デスツイスターゲーム編

第2話 すごい勢いで俺の代わりに質問してくれる人

「あ、あの! 急にごめんなさい! 私の事、分かりませんか!?」


 さて、どうしたものかとあぐらをかいていた俺に、女の人が声を掛けてきた。

 「クラスで孤立するはみ出し者に優しい委員長タイプですか?」と思うも、どうもその類の気遣いではないようで、ちょっとだけガッカリした。


「いえ。どこかでお会いしましたか?」

「あ、そうですよね! すみません、私ってば、自分が知ってるからって勝手に! あの、えっと、ごめんなさい!!」


 彼女は酷く錯乱しており、このままでは会話が成り立たない。

 別に紳士道を気取る訳でもないが、少し話し相手になってあげよう。


「まあ、落ち着いて下さい。俺の事をご存じなんですか?」

「へっ? あ、はい! いえ!!」

 それはどちらでしょうか。判断が付きません。


「ああ、つまり、俺の事を見かけた事がある、とかですか?」

「そ、そうです! あの、道の駅・さけぐちに、お野菜出荷されてますよね!?」

「ええ。ありがたい事に、まだまだ出来の悪い野菜を置いてもらっています」


 彼女の顔がパアッと明るくなった。


「ですよね! あ、申し遅れました。私、今年からその道の駅で働いているんです! 小瀬川おぜがわ凪紗なぎさと言います! 19歳です!!」

「なるほど。それで俺の事を。いつもお世話になっております。奈良原ならはら新汰あらたです。23歳です」


 年齢を言う必要があったのか判然としない自己紹介を終えると、小瀬川さんはさらに続けた。


「こ、これって、ドッキリとかでしょうか!? 私、テレビとか詳しくないんですけど……。そういう企画なのかなって」

「いいえ。多分、と言ってもほぼ確信に近い多分ですが、ガチのデスゲームですよ」

「えっ……。あの、それって、命を懸けてって言うの、ホントって事ですか!?」

「はい。残念ながら」


 そこまで俺が言うと、タンクトップの人がスピーカーに向かって怒鳴り始めた。


「おい、てめぇ! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! ああん!?」

『ご質問があればどうぞ? 可能な限りお答えしますよ』

 スピーカーの向こうで偉そうな声がする。

 生理的に嫌いなタイプである。きっと、ろくなヤツじゃない。


「ここから出しやがれ!!」

『ぷっ、くくっ。ああ、失礼。それは質問ではありません』


「ちっ。じゃあ、なんでオレらが閉じ込められなきゃなんねーんだ」

『同じ地区にお住いの方から、ランダムに選びました。無論、お亡くなりになった際、不都合の少ない人を優先しております』


「小瀬川さん、ご家族は?」

「母と二人暮らしです」

「それは酷い。運営にクレーム付けた方が良いですよ。なんていい加減な選定方法だ。責任者の顔が見たい」

「あの、奈良原さんは、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」


 その事情は話しておくべきかもしれないが、タイミング的に今じゃない。

 出来れば、全員揃ってからが理想かと思われた。

 なにより、怒れるタンクトップの人が未だにスピーカーとケンカしている。


 彼は俺が聞きたかった情報を次々に引き出してくれる。

 打ち出のタンクトップだろうか。ありがたいことです。


「そもそも、てめぇら、何の権利があってこんなことさせやがる!」

『ふふふ、この世は富裕層が回しているのです。そして、その富裕層の、言わば上級国民の皆様に刺激的な見世物を提供するのが、私どもの仕事でございます』


「なんだと!? じゃあ、オレ達はその顔も知らねぇ金持ちのために命懸けなきゃいけねぇのか!?」

『物分かりが早くて助かります。見かけによらず、案外さといようですね』

「っざけんなよ! てめぇがこっち来いや! タイマンで勝負じゃ!!」


『もう質問はないようですね。それでは、ゲームは30分後にスタートします。それまでに相談するも良し、ライバルを殺害するも良し。有意義にお過ごしください』


 また随分と勝手な事を言い残して、スピーカーが黙る。

 ただでさえセンシティブな状況なのに、油をまいて行かないで欲しい。

 誰かが火を付けたら責任は取れるのですか。


 あと、ライバルを殺害する理由が分かりません。

 盛り上げるのヘタクソですか。ノリで言いましたよね?


 それにしても、これでカラクリはほとんど解けた。

 俺が勤めていたゲーム会社。

 あれは表の顔で、裏ではこの、いわゆるデスゲームを作っていたらしい。


 今思えば、明らかにおかしい点が多々あった。

 基本的に閉鎖的な空間で行うゲームばかり作らされたし、そのうちの何人かは死ぬように設定したし、あっと驚く逆転のギミックも必須と言う縛りがあった。



 デスゲームじゃないですか。



 まさか、俺の作ったゲームに、どこかの誰かが生き死にを懸けていたとは。

 知らなかったこととは言え、これはものすごく後味が悪い。


 そこで俺は考える。

 贖罪しょくざいにはならないかもしれないが、この場にいる、彼ら全員をゲームから無事に脱出させよう。

 それこそが俺の使命であり、玉ねぎの納期を守るために残された最後の手段だとも思われた。


 人の命と玉ねぎを同列に置くな?

 玉ねぎは人を食べないけど、人は玉ねぎを食べますよね。

 むしろ、あがたてまつるまであります。



「皆さん、お話があります。とりあえず、自己紹介でもどうですか?」


 時間を与えてくれると言うサービス。

 これを利用しない手はない。

 なにせ、このゲームを作ったのは俺。

 攻略法も知っているし、全員生存ルートへの分岐だって全然余裕。


「冗談じゃない! 今から殺し合う人間と慣れ合えないな!」

「……………もう嫌だ」


 スーツの男性と、中年の男性には拒否されてしまった。

 最初に発言したのがまずかったか。

 無駄な警戒をさせてしまったかもしれない。

 あと、殺し合わないでも良いんですよ? 場に酔わないでください。


「オレはあんたの意見に乗ったぜ! 協力しねぇと生き残れねぇ! なあ、そっちの姉ちゃんもそう思うよな!」

 タンクトップの人……。

 俺の聞きたい事をほとんど聞いてくれた上に、協力的だなんて。


「ありがとうございます。俺は奈良原新汰。彼女は小瀬川凪紗さん。あなたのお名前を伺ってもいいですか?」

「おお! 辺田尻へたじり晴矢はれるやって言うんだ! よろしくな!」

「よろしくお願いします。ペタジーニさん。日本語お上手ですね」

「誰がペタジーニだ! てめぇ、ケンカ売ってんのか!? つか、日本人だわ!!」



 俺とペタジーニさんの信頼関係が早くも瓦解した。



「あれ? でも、今、ペタジーニって言われましたよね?」

「あ、はい。私にもそう聞こえました」

「言ってねぇよ! 辺田尻、へたじりだ!! 名前も晴矢だよ!」

「ああ、帰化されたんですか? ハレルヤ、縁起が良さそうでいいですね」


「てめぇ、ガチでケンカ売ってんな!?」

「えっ? 本当に外国の方じゃないんですか?」


「ったりめぇだろ! 日本から出たこともねぇよ!」

「でも、髪が金色じゃないですか」

「染めてんだよ!」


「むちゃくちゃ色黒ですし」

「日サロだよ!!」


「鼻に大きな輪っかついてますし」

「ピアスだよ! オシャレ!! つか、最後の関係なくねぇか!?」

「あ、人じゃなくて牛ですか?」

「人だよ! 人類!! ホモ・サピエンス!!」


「まあまあ、お二人とも! 落ち着いて下さいよぉ! 私たちでケンカしてたら相手の思うつぼですよ!」

「小瀬川さんの言う通りです。水に流しましょう、ペタジーニさん。ああ、違う。へたじーりさん」


「……もう、ペタジーニでもなんでも良いわ。オレの負け」



 何となく親睦も深まったところで、俺は早速、話の核心を語ることにした。

 簡単には理解を得られないかもしれないが、この情報を共有できるかどうかが、デスゲーム攻略の鍵である。



 俺は、ひとつ咳払いをして、言った。


「お二人に話しておくべき事があります」

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