【完結しました！】そのデスゲーム作ったの、俺です。 ～会社をクビになったのでスローライフを始めたのに、やたらと命を狙われるため全て返り討ちにします～

第24話 なんか俺の隣の争奪戦が始まる

「どもどもー!　莉果（りか）は元気に働いとるかねー?　お姉（ねえ）が来たぞー!!　新汰くん、おーっす!　お邪魔していいかな?」

　本日の来客、それは白木屋（しらきや）種苗園（しゅびょうえん）の実質的な経営者、凛々子（りりこ）さん。

　今回は、デスゲームで手に入ったお金で、事業を広げる相談のために来て頂きました。

　本来ならこちらから伺うのが筋だと言うのに。

「あーあー!　平気、平気!　新汰くん、背中を晴矢（はれるや）くんにスコップで掘られたんだってねー?　ワイルドな事するなぁー!　莉果から聞いて、お姉はびっくりだよ」

「おいぃ!　なんかオレが加害者になってんじゃねぇか!!　おま、ヤメろよ!　困ったらとりあえずオレの名前出すの!!」

「いえ、今回は莉果さんが、言い訳考えるなら任せるし!　って言うから」

「ペタさん。さーせん!」

「あの、ところで新汰さん」

「はい?　なんですか、凪紗さん」

「晴矢って誰ですか?」

「あ、それウチも気になりました!　イケメンっすか!?」

「めでたい名前じゃのぉ!」

「自分たちもお会いした事ないですね」

「オレの本名だよ!!　つか、オレ別にペタジーニって自分で名乗った事ねぇかんな!?　ちくしょう!　お前ら全員大嫌いだ!!」

「まあまあ、男の子が小さな事で喚（わめ）いちゃダメだよ!」

「凛々子の嬢ちゃん……!　あんただけだよ、オレの名前呼んでくれるの!」

「当たり前でしょう!　お客様の名前なんだから、忘れないって!」

「凛々子の嬢ちゃん……!!」

「ペタレルヤくん!!」

「だぁぁ!!　オレの名前がもうペタジーニに侵食され始めてんじゃん!!」

　タッタッタと、リズミカルな足音が近づいて来た。

「奈良原さん!　ピザ受け取って来ました!!」

「ありがとうございます。じゃあ、赤岩さん、好きなの取っていいですよ」

「マジっすか!　じゃあ、エビマヨ、いいっすか!?」

「それはダメです」

「お前は本当に理不尽だな。なんで好きなのって言ったのに、あげねぇの?」

「だって、俺が一番好きなので」

「じゃあそれ伝えとけよ!!」

「伝わるかと思いまして」

「コミュ障あるあるか!　思いは口に出して伝えないとダメなの!!」

「告白の話ですか?」

「違ぇよ!!　オレたちの話!」

「あ、牛ですか」

「うん、そう!　モォーって鳴き方にも意味があってねって、オレは人じゃい!!」

「新汰さん、新汰さん、ピザが冷めちゃいますよ!!」

「あ、分かりました。ペタジーニさん、牛の話はまた今度でお願いします」

「牛の話は金輪際（こんりんざい）しねぇよ!!」

　本題に入る前に、まずは腹ごしらえ。

　ついでに、従業員の間の親睦（しんぼく）も深まれば言う事はありません。

　ピザを囲んでの昼食会が始まる。

　うちの母屋は古いですが、広さだけはあるので、１０人かそこらであれば、余裕で座れるのです。

　さあ、親睦です。

　強い絆を売りにしましょうか、うちの農場。

　どうやって深まるのかは知りませんけど。親睦。

「はい!　新汰さん、エビマヨネーズですよ!　どうぞ!!」

「ああ、これはすみません」

　前のめりになると背中が痛いので凪紗さんの親切はありがたい。

　……はっ!?　これが親睦!

「凪紗さんはとても素晴らしいですね。そんな気配りができるようになりたいです。コツとかあるんですか?」

「そ、そんなそんな!　別に普通ですよ!　これくらい!!」

「俺はやっぱり普通の事ができていなかったのですね……」

「わわわわわっ!　違います!　新汰さんは普通って言うより、もっと上の存在と言いますか!!」

「そうですか?　俺なんて、ノーマルスキルすらもっていない雑魚ですよ?」

「そんな事ないですよ!　だって、私、私は、そんな新汰さんも好きですから!!」

「あ、はい。俺も好きですよ。凪紗さん」

「へっ、あ、えっ、ああああっ!?　あ、あの、ちょっと、おて、お手洗いに行ってきまひゅ」

「どうしたんで?　ペタの兄貴」

「いやな、あいつのコミュ障、相手がお姉ちゃんだと、ラブコメの鈍感主人公みてぇだなぁ、とか思ってよぉ」

「ペタの兄貴、そのなりでラブコメ読むんすか!?」

「バッカ、佐藤!　ラブコメは面白れぇんだぞ!?　今度とらドラ！貸してやっから」

「ふぅ。戻りまし……たぁ……」

「あら、凪紗ちゃん!　早かったのね!」

「どうして凛々子さんが新汰さんのお隣にいるんですか?」

「どうしてって。新汰くんが、わたしと親密な話がしたいって言うからねー」

「ほ、本当ですか!?　新汰さん!!」

「はい。横が空いたので、お呼びしました」

「ひ、ひどい!!　ひどいですよぉー、新汰さん!!」

「あ、エビマヨネーズですか?　すみません、久しぶりなものでつい」

「そうじゃないんです!　……まったく、もう。分かりました。莉果ちゃん、ちょっとそっちにズレてくれますか?」

「えー。ヤですよ!　ピザから遠くなっちゃうじゃないっすか!　独占禁止法ですー!」

「テリヤキは美味いっすね、ペタの兄貴!」

「新汰、意識しねぇで修羅場生み出すとか、やべぇなあのサイコパス」

「兄貴、シーフード食わないなら自分いいっすか?」

「なんでだよ!　食うよ!」

「え?　でも、ペタの兄貴は草しか食わないって奈良原さんが」

「牛じゃねぇよ!!　このピアスはオシャレだっつってんだろうが!!」

「莉果ちゃん?　ピザは好きなだけ取って良いですから、何だったら箱ごと持って行って良いですよ?」

「え。それは困りますよ。俺、まだマヨじゃが食べてないですよ」

「どれだけマヨネーズが好きなんですかぁ!!」

「……くふふっ。あー。ウチの手を握ってくれたら、マヨじゃが取ってあげるんだけどなー?　だって、ウチの目の前にあるんだもんなー?」

「これで良いですか?」

「え、ちょっ!?　ふ、ふつーマジでやります!?　ってか、恋人つなぎだし!!　新汰さん、マジそーゆうとこある!!」

「なになに?　楽しそうだねぇ!　お姉も混ぜてー!　新汰くんの手を握れば良いのかな?　それっ、ギューッと」

「し、白木屋姉妹!　だ、ダメです!　こんな事でへこたれていてはいけません!!」

「はて?　俺の後ろに回って、どうしました?　凪紗さん」

「わ、私は、後ろからギューッってします!!　おっぱい当てまひゅ!!」

「あ、ごめんなさい。背中痛いんでヤメて貰っても良いですか?」

「そ、そんなぁ……」

「このプチパンケーキに付いてたハチミツ、甘いっすねー!　どうしたんすか、兄貴、さっきから奈良原さんの方ばかり見て」

「いや、アレだわ。コミュ障を一番好きなのは凪紗ちゃんなのに、コミュ障と一番相性が悪いのも凪紗ちゃんだわ。見てて気の毒」

「おい、赤岩!　お前もパンケーキにかけてみ?　甘いぜ」

「お前ら、残り食べて良いよ。ちょっとオレ、行ってくらぁ!!」

「なんかよく分かりませんけど、頑張ってくだせえ!!」

「新汰よー。そう言えば、凪紗ちゃんに渡したいものがあったんだろ?」

「ああ、そうでした、そうでした!　ピザが楽しみ過ぎて忘れていました」

「んなことだろうと思って、持って来たぜ!」

　ペタジーニさんが取り出したのは、瓶に入ったピーマン。

　俺が漬けた、ピーマンのピクルスである。

「凪紗さん、これ、良かったらどうぞ。うちで採れたピーマンです」

「……へっ?　どうして私にくれるんですか?」

「前に言ったじゃないですか。野菜ができたら食べさせるって」

「お、覚えててくれたんですか!?」

「いえ。今まで忘れてました」

「お前は本当にアレだな!　佐々木のフォークみてぇによく落とすな!!」

「うう……。なんだか複雑ですけど、頂きます!　……はむ。んっ!　おいしいですよ!　丁度良い酸味で、歯ごたえもステキです!!」

「それは良かった。凪紗さんのために漬けましたからね。残りは持って帰って下さって結構ですよ。いつもありがとうございます」

「約束、守ってくれて嬉しいです!!」

「ああ、いえ。言われないと忘れてました」

「お前の脳内には余計な一言ってボタンでもあんの!?　しかも、それ、常時押しっぱなしなの!?」

　こうして楽しい昼食会は終わり、きっと皆さんの親睦もさぞかし深まった事でしょう。

　結局、親睦って何か分からず仕舞いでしたけど。