第26話 ビニールハウスを建てよう
待望の、かなり奮発したビニールハウスの資材が本日、奈良原農場に送られてきます。
凛々子さんが業者にソッコーで注文してくれたおかげで、俺は興奮して眠れぬ夜をたった3週間しか過ごさずに済みました。
明日からはビニールハウスを見ながら興奮して眠れない夜が始まります。
気付けば夏真っ盛りの8月。
太陽に負けず、今日も楽しく農作業といきましょう。
「いよいよですね、新汰さん!」
「はい。待ちわびました」
「ってか、なんで凪紗さんがいるんすか? お仕事サボり? 不良社員ー!!」
「いいじゃないですか! あと、今日はお休み取ったんです! 莉果ちゃんこそ、学校はどうしたんですか? 今日、平日ですよ? あ、夏休みですか!」
「夏期講習あったんすけどねー。ウチもお休み取った感じですわー。やー。有給溜まってたんで!!」
「サボりじゃないですかぁ! 新汰さん、良いんですか!?」
「はい。大丈夫です。学校には俺が電話しておきました」
「にっししー。朝からこの調子なんで、ちょっと活用しちゃいましたー。ありがと、お
「ふぅーん? 今日は学校、有給だったの? 知らなかったわね」
「げっ! お
「わたしが発注したハウスの資材なんだから、確認しに来るに決まってるでしょ!」
「お兄ー! 助けてー!!」
「はい。分かりました」
「新汰くん? 莉果を
「莉果さん。さようなら」
「ひどっ!! せっかく現役JKがお兄って呼んであげてんのにぃ!」
「ふっふっふー。新汰さんはそんな誘惑に乗らないのです! ねー、新汰さん?」
「あ、はい。すみません、全然聞いていませんでした」
「ひどい!! うぅ……私もなんですね……」
「おーい! 新汰よー! 今トラックが来たぜー!」
「来ましたか!! 行きましょう!!」
「……あのよぉ、莉果ちゃんがすげぇ怒られてて、凪紗ちゃんがなんか悲しみに暮れてんだけど、心当たりは?」
「ありません」
「言うと思った!! でもぜってぇお前のせい!! 悪い事して悪ぶらねぇとか、デスピサロかよ!!」
「おーう。新汰ぁ! 今、ちょうど全部荷下ろししたところじゃ! 受領印くれぇ言うちょるで。ほうか。サインでもええんじゃと!」
「いくらでも書きましょう」
「あ、1つで大丈夫です。ありがとうございやしたー!!」
運送会社の人を最敬礼でお見送り。
待ちわびた神のアイテムを届けて下さって、地球を代表してお礼申し上げます。
「おー! 結構頑張ったね! 土、良い感じになってるよー!!」
「みなさんが頑張ってくれました」
ハウスの寸法は既に分かっていたので、まずそこの土を耕す。
トラクターが大活躍。最後は人力で
ちなみにトラクターはペタジーニさんのみ出禁です。
肥料も混ぜて、土壌は今できる段階でベストの状態。
ちなみに、俺の背中の傷もようやく少しくらいなら運動して良いとお許しを貰ったので、もう
このまま土をいじって死にたい。
「それじゃあ、組み立てましょう!」
「えー。なんでウチまでー。お姉がやりなよー!」
「わたしは全体を見ておかないといけないの! いいから働く!!」
「うげー。こんな事なら学校行っとけば良かったよぉー」
「新汰さん、私もお手伝いして良いですか?」
「本当ですか!? 凪紗さんはまるで女神だ! 愛しています!」
「ひぇ!? あ、あいひて!? あ、ああ、あの、私も同じ、気持ちです!!」
「凪紗ちゃん、新汰なら、ウッキウキで支柱建ててるぞ。なんつーか、ドンマイ!!」
「……え、えへへ。知ってましたけど。……私も働きます!!」
「偉いなぁ、凪紗ちゃん。オレ、応援してんぜ」
それにしても、阿久津さんたちを雇ったのは我ながら素晴らしい判断でした。
特に赤岩さんと佐藤さんは、覚えも早く、仕事も丁寧。
むちゃくちゃ掘り出し物です。
それが前の職場では違法カジノのビラとか配っていたらしいです。
違法カジノよりも、合法農業の方がよほど興奮するのに。
「のぉ、森島! もうちぃとだけ力入れられんか? 支柱がさっきから、こっちに倒れてきよるんじゃけど」
「すいやせん! でも、手が滑って力が入りやせん!!」
阿久津さんはフィジカル面では若い衆に優位を譲る形になっていますが、経験値と言いますか、人を動かす能力は実に高い。
若い衆の誰かと組ませると、抜群のコンビネーションで能率が上がります。
森島さん以外と、ですが。
森島さんは今のところ良いところが見つけられていません。
年齢のせいで体力もなく、こちらは年齢のせいではない気がしますけど、うっかりミスが多くて、可愛い野菜たちに直結する仕事を振りにくい。
「おじき! こうやって汗流すの、気持ちいいっすね!!」
「ほうじゃのぉ! 血生臭い裏家業より達成感はあるっちゅうのは認めるで!」
「奈良原さんがくれる、規格外とか虫食いの野菜食べるの、自分大好きなんすよ!!」
しかし、森島さんの野菜への愛は前述の4人の中でも一等賞。
俺はそれだけでも価値があると思います。
仕事ができなくても、野菜への愛は大事。
「こっちは終わりました!」
「こちらもです!!」
「それでは、アーチパイプの組み立てに移りましょう」
「お前、デスゲームの時と野菜に関わる時だけ、時々コミュ障をどっかに置き忘れて来るよな?」
その後も全員の奮闘は続き、日も傾いて、そろそろ夕暮れ時という時分、ついに、ビニールハウスが完成した。
工賃をケチり自分たちで数百万もするように大きいビニールハウスを建てて分かった事は、施工業者がどうして存在しているのか、その理由でした。
「おつでーす! しかたないんで、ウチのリアルゴールドを差し入れしまーす!」
「あ、莉果さん。俺は良いので、あっちの倒れ込んでいる皆さんにあげて下さい。熱中症になってはいけません」
「分かったけど、新汰お兄はなんで平気そうな顔してんのー? みんなと同じだけ、ってか、一番動いてたのに」
「そりゃあ愛ですよ! このハウスでイチゴが作れると思うと、何と言うか、アレですよ、何と言うか、欲情して来まして! 軽くイキそうになるんです!!」
「うわっ! キモッ!! お兄はキモい!! 実の兄じゃなくてマジ良かった!!」
「新汰さーん! 散らばっていたビニール袋、集めてきましたぁー!!」
「ありがとうございます」
「少しくらいお役に立たないと、せっかくお仕事休んだかいがないですもん!」
「とても助かります。イチゴも実が熟したら一番に食べてもらえますか?」
「えっ!? も、もちろんですよ! 頂けるんですか!?」
「はい。覚えていたら」
「うぅ……。すごく不安です……」
「おー! 立派に建ったねぇ!! 中の方を今見て来たけど、上出来、上出来!! 土も良い感じに整ってるから、これでイチゴの苗を植えられるよ!」
「では、明日にでも!!」
「やー、落ち着きなされ、お若いの。時期が早いよー。今はまだ8月だからね。9月に入ってからじゃないと。早植えは花が咲かない事があるからねー」
「なんと……。そうでしたか……」
なんだかお預けを喰らったみたいで、急に疲れてきました。
「そう気を落としなさんなって! やる事はあるよー!
やっぱり疲れたのは気のせいでした。
「では、俺はピーマンの様子を見てきます」
「はいはーい。いってらっしゃい!」
ちなみに、定植と言うのは、ポット等に植わっている苗を、本来育てる場所に植え替えてあげる事を言います。
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