第27話 待ちわびたイチゴの苗
ふふふふ。
今日と言う日をどれだけ待ちわびていた事か!
本日、9月上旬。天候は曇り。しかし降水確率は10パーセント。
絶好の農作業日和。
ちなみに、8月の快晴も、1月の大雪も絶好の農作業日和です。
農作業に関わる苦難を乗り越える事が快感に変わる瞬間がたまりませんよね。
そして現在、俺とペタジーニさんで、
運転はペタジーニさん。
「あの、こんな事言いたくないんですけど」
「あんだよ? 今さらオレとお前の仲で言い辛ぇことなんかあんのか?」
「苗を載せた状態で事故ったら、殺します」
「それは言い
ペタジーニさんに運転を任せた理由はいくつかあります。
まず、俺が大事なイチゴの苗ちゃんの傍を離れたくないから。
ならば赤岩さんや佐藤さんでもドライバーは問題ないでしょうけど、彼らはまだ白木屋種苗園に行った事がありません。
不安じゃないですか。
何より、ペタジーニさんは大型の免許を持っているのです。
しかし、ペーパードライバー過ぎて、何の戦力にもなっていません。
そこで阿久津さんの知恵を借りて、強行策に打って出ることに。
自動車学校のペーパードライバー講習にみっちりぶち込みました。
1日に4時間。それを3週間ほど。
受講料は安くありません。
だいたい1日で3万円かかります。
しかし、それでペタジーニさんがまともな運転を手にするのなら、安い投資です。
うちの従業員で大型免許を持っているのは彼だけですし、年齢、経験から考えても、ペタジーニさんがドライバーをしてくれるのが最適。
俺が大型の免許を取る事も考えましたが、最初にボツとなりました。
野菜と触れ合える時間が減るなんて、とんでもない。
「おらー。着いたぜ、新汰! どうよ、このオレのドラテクは!
「とりあえず、及第点はあげます。普通の人が運転しているみたいでした」
「それどういう事!? 褒められてんの、オレ!?」
「褒めてますよ。ペタジーニさんを一般人扱いとか、最上級に褒めています。これで、カーコンビニ俱楽部のお世話になる事も減りますね」
「コミュ障の褒め方、下手過ぎんだろ!? 従業員の士気が下がるわ!」
「やほー! 新汰くんとペタくん、いらっしゃーい。もう準備出来てるよー」
「あ、すみません、ペタジーニさん。その話はまた今度で」
「そういうとこだよ!! ちくしょう、コミュ障って無敵かよ!!」
「早速運び込みましょう。ペタジーニさん」
「あいよ。分かってんよ」
「1つでも落としたら、殺しますよ?」
「オレはいつからフリーザ軍で働くようになったのかね……」
「莉果ー。あんたも手伝いなー」
「うげー。お
「莉果さん」
「へっ!? な、なに!? 急に肩とか掴まれると、ウチもその、照れると言うか」
「時間が惜しいので、口を閉じろとは言いません。手を動かしましょう」
「このお兄、ナシだわ。ナシ寄りのナシ。もう2度とドキッとしたりしないし」
「オレも同感。テンションの高い時の新汰はマジで厄介」
「へぇー。新汰くんでもテンション上がるんだ! 意外かもー」
「お
「えー? 普通に見えるけどなぁ」
「凛々子ちゃん、新汰が普通に見えるってことは、もうそれ異常事態だから」
「さあ、皆さん! 早いところ農場に戻りましょう!!」
「ごめんねー。今日はわたしの都合つかなくてさー。手順は前に確認した通りだけど、平気な感じ? 一応、簡単に書き出しておいたけど」
「本当ですか! ああ、凛々子さんってなんてステキなんだ!! 愛しています!!」
「お、おお、そっか。……2人とも、ごめん。新汰くん、ホントにハイテンションだったよ。やー。いきなりグワッと来られると、ドキドキするねー」
「うわぁ。お姉が新汰さんにドキドキしてる。ウチ、あの人がガチのお兄になるのはマジでカンベンなんだけど」
「オレ男で良かったわ。従業員の距離が丁度良いもんな」
無事にイチゴの苗ちゃんたちを荷台にお出迎え完了。
緩衝材をこれでもかと敷き詰めておりますが、お気に召したでしょうか。
「それじゃあ、凛々子さん、失礼します」
「あーい。莉果の事、しっかりこき使ってやってねー。なんかあったら電話してー」
「や、そこはほどほどで良いから! つか、お兄、なんでウチまで荷台!? お尻痛いんですけど!!」
「すみません。苗が倒れないように見ていて下さい。お尻は平気です。莉果さんのお尻は、健康で元気なお尻ですから」
「真顔でセクハラすんなし!!」
ペタジーニさんに合図を送って、出発進行。
一路、農場へ。
道中急ブレーキをかけた時にはペタジーニさんを殺そうかと思いましたが、大事には至らなかったので許してあげましょう。
「帰ったんか! 待っちょる間に
「さすが阿久津さん。愛しています」
「がははっ! 新汰の愛は嬉しいがの? それ、若頭やるっちゅう話じゃなかろう?」
「当然です」
「ほうじゃろうと思ったわ! おう、おどれら! イチゴの苗下ろして、印付けたところに配置じゃあ!!」
「「「押忍!!」」」
ちなみに
値段は16万円ほどしましたが、実に優秀なので安い出費でした。
畦を作る際は側面を崩れないように固く整え、中は根が伸びやすいようにフワフワに仕上げます。
「阿久津のおじき、オレ飲み物作って来ますわ」
「ペタの、それにゃあ及ばん! 凪紗の嬢ちゃんが、ほれ、ちょうど来たで!」
ちなみに、ペタジーニさんは年下の部下である阿久津さんとの距離感を未だ掴み切れておらず、おじきと呼んでいます。
「すみませーん! いっぱい作ってたら遅くなっちゃいましたー! これ、ウォータージャグにスポーツドリンクと氷を入れておきました!」
「なんて気が利くんだ、凪紗さん! 愛してします!!」
「えっ、ひゃわっ!? あ、あの、わらひも、愛していまひゅ!!」
「凪紗ちゃん、その愛してる、今日だけで3回目なんだわ。オレ、残りのウォータージャグ取ってくらぁ!!」
「うぅ……。私はこんな事じゃへこたれませんよ! さあ莉果ちゃん! 私たちは後方支援で頑張りましょう!!」
「うへぇー。ダルそうだし。でもなー、お兄に恩を売っとかないと、急にお小遣い止められたら困るしなー。凪紗さんの陰に隠れて楽しながら頑張りまーす!」
「ふっふっふー。サボっているところを見つけたら、写メを送るように凛々子さんから言われていますよ? 残念でしたね、莉果ちゃん!」
「うわっ! いつの間に凪紗さんとお姉が通じてんの!? もぉー、そーゆうのナシなんだって、マジでー!! ……荷物運びまーす」
「ふふっ、素直で偉いね! これ、レモンのはちみつ漬けなんでけど、運んでくれる?」
「凪紗さん、嫁力高いっすねー。これで私の2個上とか!」
「……でも、新汰さんには通じないんです」
「……あーね。あのお兄は、あれじゃん。希少生物じゃん」
苗も無事に各所へ配置完了。
準備も整いました。
「それでは、皆さん。えー。アレで、あのー。まあ、よろしくお願いします」
「全然締まらねぇ!! 色々考えただけで口に出せねぇなら、最後の一言だけで良くね!?」
はははと笑い声を響かせながら、今日も楽しい農作業。
イチゴは果たしてしっかりと育ってくれるでしょうか。
愛情だけなら既に溢れるほど注いでいるのですが。
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