第22話 その筋の人、集団で加わる
「おう! 新汰! 来たでぇ!! 活きのええ若い衆も適当に
奈良原農場の駐車場に、黒塗り高級車とハイエースが。
ハイエースが3台並ぶとなかなか壮観ですね。
「おいおいおいおい!! 来ちゃったよ! マジもんじゃん!! ちょっとオレ、調子乗った感じの風体してんだけど!? リクルートスーツ買って来て良い!?」
「落ち着いて下さい、ペタジーニさん。今日から先輩ですよ?」
「バカ野郎! お前ぇぇぇ!! 言って良い事と悪い事ってあんだろが!!」
「どうも、阿久津さん。あと若い衆の皆さん。今日からよろしくお願いします。こちら、皆さんの教育係のペタジーニさんです。
「言っちゃ悪い事を的確に言ってんじゃねぇよ!!」
「これはペタジーニの
「新汰ぁぁぁぁ!! お前、あの人に何を聞かせてんだ!? つか、なんでヤクザの若頭がうちの従業員になんの!? オレ馬鹿だから分かんない!!」
「それについちゃあ、ワシらの勝手を通してもろうて、感謝しちょります」
「だって、阿久津さんがしつこいんですもん。根負けですよ」
「マジでヤメて! ヤクザの若頭をしつこいナンパに根負けした、みたいに流すのヤメて!! オレ、ストレスでハゲそう!!」
仕方がないので、ペタジーニさんに阿久津さんがうちで働くことになった経緯を説明してあげる事にしましょう。
デスゲーム帰還からちょうど1日経った時分。
俺のスマホが鳴った。
知らない番号だったものの、農業は人脈が大事。
知らない番号だろうが、非通知だろうが、バンバン出ます。
「そちら、
俺の名前に『あ』の母音をこれ以上増やすのはヤメて下さい。
「いかにも俺は奈良原新汰です」
電話の向こうでは「繋がりました!」「そんなら来客の準備せんかい、ボケぇ!!」「すいやせん!!」と、何やら慌ただしい。
もう5秒続いたら切ろうかなと思っていたところ、聞き慣れた声が電話口に。
「おう、傷の具合はどうじゃ? 新汰よ」
「なんだ、阿久津さんでしたか。新手の嫌がらせかと思いましたよ」
「がっはっは! ヤクザもん捕まえてそんだけ言えるのはお前くらいじゃ!!」
「ご用件は?」
「ほうじゃった! すまん、すまん! 明日にでも、うちの事務所に来てくれんか? 折り入って話があるんじゃ」
「えっ。嫌ですよ。背中も痛いし」
「えっ。断るんか!? 今の話の流れで!? お、折り入っとるんじゃけど!?」
当然の返答である。
ヤクザの事務所に行って得られるものは少ないだろうけども、奪われる時間は大きい。
俺は、可愛く育ったピーマンちゃんとお
「あの、電話でお願いできます?」
「お、おお、ほうか。ワシ、ものすごい
「本題が長いようなら切りますけど」
「……結構じゃったわ。ドン引きじゃ」
阿久津さんの話は端的に言うとこうなる。
「お前の度胸と頭の回転に
充分言葉の意味を理解した上で、お返事をした。
「嫌です」
「ほうか、受けてくれるか! ああぁぁぁぁん!? 断るんか!?」
「嫌ですよ。俺、農業の事を愛してますもん」
「いや、だってワシ、ヤクザもんじゃろ? 何するか分からんで?」
「えっ。阿久津さん、何かするんですか?」
「えっ。そう聞かれると、何もせんけどのぉ」
そこで俺は閃いた。
阿久津さんは暇そうである。
多分、やる事がないのだ。
では、やる事を与えて差し上げましょう、と。
「うちで働きます?」
「ゔぇえぇぇ? ち、ちぃと待ってくれぇ。ワシの理解が追い付かん!!」
「いえ、お暇ならどうかなと。うちで働きながらでしたら、お話相手にもなれますし。阿久津さん、寂しそうですし、良いかなって」
「つまり、御日様組にケツ持ちさせるっちゅうことか?」
「何でもいいんで、働いてみませんか? 今、人手が欲しいんですよ」
「……分かった! 実際、こっちの事務所にワシがおってもやる事ないのは事実じゃしのぉ! 働きながら、新汰の事を口説き落とすっちゅうんも面白そうじゃ!」
「じゃあ、若い人も何人かお願いします。あ、戸籍ある人で!」
おわかりいただけたでしょうか。
ペタジーニさん、だいたいこんな感じでしたよ。
「オレ、今日はガチで引いてる。お前、やっぱサイコパスだよ。犯罪係数測ってみ? 多分、ドミネーターが吹っ飛ぶから」
「と言う訳で、今日から阿久津さんを含めて、4人、奈良原農場に従業員が増えました! ようこそ、農業を愛する者の楽園へ!!」
「この人たちは多分ね、農業は愛してねぇと思うんだよ、新汰ぁ」
そこに通りかかる
もう学校終わったんですか?
「おっつでーす! あー! 阿久津さんじゃん! おつおつー!!」
「おお、莉果の
「なんで莉果ちゃんあんなフランクなの!? どういうことなの!?」
「ああ、帰りのハイエースで、なんだか盛り上がりまして。今回は前回に比べると皆さんと仲良くなれました」
「お前のコミュ障、変な伝染病になってねぇ? 怖いんだけど」
母屋を見ると、縁側の扇風機の前で莉果さんがくつろいでいる。
これはいけません。
「莉果さん! リアルゴールドは宿題が終わってからですよ!」
「へいへーい。奈良原さん、そーゆうとこはウザい! お
「ええ!
「げぇー。お姉と結託するとか、ないんですけどー!」
「成績が下がると、月のお小遣い減らしますよ?」
「ぐぬぬぬっ……。お
ふて腐れながらも鞄から課題を取り出す莉果さん。
大変立派です。これならば、凛々子さんも俺に新たな種を。ふふふ。
「のぉ、ペタの
「ヤメて下さいって、マジで!
「ほんなら、ペタの。新汰のヤツ、完全にワシらの事、忘れちょりゃあせんか?」
「……あいつは、普段からあんなもんですよ」
「強敵じゃのぉ! ますます欲しい!!」
「オレ、とんでもねぇヤツと関わっちまったのかもなぁ……」
「なにを
「今、おめぇのそーゆうことに黄昏てたんだよ!! お前がしっかりしてりゃ、オレの心はいつもピカピカの快晴だわ!」
「はい。そういう訳で、明日から早速仕事に参加してもらいます。内容は全部、ペタジーニ先輩から習って下さい。この人荒くれ者ですけど、意外と有能ですから」
「ほぉ……。あの新汰が一目置いちょるか。ペタの、極道に興味ないけ?」
「え、えー。まず、収穫の方法なんすけどぉ! こう、ガッて引きちぎると、次に実がならないんでぇ。優しく摘まむ感じで! あ、良いっすね! そっちのサングラスの人、良いっす!」
「ワシを普通に無視してくるたぁ、奈良原農場。とんでもない場所があったもんじゃ! おう、ペタの! ワシにも教えてくれぇ!!」
こうして、従業員の補充も無事に済みました。
正直、求人案内を出す費用が浮いて助かりました。
そうなると、ですよ。
いよいよ、新しい作物に手を出す時じゃないですか。
心が踊り狂って仕方がありません。
問題は、何を作るか。
これは、広く意見を求める必要がありそうですね。
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