第29話 話し合いでどうにかなりそうだったのに
「ごるぅぁ! はよう走らんかい!! 会場っちゅうんはどこにあるんじゃ!!」
「まあまあ、阿久津さん。そんなに委縮させたら情報も聞き出せませんし、ハンドル操作をミスられて事故なんてことにもなりかねません」
「のんきな事言ってんなよ、新汰ぁ! 女子たちが人質になってんだぞ!?」
「もちろん、分かっていますよ」
俺は、助手席から運転席に手を伸ばす。
右手には奇遇な事に、先ほどスーツの集団から奪ったバタフライナイフが。
「
「舌の根の乾かぬ内か!! てめぇが一番あぶねぇよ!! 悪い事言わねぇから、知ってる事は全部吐いちまいな、スーツのおっさん。こいつ、ガチでヤルよ?」
ペタジーニさん、優しいベテラン刑事みたいなことを言い出す。
そして運転手さんが洗いざらい吐き出した情報を整理すると、こうなります。
現在向かっているのは、廃校になった小学校。
人質の安全は保障されると聞いたが、ゲームが始まると分からない。
とりあえず今はトランプで盛り上がっている。
つまり、この運転手さん、末端の人でした。
まあ、つかい走りに重要な情報を教えるバカはいませんか。
「新汰よぉ、小学校って聞いて閃いたりしねぇの? ああ、これは俺が作ったゲームです、とかよ。いつもの感じで」
「ほうじゃのぉ。舞台から、何するんか予想するくらい、新汰なら余裕でやれそうじゃ。できるだけ
お二人の期待に応えられないのが大変申し訳ない。
しかし、
「それが、サッパリ見当がつかないんです」
思い付いたのは、リアル鬼ごっこをパクった……もとい、オマージュした、リアルかくれんぼくらいですが、あれは相当な大人数でやるゲームです。
そもそもカメラでの撮影が大変なので、日中の明るい時間帯にする設定でしたし、この真夜中にするでしょうか。
「あのぉ、そろそろ到着しますが。一応、凶器の
「まあそうじゃろうな。仕方がないのぉ」
阿久津さん、日本刀を三本ハイエースの後部座席に放り投げる。
ちなみに、本人は「模造刀じゃけぇ、平気、平気」と言っているので、多分そうです。
「なあ、メリケンサックって凶器と思う? オレのピアスとジャズってるし、これアクセサリーってことでいけねぇかな?」
「それでしたら、俺のバタフライナイフもアクセサリーですよ」
「本当に申し訳ないのですが、全部置いて行って下さい」
末端の人が本当に申し訳なさそうに言うので、仕方なく従う。
この人を脅したりボコボコにしたところで何も解決しないのはもはや明白。
と言うか、それをやると目的地に着かず、詰みます。
ちなみに、ここへは、チーム
「3人までで来い」と言う指示でしたので。
戦闘力を重視した結果、こういう編成になりました。
そしてハイエースは山の中にある古い小学校のグラウンドに到着。
俺たちは車を降りる。
急展開です。
「新汰さぁん!!」
グラウンドには、凪紗さん、凛々子さん、莉果さんの3人が拘束もされず、普通に待っていました。
察するに、ここまで来たら逃げられないからでしょう。
いつの間にかハイエースは走り去っていますし。
タクシー呼ぶにしても、場所が分からないので困ります。
GPSのデータだけでタクシーって呼べます?
あ、料金は通常のものじゃないと嫌ですよ?
「すみません。どうやら俺のせいで、皆さんを危険に」
とりあえず、何はさておき謝罪でしょう。
「そんな! 頭を上げて下さいよ! 私たち、きっと新汰さんが助けに来てくれるって信じてましたから! ね、二人とも!」
「まー。ウチは一度、死線を
「あはは! 最初はお姉ーって、わたしにしがみ付いてたのにねー?」
「あ、ああ、あれは、演出だし! 別に怖くてやったとかじゃないし!」
「はいはい。そういうことにしとこうねー。実際、そのあとはトランプしてたもんね、わたしたちも」
「はい! ちなみに私が一位でした!!」
「皆さん……。本当に、何と言えば良いか。とりあえず、温かいお茶を水筒に入れて来たんですけど、飲みます?」
「いや、緊張感!! さっきの運転手も、水筒が凶器か否か最後まで判断に困ってたろ!!」
「あ、いただきますー。んー。美味しいですね」
「お兄、クッキーとかないの?」
「そう言うと思って、持って来ています。ルマンドです」
「それ美味しいよねー。新汰くん、気が利くぅ!!」
「緊張感!! 緊張かぁぁぁぁん!! なに、オレがおかしいの!? ちょっとさ、みんな新汰から、少しずつコミュ障が伝染してない!? オレ、怖いんだけど!!」
「おう、落ち着きぃ、ペタの」
「阿久津さん! おじきならオレの味方だと思ってたぜ!!」
「がっはっは! ワシはホワイトロリータ持って来ちょる! 食べぇ、食べぇ!!」
「緊張かぁぁぁぁぁぁん!!! 遠足に来た小学生かぁ!!」
「そうは言いますけど、無事にお三方を救出できた訳ですし、気をずっと張り詰めっぱなしでは持ちませんよ。あ、もしかしてペタジーニさん」
「おう。どうした? オレの危機管理シミュレーション能力に気付いたか!?」
「バームロールの方が好きでしたよね。すみません、あれ、お昼に食べちゃって」
「ブルボンに金でももらってんのか!!」
ひとしきり心と体をリラックスさせていると、校舎のスピーカーから、連絡のお知らせでお馴染みの、ピンポンパンポンという音が響いた。
お出ましのようである。
『ようこそ、
「思ったんですけど」
「どしたん? お兄。もう攻略法見つけちゃった系!?」
「いえ、学校の放送設備とどうやってコミュニケーション取ればいいのかなって」
「お前にコミュニケーションの心配されたら終わりだわ」
「新汰くん、それだったら、こっちにマイクあるよー。なんか通じてるっぽい!」
「さすが凛々子さん、目の付け所が違いますね」
「むむっ! わ、私も今からマイク探します!」
「えっ!? じゃ、じゃあウチも! なんか、役立たず認定されそうだから!!」
「お願いみんな、話が進まねぇんだわ! ちょっとだけ黙ろうぜ!? な!?」
「えー。テステス。聞こえてますかー」
『随分と余裕だな。これから始まる、恐ろしいゲームを知っても同じ口が利けるかな? くくくっ、それではそのデスゲームを』
「あ、ちょっとすみません。良いですか」
「……いや、良くねぇよ? 最悪のタイミングで話さえぎってるよ?」
『なんだね?』
「俺が会社に狙われていることは察しているんですけど、それってどうしてですか?」
『えっ』
「はい」
しばしの沈黙が流れて、10月の夜風は意外と冷たいなと思った。
『君は、我々の組織が保有するデスゲームの企画、その約95%を作っている。この事実が外部に漏れるとまずい事くらい、君にも分かるだろう』
「じゃあ、権利は全部差し上げます。って言うか、元々そんなもん持ってる気もありませんでしたし」
『えっ』
「はい」
しばしの沈黙が流れて、夜の小学校って意外と怖いなと思った。
『し、しかし、どこで誰に秘密を漏らさぬとも知れぬ。君はうちにとって、危険人物なのだ。特A級のな!!』
「でも、俺、友達いませんよ? 家族もいませんし。あと、そもそも人と喋るのが苦手なんで、そんな、秘密! とか言われても、吹聴する相手がいません」
『えっ』
「はい」
しばしの沈黙が流れて、さらに沈黙が流れて、どこまでも沈黙が流れた。
「帰っても良いですか?」
『こ、これから行うゲームは、バトルロイヤルだ! どうだ、このように単純なデスゲームでは、君も制作に関わった事はあるまい!! どうだ!! どうだ!!! ……視聴者の方々もいることだし、説明に移らせてもらおう』
結局ゲームをさせられるらしい。
報酬は家に帰るためのハイエース。
でもですね、さすがにハイエースの3台目はいらないかなぁ。
かつてないほどの理由なきデスゲームが、幕を開けようとしていた。
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