第4話 デスツイスターゲーム開始

『それでは、皆様、お時間です。泣きわめく用意はできましたか? このゲームをご覧になられている上級国民の方々を意識して下さいね! パネルの数は教えません! けれど、端から端までは結構距離がありますねぇー。私なら走れないかなぁー』


『ルールは簡単! 私の指示に従うだけ! 無事に5回クリア出来たら、解放してあげますよ! 時々お邪魔もしますから、そこにも気を付けて下さいね!』



「なあ、このクソむかつくスピーカー、叩き壊しちゃダメか?」

「不愉快と言う点に関しては俺も同意見ですが、ダメです。それをすると、指示が受け取れなくなって、一手目で詰みます」


 俺たちの連携を見て、スピーカーの主が煽りにかかる。


『おや、随分と仲良しになられたようで! でも、良いんですかねぇ? 信用していたら、後ろからドンと背中を押されるかもしれませんよ?』


「言ってろ! 寝込み襲って人様を拉致してくるカスどもよりは、よっぽどこっちのコミュ障の方が信用できらぁ!!」

「そうです! 奈良原さんはとってもいい人なんですから!!」


 小瀬川おぜがわさんが俺の名前を口にした瞬間、スピーカーの向こうで「奈良原ならはら?」と呟いたスピーカーの主は、そののち、「げぇっ」とブタのように悲鳴を上げた。


「はっ!!」

「どうした? うちの生命線!! キタか!? 圧倒的ひらめきか!?」

「はい。今、俺は閃きました」

「えっ? えっ? さらに良い作戦を!? 凄いじゃないですか! 聞かせて下さい!」

「俺の農場はまだ小さいですが、ゆくゆくは豚を飼うのも悪くないかと」

「わぁー! それはステキですね! 養豚ようとんは大変と聞きますけど、応援します!!」


「マジで、うちの生命線、ほっそいなぁー」



『失礼しました。それでは、ゲームを始めますが、よろしいですか?』


「いや、俺たちに準備を聞いていちゃダメでしょう? 皆さん、このゲームマスター、結構ポンコツです。希望が見えてきました」


『な、奈良原ぁ! いつもお前は、そうやって冷めた目で人の事を見下して!!』


「奈良原がそれ言う? って思ったけど、なんか意外と効いてんな? あちらさん、もしかして、お前の元同僚とかなんじゃね?」

「ああ、なるほど。可能性はありますね」


「じゃあ、呼びかけてみるのはどうでしょうか? 同じ職場で働いていたよしみで、もしかしたら助けてくれるかもです!!」

 小瀬川さんのアイデアは、俺には決して思いつかないものばかりだなぁと感心。

 聞く価値も充分にあると思われ、俺は早速呼びかけてみた。


「ゲームマスターの人。俺の知り合いでしたら、助命頂けませんか? こんな小規模なゲームを任されているようでは、多分平社員でしょうし。それなら、ミスで許されると思うので、どうかご一考下さい」


『ふ、ふざけるなよ、貴様!! 絶対に殺してやる! お前だけは、アレだかんな、マジでもう、考えられないくらいにアレな殺し方してやる!!』


「いや、アレな殺し方って。方法は精々2つしかないでしょうに。やっぱり頭が悪いですね、あなた」



「お前の元職場、コミュ障じゃないと入れないの?」

「はい? そういう訳ではないと思いますが」

「ああ、そう。今の皮肉が通じてねぇ時点で、結構その説が有力になったよ」



 事前交渉はどうやら決裂。

 と言うか、むしろ交渉する前よりも険悪な関係になってしまった。

 何故でしょう。


『とにかく、そこの5人! 絶対にその部屋から生きて帰さないからな! 覚悟をしておけ!!』

「やれやれ。ついに私怨しえんで喋り始めましたか。クライアントの方もご覧になっているでしょうに。査定に響きますよ」



 この無意味に思えた舌戦が意外な副産物を生み出していた。


「なあ、あんた、このゲームの関係者なのか?」

「はい。ああ、いえ。正確には、かつて関係者だったような者です」

「それを早く言ってくれ! だったら、ボクも協力するぞ! おい、そっちのおっさんも、いい加減に立って、こっちに来たらどうだ!」


「……どうせ僕は死ぬんです。離婚したばかりだし。分配した財産はビットコインで全部溶かしたし……。しかもデブ。こんな僕じゃ、生き残るのは無理でしょ?」

「ええ。死にます」


「おい、奈良原! そんなストレートに言わんでも! 百貫のデブにも五分の魂って言うだろ!?」

「言います? 質量の割に魂が軽すぎませんか?」

「おう、そっか! 言わねぇや! すまん、デブのおっさん!!」


「えー。あー。はい、あのですね、言葉足らずでした。俺の指示に従ってもらわなければ、多分死にますと言いたかったんです」


「ぼ、僕を助けてくれるのですか!?」

「絶対にと保証はできませんが。可能な限り、全員で生きてこの部屋を出ましょう」

「大丈夫ですよ、みなさん! 奈良原さんはとってもすごい人なので!!」

「オレはお姉ちゃんのプラス思考が眩しいよ」


『始めるぞ! 始めるからな!! 最初の色は、緑!! こちらが色を指定して10秒後に、その色以外のパネルには、人が黒焦げになるレベルの電気が流れる!!』



 ものすごく雑にデスツイスターゲームが始まった。


「みなさん、とりあえず右端の緑のパネルに移動しましょう」

「どうしてだ!? 真ん中よりの方が、次の移動出来る場所が多いじゃないか!」

「良い質問ですね。ところで、スーツの方、お名前は?」

下須沢しもすざわだよ! 池上彰みたいな事言ってるけど、大事な事は何一つ言ってないぞ!?」


 下須沢さん以外のメンバーも、とりあえず俺の指示に従ってくれているようなので、一安心。

 一手目、真ん中に行くと詰みます。

 中央に立つと、二手目の目視が極めて困難になるんですよ。



「この足元のパネル、2回目の指示では勝手に移動を始めるんです。ど真ん中だと見通しが悪すぎて、全員で移動するのはかなり厳しいです」

「マジかよ!? お前、そんないやらしいギミック搭載させてたの!?」

「すみません。だって、絶対にクリアできない脱出ゲームを作れと言われたので、張り切ってしまいました」

「お前、仕事への情熱はねぇのに、仕上げは完璧とか! さとり系か!!」

「ありがとうございます」

「褒めてねぇわ! おっしゃ、全員緑に乗ったぞ? つか、おっさん! あんたも名前言っとけ! 咄嗟の時に困るだろ!!」


 ペタジーニさんの的確なアドバイスが光る。

 この人、見かけによらず頭が良いなぁ。助かります。


「はぁ、はぁ、ひぃ、ふぅ。は、鳩山はとやまと申します。へぇ、へぇ」

 鳩山さん、この距離の移動で既に死にそうである。

 この点は、俺の計画に修正する余地がありそうだ。


『ふふふ、まあ、1度目で脱落者が出ては興が冷めますので、まずは皆様、おめでとうを言わせて頂きますよ。ただ、次はどうでしょうかね!?』


 俺は、マイクに拾われないように、小声で内容を端的に伝える。


「この次、パネルがむちゃくちゃに動きますが、慌てないで、指示された色の、1番遠いパネルまで全力で走って下さい」


「分かった! いの一番に行かせてもらう!」

 下須沢さんは返事が良すぎて逆に不安。


「私、頑張ります! 最近ちょっと太り気味だったので、ちょうど良いです!」

 デスゲームでよもやのダイエットを敢行する小瀬川さん。

 死をまったく身近に感じていない点が不安ですね。


「は、はぁ、一番遠く、ですか? ま、間に合いますか、ね?」

 鳩山さんは不安と言うか、もうダメな気がします。

 早速手を打つべきか。判断に迷いましたが、人命優先でしょう。


「ペタジーニさん」

「あん?」

「早速、一つ目の緊急事態装置を使います」

「マジか。あー、あのおっさん、既に限界っぽいもんな」

「ええ。次の色指定の瞬間にお願いします」

「しゃあねぇな! 任せとけ!」


『次は、青! そして、パネルがなんと、動きまーす!! あっはっはっは! 慌てふためけ、この雑魚どもがぁぁぁぁっ! あっ?』


「では、皆さん。走って」


 俺の合図で、下須沢さんと小瀬川さんは良いスタート。

 俺もそれに続く。


 一方、ペタジーニさんは鳩山さんに肩を貸して、ゆっくりと動き出す。


『あらあらあらあら!! これは早速、こんがり焼けちゃいますかぁ!? 視聴者の皆様、ここは必見ですよ!!』


「ペタジーニさん、焦ってゆっくり急いでください」

「無茶言うな! これ、マジで大丈夫なんだろうな!?」

「ゲームマスターが俺たちの見立て通り、ポンコツで助かりましたね」


『はい、電流がドーン!! 2匹逝ったぁぁぁっ!! がぁっ!?』



 そこには、悠然とコートの外を歩いて指定パネルまで歩いて来たペタジーニさんと、鳩山さん。

 何が起きているのか分からない様子のゲームマスターに教えてさしあげよう。


「俺の記憶だと、プレイヤーがパネルに乗った時点で鉄柵を出して動きに制限を付けるはずなのですが。あなた、忘れてましたね? パネルのない外側、歩き放題ですよ? すたみな太郎ですか?」


 第二段階までは、順調にクリア。

 ただ、鉄柵の上げ忘れは実のところ、もう少し後まで取っておきたかった。


 ゲームマスターが『ぎいぃぃいっ』と言いながら、頑丈な柵を出現させてしまったからである。


 そして、正念場。3回目の指示が来る。

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