第17話 完全攻略法のお披露目

『な、何をしているのですか!! 早くゲームを盛り上げなさい! ペナルティを発動させますよ?』


 しばらく静かだったゲームマスター。

 どうも流れが変わった事に焦って、介入してきた模様。


 しかし、ルール無視でペナルティ発動はいただけない。

 ゲームマスターとしての最低限、ルールは順守しなければ、見ている上級国民とやらも興が冷めるでしょうに。


 このゲームマスターも、メッキが剥がれて来ましたね。


「じゃかぁしぃ、ボケぇ!! ルールちゅうもんは、そんな針金みたいに曲げたり伸ばしたりしてええもんじゃなかろうがぁ!!」

『ひぃっ!? あ、いえ。し、失礼しました。皆様、あのような社会のゴミが、これから血しぶきをあげますから、ご、ご期待下さい!!』


 阿久津あくつさんの一喝は、先ほどの銃声よりも迫力があった。

 俺は、事前にトイレを済ませていた事を心底喜んだ。

 本当に、危ないところでした。


「佐々木さん。もうチーム『お金大好き』はあなただけになりましたが、このまま続けられますか? それよりも、耳寄りな相談があるんですけど」

 ここぞとばかりに、俺のコミュ力ブースト、オン。

 頑張れ、頑張れ、やればデキる。コミュ力、頑張れ。


「ふぅん? まあ、聞くだけ聞いてみようじゃないか。ボクに利益があれば、の話だけどね」

「ああ、良かった。いえ、佐々木さんが話の通じる人で良かったです。時々いるじゃないですか、自分に非があるのに、逆ギレする人。この前もですねー」


「奈良原さん! なんか話が逸れてるし! あと、ボール! 爆発するじゃん!!」

「ああ、そうでした。莉果さん、ナイスです。大山さん、行きまーす!」


「うん。もう予想していたけど、高いよ、奈良原くん……」


 そしてボールは爆発。

 思えば我々、ほとんどドッジボールしていませんね。

 企画立案者を参加者に混ぜるからこうなるんですよ。


「賞金があるのは本当です。なにせ、本来も生還者の4人に配布予定でしたし、俺の知る限り、賞金があるゲームは会社がちゃんと支払っていました」


 当時は脱出ゲームだと思っていたけども。

 会社もデスゲームの生き残りと争いをするのは嫌だったのだろう。


 考えてみればそうですよね。

 命かけて生き残って「賞金は嘘でーす!」なんてやったら、多分参加者による捨て身の反撃を喰らいますから。


「それで? 賞金があるから、どうだって言うんだい?」



「8人で分けましょう。一人頭、ええと……625万円! 奪い合うよりは少ないですけど、命も確実に助かって、一晩で500万以上の収入を得られます」



 まず声をあげたのは、矢原やばらさん。

「あ、あのぉ……。オレも頂いて良いんですか? オレ、普通に皆さんの事を騙していたのに……」

「えっ? いらないんですか?」

「いや、欲しいですけど。み、皆さんがどう思われるか……」


 視線の先には阿久津さん。

 なるほど、全員で生還すると、阿久津さんの報復が怖いのですね。


「それはもちろん、均等に山分けですよ! 命を張ったリスクは全員同じだったワケですから! ねえ、阿久津さん? 殺しませんよね、矢原さんのこと!」


「な、なななななな、奈良原はん!! そんなストレートに言うたらあかん!!」


「あれ? 矢原さん、関西のご出身ですか?」

「今、そんなん関係ないやん!? あかんて、阿久津はん、ほんま、ちゃうんです!!」


 そんな矢原さんを見て、阿久津さんは豪快に笑う。


「がっはっは! こん中で唯一の怪我人のあんちゃんが気前の良いこと言うちょるのに、ワシがいちゃもん付けると思うとるんか!?」

「あ、ちょっとだけ思ってました」


「奈良原はぁぁぁぁぁぁん!! ほんま、黙っとってぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「安心せえ! 兄ちゃんの肝っ玉に免じて、この場におる、誰にも手なんか出しゃあせん! ヤクザもんの約束じゃあ! ……信用できんか?」

「しますぅぅぅ!! もう、全部信じますぅぅぅぅ!!」


「それで、どうするんだ? ボクもその話に乗ったとして、この部屋からどう出る?」

 佐々木さんの目の付け所はシャープ。


 それを聞いたゲームマスターも、息を吹き返したように煽りまくる。


『そうだ! その部屋は、どちらかのチームがゼロになるまで、絶対に開かないようにできているのですよ! さあさあ、ゲームを続行! 続行なさい!!』


「……こう言っているけど?」

「それについては、俺に作戦があります。とりあえず、ゲームマスターに聞こえると面倒なので、適当にボールをバウンドさせながら、小声でご説明を」


 会場には、ボールが床を弾む、バチン、バチン、と言う音だけが響く。

 ああ、これは多分、視聴者の方たちがそっとディスプレイの電源を切り始めていますね。


「……ふふっ。面白い。分かった。報酬は全員で均等に分配。そこを守ってくれるなら、ボクも乗るよ」

「その点は大丈夫です。阿久津さんが後見人をしてくれますから」

「なにぃ? ワシかい? なんでじゃ?」

「いや、だってこの場で明らかに一番怖いじゃないですか! ははっ!」


「奈良原はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」


「ようし、分かった。ほいじゃあ、この場は御日様おひさまぐみ若頭わかがしら、阿久津譲二が、仁義を持って預からせて頂きやす! 各々方おのおのがた、よろしいのぉ?」


 全員が頷く。ヤクザってすごい。

 すごいを越えてロックですね。石より堅そう。


「では、手はず通り。順番に内野を減らしていきましょう」


 誰かにボールが当たりアウトになると、ペナルティが発生する。

 ボウガンみたいに飛んでくる系もあれば、ロシアンルーレットみたいに自分で執行しなければならない系もあるが、ご安心を。

 全てのペナルティは頭の中に入っています。


 まず、莉果さんがヒット。

 『ハーフ&ハーフ』と言うペナルティ。

 どちらかが毒入りで、どちらかが普通のジュースと言うしょうもないもの。


「黒い方がコーラです。青い方は毒が入ってます」

「それガチのマジで!? 奈良原さん、ここでいつものボケ出したら、呪うからね!?」

「ひどいなぁ。俺がそんなに抜けているように見えます?」


 その場の全員が頷いた。

 ひどいじゃないですか。阿久津さんや佐々木さんまで。


 その後も、各コート順番に一人ずつ、順調に減らしていく。

 ペナルティは、バールが飛んできたり、手裏剣が飛んできたり、日本刀が飛んできたり、ドラム缶が降って来たり。

 かつては気付かなかったんですけど、俺、凶器飛ばすの好きですね。


 あと、ペナルティを避けたペナルティって言うのは中弛みがすごいから、次回からはヤメた方が良いですよ。


「ぎぃやぁぁぁぁぁっ!!」


 矢原さんには、頭上からヌルヌルローションが降ってきた。

 画的にも酷い。一番嫌なペナルティだ。


「なんで教えてくれへんのですかぁ!? 奈良原はぁぁん!!」

「いえ、絶対に死なないので、こんなグダグダのゲームをまだ見てくれている人にサービスは必要かな、と思いまして」

「いらへん! そんなもん! 慈悲の塊やな、あんた!!」


 そして、外野の二人が復活の権利を放棄。

 コートには、俺と佐々木さんの二人。


 ヒットの判定は、服についているセンサーが判断する。

 ただ、このセンサー、経費をケチるものだから、結構判定がザルである。

 相変わらず、詰めの甘さばかりが目立つデスゲーム。


「次はボーリングの球が飛んできます」

「発射口は?」

「あそこです。俺たちの左斜め向こう。十時の方角ですね」

「分かった。じゃあ、やろうか」


「阿久津さん、準備良いですかー?」

「おう! こっちは万端じゃ! 大山さん、気ぃ入れえよ!! 子供が待っちょるで!!」

「はい! 死に物狂いでいきます!!」


 彼らの手には、バールとドラム缶。

 20キロあるドラム缶を肩に抱える阿久津さん。

 なるほど、確かに怖いですね。


「じゃあ、行きますよ」

「いつでもどうぞ。失敗はするなよ」


 俺は、勢いよくボールを佐々木さんの胸に当てる。

 そして、跳ね返ってきたボールに今度は自分が当たる。


 おっちょこちょいのセンサーは、同時に当たったものと判断。

 とりあえず飛んできたボーリング玉を回避して、阿久津さんに叫ぶ。


「お願いします!!」


 コートの中がゼロになったため、鉄の扉がゆっくりと開く。

 が、両方の陣地でゼロと言う事を察知して、半分ほど開いたところで扉は止まる。

 その隙を逃す間抜けはそうそういませんよね。


「おるぅあ! おっしゃあ、挟まったで!」

「くっ……! はい! こちらも、バールをみぞに噛ませました! 動きません!!」


 退路を確保。



 ——これにて今回も無事に、ゲームクリア。



 当然、このあとが本番ですよ。

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