第3話 このデスゲーム作ったの、俺です。

「はぁ!? このゲーム作ったの、てめぇだって、そう言ったのか!?」

「はい。そう言いました」

「ってことは、スピーカーのヤツの仲間じゃねぇか! ぶっ殺してやる!!」



 自分のコミュ力のなさに軽く絶望した。



 協力できる者とは連携を取った方が生存率を高くするために肝要。

 そう思い、身の上を明かすのが最適かと考えた俺は、二人に向かって真実を告げる。


 ご覧の有り様でした。


 思えば、社会人になってからこっち、デスゲーム作る会社で事情も知らずに黙々とデスゲーム作って来た俺。

 デスゲームと知らずにデスゲーム作ってる時点でかなりアレですね。


 そんなかなりアレな環境で、ですよ。

 事務的な会話すらメールで行っていた期間が、軽く5年ほど。

 洞窟などの光のない場所で生きる魚は、視力が必要ないから退化するらしいです。


 どうやら俺もその魚の亜種。

 5年の歳月は、元からなかった俺のコミュ力を根こそぎ枯らしていたようです。

 昨日は畑に除草剤をまきました。

 雑草枯らすついでに、大切なものまで枯らすなんて、とんちが利いていますね。


 何がいけなかったのか。

 「このデスゲーム作ったの、俺です」と白状したのがまずかったのだろうか。

 それとも「ペタジーニさんの頭で理解できるか分かりませんが」と親切心で前置きしたのが気にさわったのだろうか。


 早々に俺の思い描いた協力体制は水泡に帰した。

 かと思われたが、世の中には稀有けうな人もいるものですね。


「まあまあ、ペタジーニさん! 奈良原さんのお話、聞きましょう? だって、悪い人の仲間だったら、正直にこんな事話してくれませんよ!?」

 小瀬川さんの心の広さに脱帽。


「バカだな、お姉ちゃん! そう思って騙しにかかってるかもしれねぇだろ!?」

 そして意外と頭の切れるペタジーニさん。

 彼の立場なら、俺もそう思います。


 とは言え、話し合いの場が継続されるなら、望むべくもない。

 俺は謝罪と感謝を述べるべきかと思われた。


「小瀬川さん、信じてくれてありがとうございます。ペタジーニさん、俺の言い方が気に入らなかったらすみません。俺、今気付いたのですが、口下手のようなのです。バカっぽい人にバカって言ったら、気を悪くされますよね。すみません」


「ほ、ほら! えっと、あの、正直! 根が正直な人なんですよ!!」


 必死のフォローに回る小瀬川さん。

 ああ、これはアレだな。また俺何か言っちゃいましたか案件ですね。


「……もう良いよ。さすがに、こんなガチのコミュ障を刺客に送り込んだって、効果は知れてる気がするしよ。オレも信じてやるよ、お前の話」


 何がどうなって好転したのかは分からないけども、二人が俺の話を信じてくれる状況が作り出せたのは幸いであった。


 ならば、説明は極力端的に。

 「自分が知らずにデスゲームの企画を担当していた事」と、「その結果、この状況で全員を救い出せる手段がある事」について、俺は語った。


「奈良原さん……! すっごく苦労されてるんですね……! 私、感動しちゃいました! ご自分も被害者みたいなものなのに!!」

「ああ、いえ。やっぱり、どちらかと言うと加害者寄りですよ。だって、デスゲームを作って、それにより給料を得て生活していたのですから」


「いいえ! 奈良原さんは被害者です!」

「いえいえ。俺は加害者ですよ」

「そんな! ご自分にもっと自信を持って下さい!」

「そうですね。自信を持って、俺は加害者です」


「なあ、その話、生き残ってからじゃダメ?」


 ペタジーニさんが俺と小瀬川さんの二遊間を綺麗に打ち抜いた。

 その見事な手腕に畏敬いけいの念を抱いた俺たちは、「いかにもその通り」と頷く。


「とにかくよぉ! まずは生き残るための作戦ってのを聞かせてくれや!」

「ああ、そうですね。分かりました。無駄なお喋りが過ぎました」


「ぺ、ペタジーニさん! どうか落ち着いて! 奈良原さんも悪気はないんです!!」

「……おう。良いよ。なんつーか、もう慣れた。あと、ナチュラルにオレをペタジーニ呼びしてるお姉ちゃんも、結構アレだぜ?」


「頭の準備はよろしいですか?」


「最初っからよろしいよ! てめぇ、オレがキレる前に早く話しやがれ!!」

「わ、私も、頑張って聞きますね!」


「この、デスツイスターゲームには、パネルの点灯するパターンが16種類しかありません。しかも、最初に点灯する色によって、4パターンまで絞り込めます」


「お、おう。そうか。お姉ちゃん、分かる?」

「私ですか? 全然分かりません!」

「ああ、そう。お姉ちゃんの、その前向きさ、オレも見習いてぇわ」


「全部で5回、色を指示されるのですが、それに従っていると、3回目か運が良くても4回目には、いわゆる詰みの状態になってしまい、基本的に死にます」


「マジかよ! 元から勝ち筋なんてねぇってことかよ!?」

「そうですね。生存者はゼロ人で設定されているはずです」

「ちなみに、どうなって死んじゃうんですか?」

「上から100キロの鉄塊が降って来ます。それで死に至らなくても、足元を流れる高圧電流に体が触れると、やっぱり死にます。裸足ですから」

「じゃあ、あんまり苦しくないんですね! 良かったぁー」


「いや、良くねぇよ!? 死んじゃうんだよ? お姉ちゃん、しっかりして!?」


「それで、攻略についてですが、基本的に俺が指示を出します。記憶が確かならば、生存できるルートが2通り残っているはずなので。このミスについて上司に指摘したのですが、そんなの見つかりこっないと却下されてしまいました」


「オレ、初めて自分を殺そうとするヤツに感謝してるわ。つか、そんな前の事まで覚えてたりよぉ、かなりの完璧主義なんだな、お前!」

「そうですね! 奈良原さんが居てくれるおかげで、希望が見えてきました!!」

「それで、パターンはどうなるんだ? 教えてくれ」


「いえ。忘れました。だって、入社してすぐに作った企画でしたから」


「上げて落とすのがうめぇな!? 湯切りが派手なラーメン屋かてめぇは!! この野郎、やっぱオレがぶっ殺すか!?」

「ダメですー!! 私の希望を勝手に殺さないで下さーい!!」


「覚えてはいませんが、基本のルールだけは把握しているので、後は最初と2度目のパネルの点灯パターンから、正解ルートを3度目の点灯までに割り出します」


「お、おう。マジか。お前、引くほど頭良いんじゃねぇか?」

「いえ、ペタジーニさんより少し良いくらいですよ。自慢できるものじゃありません」

「わわっ! 落ち着いて下さい! ペタジーニさん!!」


「いや、もう全然気になんねぇわ。むしろ、こいつ人から誤解ばっかされてそうで、なんか可哀想だなって思い始めてる」


 意外に良い人である。

 人付き合いに疲れてスローライフに到着した俺の人生であるが、出会う人が違えば、たどり着く場所も違ったのだろうか。

 そんなもしもを考える事自体、実に詮無せんなきことですけども。


「とりあえず、ゲームが始まったら、俺の指示に従って下さい。あと、緊急事態が発生する可能性があるので、一応確認しておきますが」

「おう。なんだよ。言ってみ?」

「四方のどこかから発射される、矢とか鈍器をキャッチって出来ますか?」



「できるかい!! お前、オレを何だと思ってんの!?」

「帰化したプロサッカー選手です」

「せめて野球! ペタジーニからよくサッカー連想したな!?」

「ではその選球眼でお願いします」

「野球選手でもねぇわ!」

「あ、牛ですか?」

「そうそう、外国産の牛肉も意外と美味いよね、って、アホか!!」



「分かりました。この場で一番体力があり、運動神経も悪くなく、話していると状況把握能力もありそうだったので聞いてみただけです。忘れて下さい」


 緊急事態マニュアルについては、諦めるしかないと判断。

 が、俺の肩を叩く屈強な腕が、待ったをかける。


「おい、オレ、元はプロボクサー目指してたんだぜ? 動体視力にゃ自信がある!」

「えっ? 巨人の四番を目指していたんじゃないんですか?」



「指摘した事をすぐに生かそうとする姿勢は大事だけどよぉ!! ペタジーニからいい加減離れろよ! オレはペタジーニじゃねぇんだよ!!」



 こうして、緊急事態マニュアルをペタジーニさんに伝授。

 時を同じくして、スピーカーから「ザザッ」と音がする。


 時計を確認。なるほど、刻限ですね。

 ゲームが始まるようです。



 俺の作ったデスゲームが。

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