第15話 デスドッジボール開始
『では、チーム分けをして下さい。ここで時間をかけられると視聴者の皆様の興が冷めますので、制限時間を設けさせて頂きます。3分でお願いいたします。その時間が過ぎると、頭上から鉄骨のプレゼントが舞い降りますよ! ふふふっ』
ゲームマスターの仕掛けた「お金」と言う名の魔法。
その効果が発揮されている事実にようやく俺が気付きます。
「皆さん、とりあえず、力配分を均一にして分かれましょう。運動が苦手な方をなるべくサポートできるような布陣を取るのが理想的です」
俺の言葉に反応してくれたのは、約半数。
そうなると、残った半数は。
朝の弱い幼馴染などは大変愛おしいが、視野の狭い救世主気取りほど頭の痛くなる存在もそうはいません。
「悪いけど、ボクは君の提案から降りることにするよ」
「はい。……佐々木さん? すみません、ちょっと意味が分かりません」
性善説を声高に叫ぶつもりもないが、よもや他人の命をオカズに飯を食える人間がいるとは
そんな困ったちゃんな俺に現実を教えてくれたのは、この場の年長者である
「要するに、じゃ。あの
阿久津さんの言葉を合図に、俺たち8人は真っ二つに分断された。
こんな言い方をすると、まるで阿久津さんが俺たちを割ったように聞こえるが、むしろ感謝しなければならない。
制限時間がある以上、ここは討論をするべきではない。
何を置いても、まずは命を守るべき。
「自分も……! 借金あるんで! すんません!! お金、欲しいです!」
「
「いや、奈良原さん、そんな親し気に呼んでも翻意しませんよ?」
坂もっちゃんはリアリスト。
俺ならあだ名で呼ばれたら、全然知らない人でも親近感を覚えると言うのに。
「……オレも、そっちの金に汚い連中に入れてもらえるか?
「どうぞ、どうぞ。ボクとしても、優秀な人材は欲しいですし。自信があるようですから、期待しますよ?」
「ああ。これでも割と球技は得意だったんだ。もう十何年も前のガキの頃だけどな」
そんな!
ずっと喋らないで、強キャラ感が半端なかった矢原さんまで!?
いや、待て待て、落ち着かなければ。
とにかく、今は個人の主義主張よりも、制限時間だ。
あと1分しかないじゃないですか。
「あと1人分、人生の逆転チケットがあるけど、もう賛同者はいないのかな?」
佐々木さんの誘いに、俺以外の4人はだんまり。
いのちだいじに派が過半数を超えたのは嬉しいのだが、このままでは鉄骨の下敷きになって誰かが死んでしまう。
「若林ぃぃっ! おどれ、あっちに行けぇ!!」
「ええええええっ!? 僕ですかぁ!? なんで!? 心を入れ替えたのに!?」
「アホかこのボケぇ! 時間がある言うちょるじゃろがい! あっちのコートで無事を祈っちょけ! 奈良原の
阿久津さんの言うとおりです。
どんな状況になっても、俺のゲームで死人は出さない。
「若林さん、行ってください。大丈夫、絶対に生きて帰れるようにしますから」
「えっ!? マジで!? なんかあっちの空気が怖いんだけど!?」
「大丈夫です! 俺に殴りかかった時を思い出して!」
「痛かった記憶しかないよぉ!! ああ、阿久津さん、いや阿久津様! 睨まないで下さいぃぃぃっ!! 行きます、行きますからぁ!!」
こうして、チームが分かれた。
『いやぁー、ギリギリでしたねぇ。私としては、鉄骨で人間ジェンガ、なんてのも視聴者様にお届けしたかったのですが!』
コート内にそれぞれの陣営が入ると、お馴染みの鉄柵が出現。
全員に「これ、高圧電流走ってます! 絶対触らないで下さい!」と注意喚起。
『それでは、作戦タイムを3分与えます! こんな下級貧民に3分! まったく、上級国民の皆様はお心が広い!!』
このヨイショの感じ、聞き覚えがあるなぁと既視感。
だが、そんな既視感はとりあえずコートの外に放り投げた。
「こっちは当然じゃけど、兄ちゃんの指示で戦うけぇ、遠慮のう命令してくれぇ。そっちの嬢ちゃんは知り合いみたいじゃからええとして、大山さんやったのぉ? それでええか?」
「もちろんです。この中で明らかに一番鈍そうなのが僕ですから。奈良原くんに全てを賭けます!」
阿久津さんがバンバンと大山さんの背中を叩く。
「よう言うたわ! 家に子供がおるんじゃろ? 子供の顔を思い浮かべて、気ぃ入れぇよ! おう、どうした、兄ちゃん? 大丈夫か?」
阿久津さんの手回しが良すぎて、セリフを奪われていた俺です。
「ああ、いえ、どうして阿久津さんは俺なんかを立ててくれるのかなぁって」
「あ、それウチも思ってました! 奈良原さん、見た目相当抜けてそうなのに!! ゲームだったら絶対ハズレキャラだし!」
「ええ……。
「えー。むしろ、ウチ、男見る目はある方だと思ってんですけどぉー」
一番の身内だと思っていた莉果さんに背後から撃たれる。
ひどいじゃないですか。
「そりゃあ簡単じゃあ! いの一番に全員生かすっちゅう、一番難しい事言うた瞬間、ワシは兄ちゃんに惚れたんじゃ!」
「あ、すみません。俺、男性は守備範囲外で痛いっ」
「奈良原さんはマジでバカ! そーゆう意味じゃないから!!」
「がっははは! ええのぉ! 士気が上がってきよった!! つまり、仁義通す兄ちゃんのケツ持ちくらいするのが、年取ったもんの務めじゃろう!」
確かに、阿久津さんのおかげで俺たちは自然と一体感を得ていた。
すごい、これが上に立つ者にしか持てないと言われる、カリスマ性!!
「それで、奈良原くん。作戦は?」
「そうですね。まずは、向こうのチーム『お金大好き』を説得しなければなりません。それまでは、なるべくボールに当たらないで下さい」
「当たったらボールに書いてあるペナルティだっけ? それってどんなの?」
「20種類ほどあります。例えば、ボウガンの矢が飛んで来たり。氷水が降って来たり。当たりハズレに大きく幅を付けて、飽きさせないように苦労しました!」
「奈良原さんのバカ! なんでそんな作りこんでんの!? バカ、バカ!!」
「だって、俺、知らないで作ってたんですよ? 言ったじゃないですか」
「とりあえず、誰が外野行きます? 奈良原くんが指示で、阿久津さんは動けそうだし、
「避けるだけで良いなら、ケッコーやれます! ダンス部なんで!」
「じゃあ、僕が外野へ行きます。見ての通り、中年太りで動く自信ないですし」
そんなこんなで、初期配置も完了。
残った1分間は、阿久津さんと農業について語り、それを聞いた莉果さんに「時と場所を考えろし、野菜オタク!!」とお叱りを受けていたら終わった。
有意義な過ごし方だったと思う。
『視聴者の皆様! 生き残りレースのベットは済まされましたか!? 私のお勧めは奈良原! あれの狙われない理由が見つかりません! 鉄板ですよ!!』
人をディープインパクトみたいに言わないでください。
『はい。凄惨なデスゲームの幕開けです! ボールを持ったチームは1分以内に投げて下さいねー! じゃないと、ボール爆発しますから! 指くらい飛ぶんじゃないかな?』
ああ、そう言えば、直前で追加ルールを言うってギミックもあったなぁ。
そしてそれを伝達し忘れるミステイク。
もしかして、もしかしなくても、あちらのチームの不信感が上がっていませんか?
本当にすみません。ガチで伝え忘れです。
コミュ障あるあるなんです。許してください。
『ジャンプボール? そんな、子供じゃないんだから! ええ、ええ、得票の少なかった、今死んじゃいそうなチームボールからです! それでは、ゲーム開始します!!』
始まってしまった。
この状況下でも、攻略法は思い付いている。
あとは、どうそこまでゲームを誘導するか。
「ちょっと! 奈良原さん、ボール爆発すんでしょ!? 早く! やっ、ちょっ、こっち向かないで!! 怖い、怖い怖い!!」
「あ、そうだった! これは失敗! 大山さん、パス行きますよー!!」
「えっ!? 奈良原くん、ちょっと、高いって!」
俺の投げたボールは、大山さんの頭上を越えて、鉄柵に接触。
カッ! と光ったかと思えば、次の瞬間にはもう火の玉になっていた。
「ほ、ほらぁ! これは本当のデスゲームなんですよ!? 皆さん!!」
「だっさ……。奈良原さん、カッコ悪っ! ってか超不安なんだけど!!」
莉果さんの言う通り。
前途は多難です。
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