第5話 分かりやすい罠にはまるゲスの人
「ここまでの点灯パターンで、残り3回、どこが選ばれるか分かりました」
「マジでか! やっぱすげぇな、
「これで私たち、助かっちゃうんですか!? 奈良原さん、ありがとうございます!!」
「いえ、俺がこのゲームを企画しなければ、こんな事になっていなかったような気がしますけど……」
頭を下げる俺に、鳩山さんが首を横に振る。
この人がまともな意思表示をするのは初めて見るが、何事でしょうか。
「奈良原さん、それは違うよ。あなたがこのゲームを作ってくれていなかったら、多分別のゲームに巻き込まれて、ここに居る全員が死んでいたと思う」
「そうだぜ! 良い事言うな、おっさん!!」
「君も、ペタジーニさんだったね? 僕のためにありがとう。とにかく、僕たちは奈良原さんが居なければきっと不運で、あるいは理不尽で死んでいた」
「おう! ペタジーニじゃねぇどな!?
そう言ってもらえると救われる思いです。
鳩山さん、案外と運命論者でロマンチストのご様子。
口数が増えて来た事も良いですね。
『まったく、ここまで言う事を聞かないクズたちは初めてだよ。3回目の指示に行くから、よく聞いとけよ! 黄色と見せかけて緑ではなく赤の隣の黒の前!』
「えっ!? あ、あれ!? 何色ですかぁ?」
「お、おちけつ、けつおち! お姉ちゃん! 確か、黄色じゃなくて、緑か!」
「二人とも、何を言っている。最後に言ったのは黒だろう!」
「みんな、惑わされているよ。僕らに今回、色の指定はされていない」
鳩山さん、正解。
3回目は、場所を突然指示すると言う、心理的な動揺を誘うパターン。
想定では、この時点で何人か死んでいる予定なので、ここはさらにメンタルを攻撃して参加者を弱らせようと画策した覚えがある。
いや、仕方がないじゃないですか。
そういうゲームだと思って作っていたのだから。
仕事に真面目、給料に正直が俺のモットーだったのです。
「皆さん、落ち着いて下さい。今いるパネルの4つ向こう、その一つ左が目的の場所です。えーとですね、そのー、アレが、あのー。はい。やっぱり良いです」
「いや、言えよ!! 諦めんな、コミュ障!!」
「鳩山さん、大丈夫ですか? 歩けます? 私、肩貸しますよ?」
「ああ、ありがとう。君は、こんなおじさんまで気にかけてくれて、優しいねぇ」
「あ、いえいえ! とんでもありません! 私、お父さんが小さい頃に死んじゃったので、その年頃の男の人を見ると、お父さんだって思っちゃうのかもです!」
「あああ!! 僕はちょうど離婚したばかりでね……。娘は君より少し年が下だけど、昔は優しかったんだよ。最後の方は僕の服を洗濯機から叩き出していたけど」
「
「おっしゃあ! 行くぞ、奈良原! あと、スーツのヤツ!! ゲス
「
ワチャワチャと喋りながら、目的のパネルに到着。
緊張感もある程度薄れて来て、各人動きが良くなってきている。
ただ、緊張感の欠如まで行かれてしまうと話は別。
まあ、命の懸ったこの状況でそこまで精神を弛緩させる愚か者はいませんよね。
『ボーナスチャーンス! おや、皆様の前に、何かありますね! おやおや、これはもしかすると!! 金塊じゃありませんか!?』
ああ、さっき言い掛けたヤツですね。
確か、罠のギミックを増やせとか言われて、「ハズレ罠も一つくらい入れときましょうね」と、一番適当に作ったヤツです。
こんな張り詰めた状況で、そんな愚行に誰が走ると思います?
だから言わなかったんですよ。
「おい、よせって! ゲスのヤツ! 戻れって!!」
「へ、平気さ! ちょっと取って、すぐ戻れば何の問題もない!」
世の中には、いろんな人が、いるんだなぁ。
コミュ障、心の俳句。
そして下須沢さんは、黒いパネルに飛び乗って、金塊をゲット。
実に生き生きした表情である。
そして上がって来る鉄柵。
捕まる下須沢さん。
生き生きした表情は定時退社したようで、もう誰も残っていなかった。
「た、助けてくれぇぇぇ!! これ、時間が来たら電流が来るんだろ!?」
「流れます。普通に流れます」
「た、たすけ、助けてくれ!! そうだ、この金塊を半分やろう!!」
そんな、ドラクエのボスみたいな誘惑の仕方ってあります?
「ちなみに、それ、ただの銅ですよ。俺の企画通りなら」
「ブローンズ!! サノバビッチ!! ファッキュー!!」
急に汚い英語を吐き出した下須沢さん。
ここぞとばかりに、ゲームマスターが横槍を入れる。
もう電流が来てもいい頃なのに。性格が悪いなぁ。
いや、まあ、そのポンコツのおかげで死者が出ていないのですが。
『その下須沢と言う男、中学校で英語教師をしていたのですが、生徒にわいせつな行為をして、逮捕。現在保釈中の身と言う、この世のゴミです!』
明らかな悪人を参加者に混ぜて、ヘイトを買わせたり、協力体制を整えられている場合はそれを瓦解させるべし。
企画書に書きましたね。俺が。
「おっさん、中学生に手ぇ出したんか? それ、マジのヤツ?」
「ち、違う! 待ってくれ!! 中学生だけじゃなく、小学生と高校生にもした! バランスを考えて!!」
自分で傷口を広げていくスタイル。
「な、なあ、助けてくれよ? みんなで生き残るんだろう?」
「同じ年頃の娘を持つ親としては、あなたの
鳩山さんはご立腹。
「どうしますか? 奈良原さん。私は、奈良原さんの意思に従いますよ!」
「小瀬川さんは、ちょっと人を疑ったり、憎んだりする事を学んだ方が良いかもしれないですね」
「そうですかー? 私、これでも疑り深いほうですよ!?」
「そうですか……。俺で良ければ、相談に乗りますから。何か困ったらおっしゃって下さい」
「わぁ! 奈良原さんって、やっぱりすごく良い人ですね!!」
彼女の動向にも注意すべしと俺の経験が警告。
経験ごときに
下手をすると、このメンバーの中で一番危うい。
とは言え、とりあえず、ゲスの人の救出でしたか。
「おい! 助けてくれよ! この金塊やるから!」
「それ銅の塊だってさっき奈良原が言ってただろうが! つか、お前、調子良すぎんぞ!?」
「そう言わずに! 君だって、銅線盗みそうな風体じゃないか!」
「おまっ、ぶっ殺すぞ!?」
放っておいても死にますよ、とはさすがに言えない。
俺にだってそのくらいのエチケットはあるみたいです。
「鉄柵、丈夫に出来ていますから。足が掛けられるギリギリの高さにその銅の塊を差し込んで、足場にして下さい。あとは、こっち側で誰かが引っ張れば恐らく抜け出せます。と言うか、急がないといつ電流が来るか分かりません」
俺の説明を聞いて、ペタジーニさんが怒りの抗議。
「おい、あんなの放っとけって!」
「いえ、普通にまずいですよ。
少なくとも、ゲスのミディアムステーキなんて俺は見たくないです。
「お、おう。お前、冷静に正論言うの、ヤメろよ。……ったくよー。で、どうすりゃいいの?」
「ええと、こちら側からは、誰かを踏み台にして、ペタジーニさんにゲスの人を引っ張り上げてもらいましょう。馬には俺がなりますから」
「おっしゃ! 力仕事なら任せろ!」
この人重たそうだなぁと思いながら膝をつくと、鳩山さんが俺を呼ぶ。
「僕が馬になるよ。この太った体が役に立つなんて、このタイミングしかないだろうから」
「いや、しかし言い出したのは俺ですから」
「それを言えば、命を助けてもらっているのは僕の方だよ」
「おおっ! おっさんデブってるだけあって、安定感がパネェ! おら、行くぞゲス野郎! 急げ、急げ!! せぇぇぇの!!」
「ぐげぇ」
こうして、ゲスの人は無事に回収。
直後に走る電流。間一髪でしたね。
と言うか、ゲームマスターが普通の人だったら死んでいましたよ。
引っ張り上げる時に胸を擦ったか、ゲスの人のシャツはボロボロ。
肌があらわになっている。
けど、まあ、嵐も昔スケスケの服を着て踊っていたから、平気ですよ。
偶然とポンコツに助けられて、ゲームはどうにか半分を過ぎ、後半戦へ。
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