第30話 奈良原新汰の作っていないデスゲーム

『これから行うバトルロイヤル&探索ゲームは、挑戦者チームとして君たち。運営チームとして18人の刺客しかくを用意した。彼らには君たちの1人を殺せば1千万円の報酬が支払われる。そしていずれも債務者。くくく、本気で掛かっていくぞ』


 もう説明に入っている。

 と言うか、チーム分けまで勝手にされて、こっちの3倍の勢力と戦えとは、もうそれゲームじゃなくてイジメじゃないですか。


 確かに、俺の知らないゲームですが。


『この小学校ステージには、3ヶ所に宝箱を設置しており、その中には鍵が入っている。その鍵は、ふふふ、何の鍵だと思うね?』

「ハイエースの鍵ですか? さすがに3台はいらないです。と言うか、うちもう2台あるんで、1台もいらないです」


『…………。この小学校の周囲は山で囲まれており、元々あった村も廃村となり、今は誰も住んでいない。つまり、何でもできると言うこと。これは、グラウンドの朝礼台上に仕掛けた爆破装置を解除するための鍵だ』

「分かりました。爆発の規模と制限時間を教えてください」


『えっ、あ、ああ。この辺り一帯が消えるくらいの破壊力があるのは当然だろう。誰もここから生きては帰れない。鍵を見つけない事にはな。君たちには、3時間の猶予を与えよう。その時間が過ぎても、爆破装置は起動する』

「つまり、俺たちの敵チームの命も無視すると?」


『当然だろう。借金抱えたクズの群れなど、いなくなれば世の中が綺麗になる。上級国民の皆様に日々を快適に過ごして頂くためにも、ゴミ掃除を兼ねているのだよ』

「はい。ありがとうございました」


『ふん。そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだ。これから10分後にゲームスタートだ。精々作戦でも考えておけ』


 そして、ゲームマスターの声が途絶えた。



「おい、どうすんだ、これ!? 新汰が作ってねぇゲームってことはよ、前みたいに裏技がないってことだろ!? やべぇじゃん!!」

「それもヤバいがのぉ。こっちはお嬢ちゃん3人を守りながらの立ち回りになるっちゅうのも、憂慮ゆうりょせんにゃあいけんで。実質戦えるのはワシら男のみじゃ」


「あ、あの? どうしたんですか、新汰さん?」

「もしかして、お兄、マウント取られてビビっちゃった感じ?」

「おやー? この顔は、悲観に暮れてはいないようだよ?」


「えー? お姉、分かるん? だって、お兄、深海魚みたいな表情から基本変わんないじゃん! 嘘ついてんでしょー!」

「新汰くんだってたまに表情変わるよー? 野菜見た時とか!」

「新太さん……。ごめんなさい、私、足手まといに……」


 しまった。

 黙って色々と考えていたら、皆を不安にさせてしまっていた模様。

 これはいけません。


 俺は、凪紗さんの肩をなるべく優しく叩いて、皆さんに告げます。



「このゲームの必勝法を考え付きました」



「マ・ジ・か!! お前、マジでか!? でも、なんでよ!? お前、今回のゲーム作ってないんだろ!?」

「はい。えー。あのですね、そのー。……話さないとダメですか?」

「コミュ障発症すんなよ!! 凪紗ちゃんにおっぱいでも触らせもらっとけ!!」

「えっ!? えっ!? う、うぅ、分かりました! どうぞ!!」


「あ、大丈夫です」


「あー。今のはナシだわ、お兄」

「男の子としての魅力はあるんだけど、かなり調整が必要だよねー、新汰くんって」


「えー。そのー。このゲームは初めて聞きましたし、概要も今知りました。けども、あー。あのですね、俺だったらどう作るかなって考えたら、何となく設計図が頭の中に出来てしまいまして。えーと、多分ですが、クリアまでの道筋は描けました」


「新汰、ひとついいか? すっげぇ大事な事なんだわ」

「はい。ペタジーニさん」



「お前のテンションが微動だにしなさ過ぎて、せっかくの希望が輝いてねぇんだよ! お前、どうやったらテンション上がんの!?」

「ええと、やさ」

「野菜以外でだよ!! 違法ドラッグの中毒者かお前は!! 定期的に野菜キメねぇといけねぇとか、コミュ障以外にも十字架勝手に背負うのヤメて!!」


「がっはっは! 新汰は肝が据わっちょるけぇのぉ!」

「おじき! そうやってのん気に構えてたらやべぇんだよ!! オレら、2人で18人相手にすることになっちまう!!」

「……ほうじゃのぉ。久しゅう抗争からも離れちょったしのぉ。……こりゃあ、血がたぎって来るのぉ! 新汰、何人まで殺してええんじゃ?」


「全員ダメです」

「なんでじゃ? 今回は新汰が作ったゲームじゃないけぇ、殺しは容認されるんじゃないんか?」


「別に容認しても良いですけど、人殺すのって楽しいですか?」

「……そう言われてみると、楽しゅうはないかのぉ」

「そもそも、今の阿久津さんはうちの従業員ですから。まかり間違って逮捕なんて事になったら、俺が困ります」

「そうか。ほいじゃあ、今回は殺さんでおこうかのぉ。堅気かたぎさんに手ぇ出すのはヤクザもんにとってもご法度はっとじゃけぇ」


「オレ、喋って良い?」

「ええ。どうぞ?」


「オレが一番まともだってハッキリ分かったわ!! 死んだ魚の目の新汰! 血しぶき大好きおじさん!! ちくしょう、オレが頑張らねぇと!!」


 よく分かりませんが、ペタジーニさんの士気の高まり方が凄い。

 これがアレですか?

 あの噂に聞く、ゾーンに入るってヤツですか?

 さらにペタジーニさんがよく分からない作戦に打って出た。


 誰かが作戦発動させるのを見る、これもまた新鮮で面白いですね。


「女子チームのみんな! 頼む!! オレに免じて、新汰を興奮させてやってくれ!! 女の武器を使って!! ここが生き残りの分水嶺ぶんすいれいだと思うんだ!!」


「ペタジーニさん、難しい言葉を知ってますね。日本語の勉強を続けているなんて偉いじゃないですか」


「ちょっとお前は黙ってて! マジで大事なとこだから!!」


 そしてペタジーニさん、女性陣と何やらひそひそ打ち合わせ。

 数秒おきに「えー」とか「やだー」とか聞こえて来るが、何やら楽し気。



 ——あれがハーレムなのですね!!



「あのー。お兄? ウチさ、制服のまま連れ去られたからさ、スカートなワケじゃん?」

 莉果さんがやって来て、見たら分かる事を言う。


「でさ、ってことは、スカートってヒラヒラするからさ、めくれたりすんじゃん? お兄になら、特別にここで捲ってあげても良いよ? み、見せパンだけどさ」

「え? いえ。大丈夫です」


「わぁーん! お姉ー!! お兄になんか可哀想な人を見る目されたー!! コミュ障に心配されたよー!! うぇー!!」


「妹よ、泣くでない!! このお姉が仇を取ってこようじゃない!! 新汰くーん!!」


 今度は凛々子さんがやって来た。

 なるほど、ウォーミングアップですね?


「新汰くんってさ、好きなコスチュームとかある? わたし、今度着てあげようか? こう見えてもね、大学ではケッコー人気者なんだよ、わたし」

「では、もんぺを」


「うん? 新汰くんって、特殊な性癖なのかな?」

「いえ。農作業が捗りますし」


「うぇーん! コスプレしてあげるって言ったら、すごいテンション低めだった上に、もんぺに負けたー!! ぐすん。凪紗ちゃん、あとよろしく」


「ま、任せて下さい!! 新汰さん! き、きき、キス、して差し上げます!!」

「間に合っています」


「うぅ……。キスが間に合っているってどういうことですかぁ……。どこかで調達しているんですか? うわぁーん!!」



「おう、新汰! 花壇見たら、野菜みたいなんあったで!」

「ニラじゃないですか!! 阿久津さん、すごい!! 毒のあるスイセンと間違えやすいんですが、これは自生しているニラですよ!! 終わったら摘んで帰りましょう!! ニラはですね、炒めても良いし、チヂミにするのも良いですね!!」



「さあ、皆さん、生き残りましょうね!! うふふふふ!!!」



「「「野生のニラに負けた……」」」



 そのあと、何故かペタジーニさんが女性陣によってフルボッコされていましたが、熱の入ったウォーミングアップ、見習いたいですね。

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