでいます。


「ペタジーニさん」

「よせやい。あのくれぇ、オレにかかりゃ何でもねぇんだからよ!」


「いえ、ハイエースとペタジーニって、字面が似てるなって」

「そんなことだろうと思ったよ!!」


 作業はすぐに済み、本日のメインイベントの時間となりました。


「じゃあ、行きますか?」

「凪紗ちゃんが待ちくたびれてると思うぜ?」

「道の駅とか普段絶対行かないから、結構楽しみだし!」

「莉果にはまだ早いかもだねー。お姉は時々行くよ? 市場調査にねー」


 道の駅・鮭ヶ口さけがぐち

 農場から車で10分のところにある、中規模の道の駅です。

 国道沿いで、近隣にスーパーなどがないため、市の人口に対してかなり繁盛しているとか。


 凪紗さんの勤務先であり、奈良原農場にとって大口の取引先でもあります。



「着いたー! あ、お兄! ソフトクリーム売ってる! 食べたい!!」


「結構冷えて来たのに、莉果ちゃんすげぇな」

「そりゃあねー。女子高生だもん。伊達に短いスカート履いてないよ」

「そう言う凛々子ちゃんは? もう甘いものは卒業か?」

「ペタレルヤくん、それは減点だねー。女はいつまでも女子なんだよー?」


「それは良いけど、肝心の新汰がさっきから自動ドアに張り付いて、不審者丸出しなんだけど。ソフトクリームどころじゃねぇよ?」


 くっ。俺の玉ねぎが、膝山ひざやまさん家の玉ねぎにスペースを押しやられている!

 おのれ、膝山さん……! あれ、こっそり動かしちゃダメですかね?


「お兄ってばー! 新鮮イチゴのソフトクリームもあるよ!」

「えっ!? イチゴですか!? すぐ行きます!!」


 膝山さん、イチゴに命を救われましたね。


「お兄、買って、買ってー!!」

「分かりました。……おや、凪紗さん」


「うぅ……。今日はずっと外が見えるようにソフトクリームの売り子してたのにぃ……。新汰さんたち、なかなか来ないし、来たら来たで、やっぱり来ないし……」


「すみません」

「謝ってくれるなら良いんですよ! べ、別に怒ってないですし!?」


「あ、いえ。ソフトクリーム4つください」


「お前、ソフトクリームよりも心が冷えてるとか、どういうことなの!? ほらぁ! 凪紗ちゃんが無表情でソフトクリーム巻いてるじゃんよ!!」



「凪紗さん、お仕事の休憩は取れないんですか?」

「へ……? あ、はい。今日はずっとお休みしてないので、言えば誰かが代わってくれると思いますけど」

「それなら、一緒にソフトクリームを食べましょう。そのあとは、道の駅を案内してもらえますか?」


「あ、新汰さん……!! はい、ぜひ! 莉果ちゃんの分は大盛にしておきますね!」


「やったー! 凪紗さん、そーゆうとこ好き! おー! マジで盛ってる! これえるし! ペタさん、これ持って! で、動かないで!!」

「お、おお。若い子って好きだよなー。インスタに上げるん?」

「そうだし! こーゆうのは、感覚でできないとJK失格だし!」


 あ、良い事を思い付きました。


「莉果さん、コメントにこんなのはどうですか? 私の乳で作った、新鮮なソフトクリームです……と」

「ぷーっ! それウケる! ペタさん、牛っぽく加工しとくね!! あー、これバズりそう!! 鼻輪デコっとこ!!」


「お前ら、人の心ってヤツはねぇのか? なんで当人目の前にして、嬉々としてデジタルタトゥー作ってんの!?」


「お待たせしましたぁ! すみません、凛々子さん。私のソフトクリーム持ってもらっちゃって。皆さん、中のイートインコーナーで食べましょう!」

「はーい! 行こ、お兄」

「どうしました? ペタジーニさん?」


「いや。オレのソフトクリームは?」



「えっ!? ペタジーニさん、その歳でまだ乳離れできてないんですか!?」



「いや、オレ牛じゃねぇから!! おい! 何で全員無視してくの!?」



 さあ、楽しい探索の始まりです。

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