第35話 必勝法を更にアップグレード! 放送室へ!

「マジか、お前! なんかうるせぇから、また新汰が物に当たってんのかと思ってたら、刺客倒してんの!? マジでかぁ、なんかごめん!!」

「ついでに鍵まで手に入れるっちゃあ、さすが持っちょるのぉ!!」


「ズルいですよ、2人とも! 新汰さんのカッコいい立ち回りを近くで見るなんてぇー! 私だって見たかったのにぃー!!」

「う、うん。次は凪紗ちゃんに変わってあげるね」

「ウチはもうお兄と組むの、ヤダな……」


「新汰よ? お前、なんで乙女のトラウマになってんの!?」

「何を訳の分からない事言ってるんですか。時間は限られているんですよ」

「えっ、あ、はい。すんません。お前に正論言われると、普通の5倍くらい傷つくね?」


 さて、とりあえず、佐々木さんと連絡を取りましょうか。

 もう3階は完全に制圧したので、電話でも問題ないでしょう。


「あ、もしもし、佐々木さんですか。俺はですね、ええと、小学生の頃は名前で名乗っていたんですけど、中学生になってからは名字で名乗り始めまして、難しいですよね、ああいう、自称を変えるタイミングって。そう言えば、そっちはどうですか?」


「お前、数行前に時間は有限的な事言っといて! 舌の根くらいせめて乾かせてからコミュ障発揮してくれる!?」


『こっちは鍵を一つ見つけたよ。教室の机の中に入っていた。これは人海戦術を使わないと見つけられなかったかもね。今回の運営、やるじゃん』


 やり手なのは佐々木さんです。

 この短時間に鍵を手に入れるとは、正直予想以上の戦果。


「さすがです。俺たちはこれから、放送室へ向かうんですが、佐々木さんたちはどうします?」

『ボクらはもう少し一階を探してみるよ。ああ、それからボクら造反組に攻撃してきた刺客がいたから、2人ほど片づけておいた。多分、もう運営にバレたんだね。ボクと奈良原が結託した事が』


 「それでは」と、電話を切る。

 もののついでの報告で刺客を2人片づけたと言う佐々木さん。

 こんな有能助っ人を運営側に仕込んでくれるなんて、ゲームマスターの人選のセンスには脱帽です。


『い、いい気になるなよ、奈良原! 例え刺客と結託したところで、所詮はクズとクズが繋がったに過ぎん。鍵だって、まだ2つしか手に入れていないじゃないか! 残り時間もあと1時間! 視聴者の皆様の賭けも盛況! 精々頑張るんだな!』


 噂をすれば影が差しまして、スピーカーからゲームマスターの一言のお時間。

 鍵は2つ。残った刺客は覆面の人を含めていち、にの……4人ですか。

 まずまずどころか、かなり良いペースです。


 そこで俺は、必勝法をさらにアップグレードさせる事にしました。


「皆さん、聞いて下さい。更にいい案を考えました。これによって、刺客の人を1か所に集める手間が省けます。放送室に行きましょう」


 道中、皆さんに何が変わったのかを説明。

 鍵となる策はどこで音を拾われているのか分からないので伏せておきます。


「つまり、放送室の奪取がむちゃくちゃ大事ってことだな!!」

「そうですね。ペタジーニさん、もしかして頭良くなりました?」

「おっ、マジで!? 新汰に褒められると結構ガチっぽくて嬉しいなぁ、おい!」

「週2で公文くもんに通ったかいがありましたね!」

「通ってねぇわ! オレは小学生か!」

「そうでした」

「牛でもねぇわ!!」


「まだ何も言っていないじゃないですか」

「どうせ牛の話でオチ付けるんだろうが!?」

「…………」

「否定しろよぉぉぉぉぉっ!!!」

「あ! 苦悶くもんの表情! お上手!」

「これはガチのヤツ! お前と話してて発症した苦悶!!」



 俺たちは階段を下りて、2階へ。

 すると、あからさまに危険そうな人が立っています。

 歳は阿久津さんと同じくらいでしょうか。

 しかし、筋骨隆々で、「肉弾戦得意です」と看板掲げているように見えます。


 さらに隣には覆面の人。

 これは佐々木さんが言っていた『強そうな人』と考えて間違いなさそう。

 説得も聞いてくれなさそうな情報でしたし、どうしましょうか。


「おっしゃあ! ここはオレに任せとけ! 明らかにおっさんだし、余裕でイケるだろ!!」

「あ、ペタジーニさん。それは明らかに死亡フラグ……行ってしまいました」



「おるぅああああっ!!」

「おお! やっと見つけた、賞金首!」


 ペタジーニさんと強面の人の一進一退、手に汗握る攻防戦が始まりました。


「やっちゃえ、ペタさん! さっきのお兄みたく、頭も使って!」

「ペタレルヤくん! 頑張ったら名前思い出すかもだよー!!」


「どうしたんですか? 新汰さんと阿久津さん、険しい顔をしてますけど。あ、もしかしておトイレですか?」

「それもありますが、ちょっとこれは良くないかなぁと」

「ワシもそう思うのぉ。ちゅうよりか、この距離じゃと確信持てんが、あいつ、ワシの知り合いかもしれん。あと、新汰。小便我慢しちょるなら行ってぃ」


「あ、じゃあすみません。ちょっと失礼して」



「おい、マジかよ!? 普通、チーム戦で仲間が戦ってる時に便所行く!?」

「よそ見してて良いんか!? ほれほれ、ボディのガードが甘いで!!」

「ざっけんな! おっさんに殴られるくれぇ、ダメージにもなんねぇよ!!」



 遠ざかっていく、ペタジーニさんの格闘音。

 そして、こんにちは男子トイレ。

 廃校の男子トイレってちょっと怖いですね。

 いかにもなにか出て来そうで。


「…………っ!!!」


 本当に出て来る必要はないんですけど。

 刺客の人のバールが小便器にゴチンと当たりました。


「何をするんですか。俺のおしっこがもう2秒長かったら、怪我してますよ?」

「こ、こいつ! 小便してるフリかよ!」

「ああ、いえいえ。ちゃんとおしっこしてましたよ? あなたの存在に気付いたのもおしっこし始めてからですし」


「おしっこって連呼すんな! 首へし折ってやる!!」

「ふぅぅぅぅんっ!!」

「め、めけめけ……」


「今から攻撃する部位を叫ぶやつがありますか。あと、何だか呪いの言葉みたいなの遺さないでもらえます? ……うわぁ、困ったなぁ。水が出ない。……あ、すみません、背中で手を拭かせてもらいますね。いや、助かりました。では、のちほど」


 用を足すついでに刺客が1人削れたのは実に結構。

 鼻歌交じりに現場へ戻ってみると、ペタジーニさんが膝をついているじゃないですか。


「お兄! どこ行ってんの!? 大変なんだから!!」

「すみません。俺も膀胱ぼうこうが結構大変なことになっていまして」

「あー。新汰くんって、こんな状況でもトイレ行きたくなるんだ?」

「はい。俺、新陳代謝が良い方らしくて、ちょっとトイレが近いんですよね」


「新太さん! ペタジーニさんがやられちゃいますよ! 助けないんですか!?」

「いえ、ここで俺が手を出したら、彼の誇りが失われてしまいます」



「いや、ちょっとぉぉ!? 別にオレ、そーゆうキャラじゃねぇから!? 変な設定つけてハシゴ外す前に、普通に助けて!? このおっさん、超強い!!」



 ペタジーニさんが「これは心を護る戦いだ」みたいな事を言ってひと盛り上がりする予定だったのに、結構ガチのトーンで救援要請。

 これを無視したらきっと怒られるので、仕方がありませんが、行きましょうか。


 一歩踏み出した俺を手で制すのは、阿久津さん。


「ここはワシに任せてもろおてもええかいのぉ。あそこにおるバカたれとは、やっぱ面識がありそうじゃけぇ。やり口はよう知っちょるんよ」

「そうでしたか。どうぞどうぞ」


「ペタの! 交代じゃあ!」

「すまねぇ、おじき! マジで助かる!!」


「大丈夫でしたか? いやぁ、心配しましたよ!」

「うっせぇ! お前、オレを見殺しにする寸前だったかんな!? BLEACHみてぇなセリフ吐きやがって!! オレは死神じゃないっつーの!!」


「あ、やっぱり牛でしたか? というか、鼻の輪っか大丈夫ですか!?」

「牛じゃねぇし、オレの体の心配を先にしてくれる!?」

「本体が無事なら平気じゃないですか」


「鼻のピアスはオレの核じゃねぇよ!! 人類舐めんな!!」



 やかましいペタジーニさんは放っておきましょう。

 強面のおじさん同士が対峙する張り詰めた空気。

 しかも、2人は何やらお知り合いだとか。



 もしかして、名バトルが始まるのでしょうか?

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