【完結しました!】そのデスゲーム作ったの、俺です。 ~会社をクビになったのでスローライフを始めたのに、やたらと命を狙われるため全て返り討ちにします~
第14話 説得と解説と策謀 参加者の顔と名前が一致しないピンチ
第14話 説得と解説と策謀 参加者の顔と名前が一致しないピンチ
「とりあえず、皆さん、自己紹介しませんか? このゲームはチーム戦ですので、お互いある程度の情報を出さないとですね、ゲームがアレです。ええと、まあ、良いか。あの、このゲームで全員生き残る策がですね……。はい」
俺はこのデスドッジボールの攻略法を既に把握している。
そのため、それを皆さんに伝達したかった。
だけども、諦めた。
具体的には「このゲームはチーム戦」の辺りで諦めました。
「あ、これ俺のコミュ力じゃ絶対伝えられないなぁ。しまった、晩御飯の味噌汁を冷蔵庫に入れ忘れたなぁ」とか思った時点で諦めました。
途中で味噌汁の事を考え始めたのが挫折の証。
コミュ力ってどこかで売っていないでしょうか?
「お前! なに仕切ってんだよぉ! 一番怪しいヤツが仕切るなよぉぉ!!」
「なるほど。若林さんの言う通りです。あ、俺は奈良原と申します」
「知ってるよ! さっき聞いたよ!! バカにしてるなぁ!?」
コミュ力、出来ればデリバリーでお願いします。
「じゃあ、君が仕切るって言うのかい? 見たところ、この場で一番バカそうだけど。僕は大山。家には子供が待っている。絶対に生きて帰らなければならない」
「う、うっせぇ、おっさん!! じゃあ、そっちのスーツ着てるおっさんが仕切れよ!! 明らかに一番ジジイだろ!?」
若林さん、軽やかに進行役を指名。
そうか、これがコミュ力!
「……ジジイっちゅうんは、もしかしてワシの事を言うちょるんか? ワシぁ、これでもまだ46なんじゃがのぉ。ほうか、ワシはジジイか?」
どうやら俺が探しているコミュ力じゃなかった模様。
若林さんが乱暴に指名した人は、若林さんの500倍乱暴そうだった。
「あ、ひぃっ!? て、てめぇがいけねぇんだ! 全部よぉぉぉぉっ!!」
そして何故か俺に向かって殴りかかって来る若林さん。
なるほど。さてはあなたもコミュ障ですね?
「ふんっ」
「でゅぇあっ」
俺もタダで殴られてあげるほど安くできてはいないので、回避しながら優しく投げて差し上げた。
「危ないじゃないですか。ゲーム始まる前から怪我しに行くとか、ちょっと若林さんは考えが浅いなぁ」
「
若林さんの内股パンチが思わぬ副次効果を呼ぶ。
一番発言力のありそうな強面のおじさんが、俺の話を聞きたいと言う。
考えるまでもなくこれはビッグウェーブ。乗らねばなりません。
「ありがとうございます。ええと」
「
「なるほど、保育士の方ですか? 俺は奈良原と言います。よろしくおね痛いっ!?」
綺麗な手のひらの付け根を追うと、そこには
なかなかスナップの利いたビンタでした。
「奈良原さん、バカでしょ!? つーか、バカ!! お、御日様組って、アレだよ!? や、ヤクザ! この辺に住んでたら知ってるでしょ!?」
「ああ、すみません。俺、最近引っ越してきまして」
「いや! その前に見た目で気付いて!! あんな、顔に縦の傷入った保育士の人なんていないし!? ナシなんだけど、マジで!!」
「これは失礼しました。ヤクザの阿久津さん。お勤めご苦労様です。痛いっ!?」
「バカ! もうハッキリ分かった! 奈良原さん、ホントバカ!!」
やたらと引っ叩かれて痛かったが、これが更にいい方向へと転がる。
もう、何が正解で何がダメなのか分かりません。
「話してみなよ。ボクは佐々木。聞いてから使えるかどうか判断してやる」
「自分も聞きたいです! 坂本です!」
これ、いきなり話し始めて大丈夫なヤツですか?
「急に早口になってんじゃないよ」とか言われません?
そんな悩みを抱える若者を助けてくれるのは、ナイスミドル。
「ええから話してみぃや。途中で話の腰折るヤツぁおらんじゃろ? まあ、おったら、ちぃっとワシが仕置きするかもしれんとだけ言うちょく」
ヤクザさんの発言力ってすごい。
すごいを越えてもはやロックだ。ハードロック。
「あー。えー。それじゃあ、説明させて頂きます。このデスドッジボールは、両陣営で内野がゼロになった方の負けになるんですけども——」
俺は、なるべく分かりやすいよう、忌々しいがかつて会社勤めだった頃の企画プレゼンを思い出しながら、誠心誠意説明した。
ゲームの終了条件は、『内野の数がゼロになる』事。
このゲーム、内野がゼロになると、『復活』の権利を保有している外野のプレイヤーが内野としてコートに戻れるのだが、そこを利用する。
外野のプレイヤーが、敵プレイヤーをアウトにすると、再び内野に戻る事の出来る権利を得られる。
最初から外野のプレイヤーも同様。
そのタイミングで「戻る」権利を放棄するのだ。
すると当然、両陣営の内野がゼロになり、ゲームは終了。
外野は「絶対に内野に戻らなければならない」と言うルールはなく、代わりに「保有する残機を他人に譲渡できる」と言うルールがある。
これは、参加者同士のライフの奪い合いの活性化を目的としたギミックなのだが、それを逆手に取ると、誰も死なずにゲームは終わる。
「金と命を天秤にかけたら面白い」とか「力のない者でも策謀で優位に立てる」などと、実にいやらしいアイデアを詰め込んだものだ。
もちろん、道中、命を奪うための仕掛けがバンバン出てくるので、それを全員で回避しながら、と言う前提条件は付きますが。
それは、前回のゲーム同様、完全に把握している俺が指示を出せばいい。
以上の情報を、俺は丁寧に説明した。
「マジかよ! あんた、ガチでこのゲーム作った人なんだね!」
「はい。ガチです。ええと、山本さん」
「これで希望が見えて来た! あと、坂本です!」
俺と莉果さんを除いて、知らない人が6人。
その一人一人の顔と名前を一致させることが、俺にとって最大のハードルだとハッキリ分かりました。
コミュ障を舐めてはいけません。
基本的に人との関わりを避けるから、いざ濃厚接触者になると、顔と名前を一致させるのに相当の時間を要する。
爆ぜろリアル、弾けろシナプス。主に頑張れ、俺。
限界を超えるのです。全員の顔を脳に刻み込むのです。
だって、
俺は、与えられた時間を精一杯使い、なけなしのコミュ力を総動員し、参加者の皆さんと一人ずつお話をさせて頂いた。
そして、どうにか全員の名前が整理できたところで、ゲームマスターがモニターに現れる。
まるで、俺の準備を待っていてくれたようです。
もしかして、ゲームマスター、良い人なのでは?
『ルールの説明を致します。と言っても、そこの奈良原くんが概ね説明してしまっているようですが。重複する部分もありますが、まあお聞きください。なにせ、命がかかっておりますので』
そして説明される、デスドッジボールの概要。
俺の把握している通りの内容であり、ホッと胸をなでおろす。
が、それも束の間。
ゲームマスターは、予期せぬ事を付言した。
世の中、「これで大丈夫」と思った瞬間が危ない。
便意を我慢している電車の中。
駅について「助かった」とトイレに走ると、清掃中の看板が。
それほどの絶望感はないものの、それなりに厄介な問題が降って湧いた。
『そうそう。生き残ったチームには、5千万円の賞金が出ます! 良いのですか? 仲良しゲームで一攫千金のチャンスを不意にしても。ついさっき知り合った人の命と、お金、どちらに価値を見出すかは人それぞれですよねぇー』
言われて気付く、自分の作ったいやらしいルール。
そうだ、とにかく結託させないように、こんなギミックも仕込んでいたわね、と、俺は静かに頷いた。
『復活』の権利のやり取りも、この賞金がベースになっているのでした。
人間性を疑いたくなる罠ですよ。
命とお金、どっちが大事か。
そんなもの比べるまでもないではないですか。
俺の気付かないところで、数人の目が怪しく光ったのだが、それをまだ俺は知らない。
のんびり屋さんな性分が、ここぞとばかりに奮い立つ。
人に自分の価値観を押し付けてはいけない。
この時点の俺に与える教訓は、これに尽きます。
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