第31話 探索バトルロイヤルゲーム開始

『時間だ。小学校に入ってもらおう』


「皆さん、聞きました? なんだか入学式するみたいですね! あははは!!」

「いや、テンション!! やべぇよ、こいつ、サイコパスモード入ってね!? お前のネジ外れた感想より、作戦! 作戦教えてくれ!!」


 俺たちはぞろぞろと小学校の昇降口へ歩き始める。


「とりあえず、俺の作戦はある程度ですね、えーと、相手チームのプレイヤーを弱らせないといけません」

「要するに、半殺しにせぇっちゅうことじゃの?」

「いえ、五分の一殺しくらいで大丈夫です」

「難しい事を言うのぉ」


「あんたらは怖い事を言ってる自覚を持って!!」


「とりあえずのぉ、隊列考えようや。嬢ちゃんたちは列の真ん中に固めりゃあええが、誰が前衛で誰を殿しんがりにするんかっちゅうのは大事やで?」


 さすがは若い頃血しぶきを売るほど浴びて来た阿久津さん。

 実に建設的な意見で俺の代わりにプランを組み立ててくれる。

 そもそも、俺の専門はゲームの企画を立てる事であって、襲い掛かって来る悪漢をちぎって投げるのはど素人。


 ここは戦闘のプロにお任せしましょう。


「理想を言うたら、前衛はワシともう1人。後衛は1人の隊列がええんじゃが、殿が割と危険じゃけぇのぉ」

「そんなら、後衛はオレに任せてくれよ! ガッツリ背中は守るぜ!」

「ペタジーニさん」


「へへっ! 良いってことよ! オレが一番お前と付き合い長いからな!!」

「そうまでしてツッコミのしやすい最後尾を。芸人の鏡ですね」


「今の心が通じ合った件、無かったことにしてくれ! 全然通じ合ってねぇわ! 一方通行だわ!! 学園都市第一位だわ!!」

「えっ。ペタジーニさん、学生だったんですか?」

「ほらぁ! もう変なところ拾ってくる! 学生じゃねぇよ!!」

「やっぱり牛ですか」

「そうそう、オレはオージービーフってバカ!! もうオレ、生きて帰ったらピアス外すわ!!」


「ちょっと、ペタジーニさん! 死亡フラグを立てないでください!!」

「そうだよ! ペタさんは空気読めてないし!」


「まさか新汰よりもオレがコミュ障認定される日が来るとはな!! 長生きしてみるもんだわ!!」


「ペタジーニさん。俺と約束して下さい。ピアスは絶対外さないって」

「お、おお。どうした? そんなに俺のチャームポイント気に入ってたんか!?」


「ピアスがないと他の人と区別がつきません」

「おめぇの血は何色だよ!!」

「ペタジーニさんの肌は綺麗な小麦色ですね」

「農家はだいたい小麦色だわ! あと日サロ! 日サロ行くの趣味なの!!」


 そして、阿久津さん考案の最適な隊列を組んで、いざゲーム会場へ。

 俺の計画通り、適当に刺客を痛めつけながら、まずは鍵を探す事を優先する。



『さあ、始まりました。社運を賭けたビッグプロジェクト! わが社の裏切り者、奈良原に制裁を! 探索バトルロイヤル、スタートです!!』


 誰が裏切り者ですか。

 クビにしたのはそっちでしょうに。


 と思っていると、早速死角から刺客しかくが2人飛び出して来た。

 手にはデストロイアスロン製のゲームでお馴染み、バールさん。


「1千万いただきー!!」

「ごるぅああぁぁっ!!」

「おしゃろっ」


 阿久津さん、体重の乗ったパンチで、刺客AをワンパンKOする。


「新汰ぁ! こいつを使えい!」

「おっと。了解です。ふぅぅぅんっ!!」

「おい、マジか! こいつらも武器持ってるとか聞いてない!」


 刺客Bとバールでつばぜり合い。

 つばがないのに、これは日本語って難しい案件。


「ふぅぅんっ! せいっ!」

「まっ、おまぁ! げふっ」


「いや、新汰さ。バールで戦う流れだったじゃん。なんで普通にバール放棄してぶん殴ってんの? 刺客の人がちょっと気の毒」


 ペタジーニさんの慈愛に満ちた言葉。

 見習いたいですね。


「相手がニラだったら、傷つけないようそっと摘むのですが」

「お前、ニラに何の恩があるの!?」


 まだ入口です。

 こんなところでお喋りしていては、タイムリミットなんてすぐですよ。

 まずは、鍵を探さないといけませんが、どこから行ったものか。


「とりあえず、上階から順番に探しましょうか? 制限時間寸前でまだ探していないのが3階と言うのは避けたいですし」


 全員が頷いてくれたので、俺たちの目的地は定まった。


 先頭を歩く俺と阿久津さんの手には、先ほどゲットしたバールが光る。

 考えようによっては、最初に遭遇した刺客の人が得物を持っていてくれたのは幸運でした。


 俺の格闘スキルでは、阿久津さんのような活躍はまず無理です。

 バールならゴツンとやれば、ワンチャンありますからね。



「ひゃあっ!?」

「女ひとり、ゲットー!!」


 先頭を悠然と歩いていると、背後で凪紗さんの悲鳴が。

 どうやら物陰に刺客が潜んでいたようでした。

 落ち着いているのは、すでにペタジーニさんが右ストレートで刺客を沈めているからです。


「すみません。先頭の索敵さくてきが不十分でした。凪紗さん、お怪我はありませんか?」

「私は平気です! ペタジーニさんが助けてくれました」

「ペタジーニさん、さすがです。帰ったらピクルスあげますね」

「おいおい。この程度でピクルス貰ってたら、オレどうなっちまうんだよ!」

「高血圧でしょうか。食べ過ぎはほどほどに」


「雰囲気ぶち壊す天才か! 気の利いたこと言えよ! 分かったよ、オレは胡麻麦茶飲むよ!!」


 そして俺たちは慌てず落ち着いて急ぎながら、テクテク階段へ。

 踊り場で待機していた刺客を普通にぶん殴って2人分消化。


「こんだけ分かりやすい場所に潜まれると、張り合いっちゅうもんがないのぉ! まるで素人の考えじゃあ! 悪い教科書でも読んだんかいな?」

 手についた血をハンカチで拭う阿久津さん。

 意外と綺麗好き。ジェントルマンに見えてきますね。


「それは案外当たってるかと。だって、うちの会社に対人戦闘養成所なんてなかったですから。この人たちもただの借金抱えた一般人ですよ。あ、ペタジーニさん。あのー、ほら、なんて言うんでしたっけ? とりあえず、そこのアレの後ろから刺客が」


「言うのがおせぇ!! うるぁぁあっ!! 見たか、元ボクサー志望のパンチをよ!!」


「ああ、そうでした! 消火栓しょうかせん! 消火栓だ!」

「ねぇ、見てないとか、そりゃあねぇよ? なんでお前は消火栓を見つめてんの? 敵倒したのは俺だよ?」


「あーね! 確かにアレって咄嗟の時には名前出て来ないし! お兄の気持ち分かりみ!」

「わ、私だって、新汰さんの気持ち、すっごく分かりますよ!?」

「あっははー! 二人とも、この異常な環境よりも新汰くんに夢中だねー。そっか、そっかー。わたしだけだもんね、初参加って」


 女性陣が委縮していない事は非常に素晴らしいですね。

 この場合、最も避けなければならないのは、停滞ですから。

 恐怖で動けなくなられたりすると、俺たちは部隊を二分する必要に迫られますし、そうなった場合には俺の描く必勝法もただの机上の空論。


 彼女たちの予想外にたくましいメンタル強度が今は嬉しい誤算です。


 そして、2階の踊り場で更に1人刺客を阿久津さんが蹴り倒す。

 ヤクザ屋さんの戦闘力を侮っていました。

 46でその動きって、どうかしていますよ。


「うひゃあ! すっごい迫力! だけど、阿久津さんとペタレルヤくんが頑張ってくれてたら、案外簡単に済んじゃうかもだね! 新汰くん!」

「そうあって欲しいですけど、俺、完璧な必勝法を持っていたゲームで、2回中2回怪我してるんですよね」


 凛々子さんを驚かすつもりはないですが、事実から目は逸らせません。

 命が架かると、計算通りにならないのは既に承知済み。


「いざと言う時は、俺を盾にして下さいね。凛々子さん」

「……うわぁ。これは、アレだねー。うん、吊り橋効果ってヤツ。結構効くなぁ」


 よく分かりませんが、言った傍から注意力を散漫にさせないでください。



「…………っ! 全員ストップじゃ! ぬうっ!? ぐぅぅぅっ!」


 このゲームが始まって、対人戦で初めて阿久津さんがバールを使った。

 相手は覆面をしている。


「こいつはちぃと手を焼きそうじゃ! 下がっちょれよ、新汰ぁ!!」


 ガチモードの阿久津さん。

 覆面の人は日本刀を所持していますが、大丈夫でしょうか。



「ふぅん。相変わらず、バカな事やってるな、君たちは。それにしても、まさかまたこんな場所で会うとはね。とりあえず話しようよ。おじさん相手じゃ割が合わない」


「なんじゃい、おどれか!! そっちこそ、りもせんと、こがいなゲームに参加しちょるじゃろうが! お互い様じゃ!!」



 阿久津さん? お知合いですか?

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