第36話 その筋の人とその筋の人の戦い

「おう。おどれぇ! 最近見かけんと思うちょったら、なんや組にいとまもろうちょるらしやないけぇ!! 御日様組おひさまぐみの若頭が土いじりたぁ、落ちたのぉ!!」


「じゃかぁしぃボケが!! 若頭が金策のためにこげなしょうもない見世物みせもんに手ぇ貸すっちゃあ、御月見組おつきみぐみは風前の灯火っちゅうのはほんまのようじゃのぉ!!」



 阿久津さんと睨み合う強面のおじさん、なんと阿久津さんの同業者と判明。

 ということは、アレですか。仁義なき戦いが見られるんですか?


「阿久津さん!」

「おう、新汰! ちぃと待っちょれ! このアホンダラに即刻詫び入れさせるけぇ! 農業をバカにされちゃあ、お前も黙っとれんもんのぉ!!」


「はい。それは良いんですけど、お相手の方の名前を教えてもらえます? せっかくの臨場感を味わいたいので、ぜひ! お相手の方もお願いします!」


「ええええええ!? 何言ってんの、新汰!? お前、アウトレイジとか見た事ないの!? なんでその筋の人にワッチュアネームって聞けんの!? 頭おかしいの!?」


「あ、ペタジーニさん、さすが! 発音が良いですね!」

「外国人じゃねぇわ!! ヤメろ、今その話題を広げるな!」


「でも、やっぱり臨場感って大事じゃないですか。ライブ感とも言いますけど」

「言わねぇよ!? 命の取り合いしてるところにライブ感はいらねぇし!?」


「新汰ぁ!」

「ほら、おじきも怒ってんじゃん! 謝っとけって!!」

「こいつぁ、御月見組っちゅう、うちのシマを荒らす野良犬の集まりのボス犬じゃあ! 名前は神無月かんなづき! 好物はどら焼きで、こしあん饅頭まんじゅう見たらキレよる!!」


「おじきぃぃぃぃっ!! いらねぇんだ、ライブ感は!!」


「神無月さん! あの、羊羹ようかんもやっぱり粒あんだけですか!? 水ようかんはアウトですか!? すみません、これだけ教えてください!! お願いします!!」

「神無月ぃ、このボケ、アホンダラぁ!! 新汰が聞いちょるじゃろがい!! はよう答えんかいカス虫がぁぁぁっ!!」


「おじきぃぃぃぃぃっ!! あんた、新汰と長く居すぎたんだ……!!」

「人を腐海ふかいの毒みたいに言うのヤメてもらえます?」

「現にコミュ障が伝染してんだろうがよぉぉぉ!!」


「わ、ワシは、水ようかんじゃったら、普通に食うけぇの……」


「ほらぁ! 神無月のおやっさんも、アレ、これ一回会話した方が良くね!? みてぇな空気になってんじゃん! お前の求めたライブ感がお前のせいで台無しだよ!!」


「すみませんでしたー。では、どうぞ、血で血を洗って下さーい!」


 ペタジーニさんは分かっていない。

 阿久津さんはエンターテイナーなのです。

 なにせ、普段からヤクザの若頭の役を忠実にこなしていますから。


 多分、あの喋り方、キャラ作りだと思うんですよね。

 俺もそういう時期、ありましたもん。語尾に「たべ」って付けてみたり。


「おっしゃあ、仕切り直しじゃあ、神無月ぃっ!! おどれ、舐め腐った事ばっか抜かしよると、奥歯全部引っ抜いてお茄子なすのヘタ埋めちゃろうかい!!」


「おじき! なんか脅し文句が農業に侵されてる!!」


「お、おう。ほうか。そがいな事やらせるかい……。……のぉ、ちょっと一回待ってもらってもええか!?」


「ほら、もう神無月のおやっさんが戦意喪失してんじゃん!」


 ペタジーニさんがツッコミ強襲型にトランスフォーム。

 こうなった彼のツッコミは止まりません。

 もう、この場は阿久津さんとペタジーニさんに任せましょう。


 俺は女性陣とお喋りしてます。


「おどれぇ! そがいな根性でどうするんじゃあ! ヤクザもんの仁義はどこに置き忘れて来たんじゃあ!! しゃんとせぇよ、神無月ぃ!!」

「お、おお。ワシ、おまんらの首ひとつで一千万っちゅう話でここに来たんじゃが、こりゃあ、合っちょるんかいのぉ? そこだけ確認させてくれぇ」


「おどれは敵が、こういう話じゃ言うたら、はいそうですか、と簡単に信じるんか!? 何年すじもんやっちょるんじゃ! 堅気かたぎの人に笑われるわ!!」


「あー。すんません。オレが代わりに。それは多分ガチなんすけど、さっき喋ってたコミュ障がいるじゃないっすか。こいつがこのゲームの必勝法持ってるんでぇ、多分報酬は払われることなく終わるんじゃねぇかなって思ってます!」


「お、おお、おう。あんちゃん、さっきつよう殴ってしもうて、悪かったのぉ?」

「あー! いやいや、全然っす! さっきはそういう流れだったんで!!」


 ペタジーニさん、神無月さんと交流を深め始める。



「えっ!? ハウスでキノコ育てられるんですか!?」

「そうだよー。今ね、結構流行ってるみたい! 新汰くんのハウスでも作れるよ!」

「待って、待って、お兄! そしたらイチゴが出来なくなっちゃうじゃん!」

「じゃあ、ハウスを増やすのはどうですか? 私、またお手伝いしますよ」

「なるほど、その手がありましたか……。しかし資金が心許ないですねぇ」


 こちらでは実に建設的なお話で盛り上がっています。

 現場のペタジーニさん。状況はどうですか?



「おどれぇ、ゴルァ!! やるんかやらんのか、ハッキリせんかい、ボケカスぅ!!」

「まあまあ、阿久津のおじきも落ち着いて。なんか神無月さん、話が通じそうな人じゃないっすか! ここは一つ、これまでの事は水に流して! ね!」

「ワシは別にそれでええんじゃけどのぉ。阿久津のがこがいな調子じゃあ、話なんぞ」


「あ、そこはオレが間に入りますんで! マジで、平和的に行きましょう? ほら、2人とも強いっすから! ガチったら、怪我じゃすまないかもしんねぇし!!」


 ちょっと見ない間に、ペタジーニさんが潤滑油マンに変身していた。

 本当に、見た目を裏切る多芸さには舌を巻きます。



「来年、海に行きましょうよ! 海! ねね、新汰さん!! 社員旅行です!!」

「ええ……。旅行ですか……」

「ウチも行きたーい! 新しい水着買うから、お兄経費で落としてー!」

「莉果はスクール水着で足りるんじゃないのー? 中学の頃からあんまり成長してないしねー」


「あ! 私も新しい水着買います! あの、新汰さんはどんなのが好きですか?」

「むきー! 凪紗さん、おっぱい強者だからって張り切ってるし! いーもんね、ウチはまだ若いから、成長するし!」

「不思議だよねー。わたしと同じ遺伝子のはずなのに。莉果は偏食するからだよー。野菜も結構残すし」


「えっ!? それは聞き捨てなりませんね! 莉果さん、なに残すんですか!?」


「うぅ……。私の水着の話が、莉果ちゃんの食べ残しに負けましたぁ……」

「ほうれん草とか、水菜とか……。だって苦いし! 美味しくないもん!」


「お野菜合宿と言う事でよろしければ、旅行を前向きに考えましょう!」


「やったー! 莉果ちゃん、グッジョブです!!」

「うわぁーん! 嬉しくないし!」

「あっははー。莉果、みっちりしごかれたら良いよー」



 こちらでは、来年の社員旅行の計画が決まりましたが。

 現場のペタジーニさん。どうなってます?


「今回は、オレの鼻輪に免じて! ここはひとつ手打ちって事で、どうか! 神無月さんにも悪い話じゃないっすよ! 無事に帰還する保証を付けますんで!」


「ペタの、そりゃあないでぇ。ワシ、久しぶりにやる気満々じゃったのに。間に入ってノーサイドちゃあ、あんまりでよ」

「ワシはもう、賞金とかそういう空気じゃのうなった事は分かったけぇ、好きにしてくれぇ。やっぱり、筋もんは筋もんらしく、地道にシノギせんにゃならんのぉ」


 そろそろ現場に俺も行ってみましょうか。


「なんだかお話がまとまったみたいで良かったですね!」

「おめぇがいなかったら、割と世の中話で片が付くんだよ!!」

「勉強になるなぁ」

「覚える気ねぇだろ! 知ってんだぞ!!」

「覚えてますって。心臓がハツで、ミノがペタジーニさんの4つある胃の中で一番人気のある部位ですよね?」


「牛じゃねぇわ!!」



「あー! お兄、みんな! 覆面の人、逃げるよー!!」


 莉果さんのナイスアシストがここで炸裂。

 アレを逃がしちゃいけません。



「阿久津さん、ペタジーニさん、神無月さん、あの人捕まえて下さい」


「よし来た! 任せちょけ!」

「分かってるって! 行くよ、行きゃいいんだろ!!」

「……えっ、ワシも?」


 うちの三連星からは逃げられませんよ。

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