第19話 奈良原新汰のターン これはピーマンの怒り

「ごるぅあぁっ!! 出て来んかい、バカタレぇぇぇっ!!」


「ふぅん。この感じだと、2人くらい潜んでるかな」

「佐々木さん、すごいですね。どうして分かるんですか?」

「ボク、普段は電車の事故で亡くなった轢死体れきしたいの処理をしているんだけどね。務めて5年くらいかなぁ。何となく、人の気配が分かるようになってきてさ」

「あー。ありますね、そういう事」


「あらへん! そんなことあらへんで!!」


 いつの間にやらツッコミが仕事になった矢原やばらさん。

 さすがは関西出身。キレが違いますね。


 さっきまでやってた変なキャラ付けなんてしないで、ありのままでゲームに参加したら良かったのに。

 ご存じないですかね。関西弁のキャラってデスゲームで映えるんですよ。

 まあ、その話は置いておきまして、本題に戻りましょう。


「それじゃあ、近くに居る人、どこか分かります?」

 俺は佐々木さんの特殊能力に興味を持った。

 なんだか、いかにも強キャラっぽくて憧れる。

 俺も特殊能力の一つでも欲しいなぁと空想にふける。


「ボクを試そうって言うのかい? まあ、良いだろう。そこのロッカーの中に一人」

 本当だろうか。


「ですってー。阿久津さーん!」

 とりあえず、若頭を召喚。


 だって、ロッカー開けた途端に捨て身の特攻されたら怖いじゃないですか。

 阿久津さん? ああ、多分平気ですよ。

 顔の傷が何よりの証拠。特殊な訓練受けてます。


「おう、任せんかい! ごるぅあぁっ!! 中におるんは分かっちょるんぞ!! 出て来んと、ワシのハジキが火ぃ吹くで? ワシに引き金を引かせるな」

「あ、今の『24』のジャック・バウアーっぽいですね!」

「おお、あんちゃん、分かったんか!? いや、ワシ結構ミーハーなんじゃ。全シリーズブルーレイで持っちょるで! 今度貸しちゃろうか? 鑑賞会しようや」

「良いですね! その時はうちでやりましょう! 野菜のピクルスをご用意しますよ! 佐々木さんと矢原さんも来ますよね?」

「……まあ、気が向いたらね」


「わいは絶対行きませんっ!!!」


 矢原さんのノリが悪い。

 きっとアレだろう。疲れが溜まって、糖分が足りないんですね。


 と、こんな感じでロッカーを前にして雑談をしていると、スーッと扉が開いた。

 中には小柄な男性が、涙を流していた。

 ここまでで感極まるシーンってありましたっけ?


「やるのぉー、佐々木の! 大当たりじゃ!」

「まあ、ボクにかかればこの程度の事、功を誇るものでもないよ」

「でも、この人はハズレですね。郷田ごうださんじゃないです。あの、すみません。ちょっと良いですか?」


 俺は小柄な男性に声をかける。

 彼は、上手く話せないのか、口をパクパク金魚のように動かす。

 ああ、分かります。分かります。

 急に知らない人と見つめ合うと素直にお喋りできませんよね。


「もしかして、俺が務めていた時に、既に会社に在籍されていましたか?」

「んんー!? せ、せ、先月入社しました!!」


 意思疎通が叶った瞬間でした。

 俺のコミュ力がまたしてもアップ。

 どうしよう、このままじゃパリピになってしまいます。


「ああ、良かった。いえね、俺、どうしても人の顔と名前を覚えるのが苦手でして。もしあなたが俺の事知っていたら申し訳ないなぁと」

「め、滅相もない!!」


 新入社員さん、かなり緊張していらっしゃる。

 初めての現場だったのだろうか。


 俺は結局、ゲームプランナーとしての腕を買われていたから、一度も現場に来ることはなかったなぁと思い出す。

 しかし、一度でも現場に来ていたら、その時点で辞めていた事は間違いないので、その点では時間を無為に過ごしてしまったと少し後悔。


「すんまへん、一番偉い人、どこにおるんか分かります? あ、この人ら、相当ヤバいですけど、多分あんさんには手を出さないと思います」


 ここに来て、矢原さんが活躍。

 なるほど、関西出身のコミュ力でネゴシエーターを買って出るとは。

 是非その妙技、教わりたいです。


「あ、あの、あの、ソファの下! あそこ、万が一のシェルターって!!」

「おおきに! むっちゃ助かりました! あの、皆さん? この方、廊下に出してあげてええですか?」


 矢原さんが決まりきった事を言うので、俺たち3人の声が重なった。


「問題ないですよ」

「そんな小物に用はないからね」

「ほうじゃのぉ。お楽しみはこれからじゃけぇ」


「に、逃げるんや! そんで、真っ当な仕事に就こう!? わいもそうするさかい!! こんなとこ、まともな人間のおるとこやないでぇぇぇぇっ!!」


 矢原さんがどんどん人情派の刑事さんみたいになっていく。

 この短時間にどれだけキャラ変更するんですか。

 困りますよ。一貫性がなくなってしまうので。



 さて、本丸も陥落して、いよいよ裸の王様にご登場願おう。


「なぁ、撃ってみてもええかいのぉ?」

「うーん。シェルターって言ってましたしねぇ。平気じゃないですか?」

「おじさん、やるなら言ってよ? 跳弾ちょうだんに当たって怪我なんかしたくないから」

「郷田はん! 出て来た方がええて!! もう、完全に詰んでます!! この人ら、ガチで撃ちますよー!! ほらぁ、阿久津はんが構えてはりますって!!」



「や、ヤメろ!! あ、いえ、ヤメて下さい。命ばかりは、本当にどうか!!!」



「やっと会えましたね。郷田さん」

「ワシもあんさんにゃあ、ちーっとばっかし会いたかったのぉ」

「ボクはお金をくれたらすぐ帰るよ」


「会話は穏やかやけど、持っとる武器が凶悪過ぎて、内容が頭に入らへん!!」


 矢原さんの言う事も一理あるなと思い、俺は持参した手裏剣のうち、ひとつを持って、壁際にある古い花瓶目掛けて投げてみた。


 バリンっと無機質な音を残して、花瓶は崩れ落ちた。


「お見事」

「やるのぉ」

「ははは! まぐれですよ! いやだなぁ、もう、みんなして褒めて!!」


「は、はは、はははは!」

 つられるようにして、郷田さんも笑う。

 笑顔は結構ですが、お勘定をさせて頂きます。


「か、金なら、そこのアタッシュケースの中に! 持って行け! ああ、いえ、お持ちになって下さい!!」


 情報を得て、佐々木さんが動く。


「確かに、5千万くらいはありそうだ。じゃあ、ボクは会場に戻って、莉果だっけ? 奈良原の連れや他の連中と一緒に山分け作業をしておくよ」

「お願いします」


「な、奈良原くん! 私は現在専務だが、君が望むなら、同じポストを用意しても良いと思っている!! あぁぁあっ!?」

「すみません、手が滑りました」


 手裏剣さんが勝手に郷田さんに向かって飛んでいく。

 見掛けに寄らずシャカリキですね。


「わ、分かっている! 私よりも上、そうだな! 君には社長のポストが相応しい! よし、一緒に社長を引きずり降ろそう!! 私と君が組めば簡単さ! ああぁあぁぁっ!!」

「すみません。また手が滑りました」


 まったく同じところに飛んでいく手裏剣さん。

 さては、先んじて飛んで行ったのはお友達でしたか。


「その才能を捨てるのはもったいない! 今回だって、ヤクザにはみ出し者に、色々と仕掛けを用意したのに、君は全部看破してしまった! すごい才能だ!!」

「あの、少し良いですか」

「あ、ああ、ああ!! もちろんだ、前向きに考えてくれるか!?」

「いえ、俺デスゲーム作るよりピーマン作ってる方が好きなので。今さらそんな事を言われても困ります」


 すると、郷田さんの語気が強くなる。


「い、良いのか!? 今ワシの誘いを断れば、社長が絶対にお前を生かしておかないぞ!? 必ず再びお前の命を狙うだろう!」



「じゃあ、ヤメさせて下さい。それとも、今ここで死にます?」

「はい。社長に言っておきます。ごめんなさい」



「そうだった。さっき、ピーマンの悪口言いましたよね? あなた、ピーマンのピクルスの美味しさ、舐めてますよね? あれ、取り消してください」

「は、はあ?」


「俺の手には、まだ2枚も手裏剣があります。次は外しません。眉間みけんが良いですかね? ねえ、阿久津さん。見映え的には」

「ほうじゃのぉ! 男は黙ってど真ん中じゃ!!」



「と、取り消します!! ピーマン最高!! あんなステキなものはありませぇぇん!!」



 こうして、つまらないゲームは終わった。

 会場では、佐々木さんが見張り役に駆り出されていた坂本さんと若林さんを回収して、全員でお金を配分していた。

 その作業に参加したのち、全員で仲良く625万ずつ分け合うニコニコ会計を済ませたらば、いざ帰還。


「駐車場にハイエースがあるんですよ。それに乗って帰りましょう」


 外に出ると、空が明るくなっていた。

 昇る朝日に「おはようございます」と挨拶したのち、俺たちは帰宅の途に就いた。



 さあ帰ろう。

 野菜たちが俺を待っている。

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